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2024.02.17

“時計沼”にハマった34歳・船長、羅針盤となった運命のロレックスとは

2020年開設のYouTubeチャンネル「腕時計のある人生 Channel」は、登録者数約9万人(2024年2月現在)。時計YouTuberとして成功を収めるRYさんはいかに時計と向き合い、その魅力に取り憑かれたのか。1本のロレックス「サブマリーナー」を契機に、彼の価値観は逆転したという。

RYさんポートレート
RY/アールワイ
1990年大阪府生まれ。航海士として働くかたわら、腕時計の魅力を多くに人に知ってもらうべく、2019年にブログ「腕時計のある人生ブログ」、2020年からはYouTubeチャンネル「腕時計のある人生Channel」をスタート。時計を買う際のマイルールは、「1年で1本、1ブランド1本。最大で10本まで(ただし仕事用は別)」。

「意味がわからないもの」から「人生の宝」へ

チャンネル登録者数は約9万人(2024年2月現在)。穏やかな語り口と豊富な知識で、腕時計の魅力を分かりやすく解説する動画が高い人気を博しているのが、「腕時計のある人生Channel」を運営するRYさんだ。

RYさんの本業は世界を股にかける「航海士」。そのなかでも最も高い職責である「船長」として、海外での海事業務に従事している。

1ヵ月海の上で仕事をして、日本に戻ってきて1ヵ月休むというサイクルで、1年の半分は洋上で過ごす。大学を卒業してすぐ海の世界に飛び込んだ当時のRYさんにとって、腕時計ははるか遠い存在だったという。

「昔から男っぽい世界観のプロダクトが好きで。クルマやバイクをはじめ、色んなジャンルに手を伸ばしましたね。でも、高級時計だけは敬遠していたんです。だって、意味がまったくわかりませんでしたから(笑)。時刻を見るならスマホでいいし、なんであんなに高いんだろうって」

腕時計とは知識欲を満たし、毎日を豊かにし、世界を広げてくれる“人生の宝”。

この言葉は、今では時計YouTuberとなったRYさんが自身の動画で語る、腕時計の魅力である。

まさしく、価値観の大逆転。メルセデスの「CLA」やカワサキの「エストレア」に乗り、モンブランのボールペンを愛用する一方、クオーツと機械式の違いすら知らなかった男に一体何があったのか。

「きっかけは社会人3年目の頃。実際に買ってみれば何か魅力が見えてくるかもしれないと思い、時計の購入を決意したんですが、どれを買えばいいかすごい悩んでいました。

そこで尊敬するオーストラリア人のチーフエンジニアに相談したところ、ロレックスを薦めてくれたんです。なかでも『サブマリーナー』のノンデイトは、世界中の男が憧れる“永遠のスタンダード”だと」

RYさん私物の時計 ロレックス
一番最初に買った高級時計が、ロレックスの「サブマリーナー」。RYさんを“時計沼”に引きずり込んだ1本だ。

当時のRYさんにとって、仕事をスマートにこなし、身につける物のセンスも抜群だったそのエンジニアは、いわば憧れの先輩。

彼がそこまで力説するならと、忙しい仕事の合間を縫って「サブマリーナー」を探したが、人気モデルだけあって簡単には見つからなかった。ようやく手に入れた時には、すでにその虜になっていたという。

「時計を探しながら、『サブマリーナー』がたどってきた歴史や搭載する機構、ディテールについて勉強していたんですが、僕自身が凝り性ということもあって、知れば知るほど『欲しい!』という気持ちが高まっていったんです。

ついに巡りあえたのは、忘れもしない2016年の10月。当時羽田空港にあったロレックスのブティックでスタッフさんにダメ元で声をかけたら、バックヤードから持ってきてくれて」

