GOURMET

2023.10.07

長野のマンズワイン小諸ワイナリーは、なぜ“世界一のワイン”を生み出せるのか

日本ワインらしさとは何か? 常に自問し、苦悩しながらも己の信じる道をひたむきに歩む。その姿勢が、日本ワインの品質を高め、世界に誇れるワインを生みだしていく。次世代の造り手の代表格、長野県「マンズワイン」の西畑徹平氏を訪ね、話を聞いた。【特集 日本ワイン】

マンズワインの西畑氏

「日本ワインらしさを追求し世界へと伝えていきたい」

長野県にあるマンズワイン小諸ワイナリーの快進撃が続いている。フランスで開催の超難関コンクール、ヴィナリ国際ワインコンクール甘口部門で「ソラリス 信濃リースリングクリオ・エクストラクション2021」が部門最高賞(実質世界一! )にあたるパルム・デ・ヴィナリを、赤ワイン部門では「同 ラ・クロワ2018」での金賞を受賞。特に前者では、甘口ワインとしては名高いボルドーのソーテルヌを上回る高評価だ。

それだけではない。日本国内でも日本ワインコンクールで2年連続でのダントツの最多金賞を受賞。マンズワインは今、向かうところ敵なしといった勢いだ。

60年以上の歴史を持つマンズワインには、大手といえども比較的クラフトマンシップ的な社風を感じる。ローテーションで数年毎に担当者が代わることはなく、同じ造り手が長年にわたって、ワイン造りを担うのだ。

その造り手が栽培・醸造責任者の西畑徹平さん。彼こそが快挙の立役者だ。40代前半でマンズワインのプレミアムブランド「ソラリス」のワイン造りを背負って立つ。醸造より栽培が好きという、新世代の造り手だ。

西畑さんは大学時代をこう振り返る。

「『ソラリス』を飲んで感動したんです。それ以来『ソラリス』を造りたいというのが夢でした」

マンズワインの小諸ワイナリー
小諸ワイナリーは、1973年開設。ワイナリーには古木のシャルドネ畑があり、日本庭園、茶室も併設。

2005年にマンズワインに入社。その後32歳で渡仏し、3年半の修業を終え帰国。2年後に同社社長で前任者の島崎大さんの大抜擢でこの任に就く。西畑さんがワイン造りで大切にしているのはブドウそのものの品質だ。だから西畑さんはこう断言する。

「ブドウがワイン造りの原点ですからね。醸造でこねくり回すだけでは、絶対にいいワインはできないんです」

こう確信するにいたったのには、ブルゴーニュやボルドーのワイン造りの現場を見てきたことが背景にある。現地では、小規模生産者の造りの現場にも足を運んだ。彼の地の造り手たちが地道に作業して、いかにブドウを大切にしているか、しかし栽培や醸造には特別な技術がないことを知ったという。

帰国した翌年には、上司に進言し果汁濃縮の機械と決別。退路を断ち、チームで畑仕事に集中した。ブドウそのもので勝負をする覚悟だった。

先人たちの歩みを受け継ぎ、チャレンジを重ねる

マンズワインは、小諸一帯でのブドウ栽培に50年の歴史を持つ。良質なブドウを得るには、土地に適した品種の選択が必須だが、長年の蓄積からすでにシャルドネ、メルローなどの品種を選択済み。

「僕らは、品種の栽培方法を追求していけばよかった。それに先輩たちが守ってきた樹齢約40年の古木のシャルドネという財産もありましたからね」

マンズワインのブドウ
ワイナリー近くで栽培する、フラッグシップの「小諸メルロー」のブドウ。

その一方で、西畑さんらはセオリーに囚われず、新しいチャレンジにも着手した。そのひとつが有機栽培への挑戦だ。あまり知られていないが、マンズワインの自社管理畑におけるJAS有機比率は30%と高い。西畑さんが取り組みを本格化し、9区画でJAS有機認証を取得。有機栽培自体が目的ではなく栽培技術の向上を目指す。

世界的にサステナブルなものづくりが注目されるが、日本のワイン用ブドウ畑でJAS有機の認証を得ているのはまだ10社前後しかない。西畑さんはマンズワインが認証を取得する意義をこう語る。

「僕らの認証取得が周知され、こうした動きが広がるのを願っています。地球温暖化に対してのアクションのひとつです」

醸造では、抽出を優しくする、樽香は控えめにする、亜硫酸を減らす(ブドウが上質なら亜硫酸使用量は減る)などの変化もあった。白も赤も樽香は穏やかになり、果実の味わいが前面に出てエレガントさが増した。冒頭の快挙は一連の取り組みが実を結んだ結果だろう。

今後、目指すものはという問いに西畑さんはこう答えた。

「日本ワイン、そして小諸一帯のワインがもっと世界に知られてほしい。そのために、ワインにおける日本らしさ、小諸らしさを追求していきたいです」

2018年からは、畑や区画の名前をワイン名にすることに着手し、赤では「ラ・クロワ」、白では「ル・シエル」というワインもリリースした。いずれもテロワールを表そうという西畑さんの思いが実現したワインだ。

2023年8月、ワイナリーに西畑さんを訪ねた時、標高の高い畑に連れて行ってくれた。眼下の盆地や対岸の山々が一望できた。彼は思いをこう語ってくれた。

「小諸の土地をつくってきた山々と小諸を見てもらいたかったのです。広大な自然が人々の生業に影響を与えているのを忘れずに暮らし、気候を肌で感じてワインを造っていきます」

課題が見つかり、試行錯誤を繰り返すのは楽しいとも言う。チーム西畑が小諸の風土を映しだすワインが楽しみだ。

マンズワインのワイン3本
左:「ル・シエル2021」(¥6,600)は西畑さんが企画し商品化。ワイナリーに隣接する「ル・シエル」と名づけた畑で栽培されているシャルドネ、ソーヴィニヨン・ブラン、信濃リースリングを同日に収穫してフィールドブレンド。白桃のような香りが紅茶のような芳香に変わる。中:「ラ・クロワ2018」(¥6,600)。上田市の自社管理圃場の単一畑、「ラ・クロワ」のカベルネ・ソーヴィニヨンとメルローを収穫量の比率のままブレンド。右:「千曲川メルロービオロジック2019」(¥6,600)。有機JAS認証を得た畑のメルローのみが原料。写真はヴィンテージ違い。

長野県小諸市・マンズワイン/Mans Wine
公式サイトはこちら

西畑徹平Teppei Nishihata
1980年生まれ。山梨大学ワイン科学研究センター大学院コースを卒業後、2005年にマンズワイン入社。2008年、酵母の泡の開発などを担当し、2010年同社小諸ワイナリー勤務。ソラリスのワイン造りに携わる。2013年派遣留学で渡仏。2014年ブルゴーニュのCFPPA Beauneでブドウ栽培者国家資格取得。2016年ボルドー大学でワイン醸造士国家資格取得。帰国後、2018年マンズワイン・小諸ワイナリー栽培・醸造責任者に就任。2021年より同製造グループ長兼任。

【特集 日本ワイン】

TEXT=鹿取みゆき

PHOTOGRAPH=金玖美 EDIT=西原幸平(EATer)、Ena

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