価格は77万円。26歳の青年にとってはかなりの高額だが、清水の舞台から飛び降りる思いで購入。手渡されたボックスをカバンにしまい込み、そのまま仕事へ向かった。

航海中はロッカーに入れて、休憩時間に時計を取り出してはそれを眺めてひとりでニヤニヤ。着用して船内を歩いていた時に船の固い扉にぶつけてしまい、思わず冷や汗をかいたそうだ。

「実際に所有して分かりましたが、いい腕時計を身につけているとそれだけで気分が上がるんです。『サブマリーナー』を買った後、仕事でガッツリ使う用にセイコーのダイバーズも購入しました。値段は全然違いますが、ふたつとも単純にツールとして優れていて、見た目もジョイフル。この2本が、僕の時計好きを決定づけてくれましたね」

オタクの後輩から学んだ、“好き”というエネルギーの強さ

かくして“時計沼”に足を踏み入れたRYさんは、みるみるその深みにハマっていく。

海外の時計情報サイトにかじりつき、色んなブランドの歴史やモデルの特徴について調べる。しだいに、時計の奥深さ、素晴らしさを誰かに伝えたいという思いが湧き上がり、それを抑えられなくなっていったという。

結局、2019年にブログをスタートさせることになるのだが、そのきっかけとなったのはひとりの後輩だった。

「彼はライトノベルが大好きな、いわゆる“オタク”。ただ、自分の求める、面白いと思うライトノベルがなくて、『だったら俺が自分で作ってしまえばいい!』と一念発起し、ブログを開設して小説を書き始めた。

すると、それが編集者の目に留まり、あれよあれよという間に小説家デビューが決まったんです。好きなものに対する情熱を原動力に、がむしゃらに行動して人生を切り拓く彼の姿を近くで見ていて、本当にカッコよかったし、自分も取りあえずブログを始めてみようと思ったんです」

そうして始めたRYさんのブログは、時計好きの間で瞬く間に話題に。コロナ禍の2020年にはYouTubeチャンネル「腕時計のある人生Channel」を開設した。

もともと人見知りで自分の声にもコンプレックスがあった、と言うものの、「顔を出した方が信頼を得られやすいはず」との想いを胸に、自らの“時計愛”、そして時計の素晴らしさを少しでも多くの人に伝えるべく、YouTubeをスタート。番組の作り方は、ゼロから独学で学んだ。

時計YouTuberのRYさんの動画一覧
「腕時計のある人生Channel」の動画。ロジカルで分かりやすい内容が人気を博している。

「撮影からトーク、編集、アップロードまで、全部自分ひとりでやっています。『大変じゃない? しんどくない?』とよく聞かれるのですが、動画をつくる作業すべてが楽しくて仕方ない。細かい編集作業も、まったく苦じゃありません。動画の視聴者から嬉しい反応をもらった時は、本当に嬉しいですね」

思いついたことはすぐネタ帳に書きこみ、現在も100本以上のネタをストックしていると語るRYさん。

わかりやすさを第一とし、ウォッチメーカーの歴史や強みはもちろん、新作レビュー、はたまた“時計好きあるある”や“ブランド格付けMAP”まで幅広いコンテンツを展開するチャンネルは、これまで時計に興味が薄かった層にも受け入れられ、新たなウォッチラバーを生みだしている。

「チャンネルを開設してもうすぐ4年。いつも僕の動画を見て下さる方々には、感謝の気持ちでいっぱいです。今後の目標としては、男性だけでなく女性も含めて時計好きを増やしていけたらと思っています。

僕自身、2022年に結婚したのですが、妻は時計に全然興味がなくて(笑)。でも、きっかけさえあれば時計の素晴らしさに気づいてくれると思うんです。それこそ、僕がそうだったように」

自らの世界を広げてくれた腕時計が、また誰かの人生を豊かにしていく。“一億総腕時計社会の実現”を目指し、RYさんは今日も動画をつくり続ける。

後編では、RYさんの時計コレクションを紹介!

TEXT=増山直樹

PHOTOGRAPH=高橋敬大

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