舘ひろしの主演映画『免許返納!?』が2026年6月19日に公開される。70歳を迎えたスター俳優が“免許返納”を迫られる本作で、舘が演じたのは、カッコ悪くて、人間臭くて、それでもどこか魅力的な男。愛車フェラーリへのこだわりから、“大人の喜劇”論までを聞いた。インタビュー前編。#後編

“免許返納”が巡ってきた…俳優人生を象徴する作品
漆黒のサングラスにオールバック、大型バイクを乗りこなし、華麗なガンアクションを披露する――。昭和ドラマの金字塔『西部警察』や人気シリーズ『あぶない刑事』の役柄もあいまって、 “ミスター・ダンディ”のイメージを確立した舘ひろし。
そんな舘が、初めて本格的なコメディに挑戦したのは、1994年公開の映画『免許がない!』(脚本・森田芳光、監督・明石知幸)だった。
運転免許を持っていないことがコンプレックスの映画スター、南条弘が免許取得合宿に参加。若者に交じって、鬼教官やセクシーな女性教官に翻弄されつつ、免許を取得するまでを描いたコメディ作品で、舘は、ちょっと情けない中年男を軽やかに演じ、新境地を拓いた。
そのキャラクターを踏襲し、同じく“免許”をテーマにしたのが、2026年6月19日に全国公開となる『免許返納!?』だ。
免許取得に悪戦苦闘してから32年。70歳、古希を迎えた南条弘は、ひょんなことから免許返納を迫られる羽目に。
だが本人は、愛車のフェラーリを駆り、往年のヒット作『ハーレーライダー』のようなアクション映画への出演にも意欲満々。事務所社長やマネージャーから免許返納を迫られても、「絶対に返納しない!」と抵抗を続ける。
そんな時、事故で入院中の盟友の“最後の願い”が、別れた息子との再会だと知り、彼を探すべく旅に出て……。笑いあり、人情あり、アクションやカーチェイスありのエンターテインメント大作には、現在の舘ひろしの魅力がぐっと凝縮されている。
「『免許がない!』で南条弘を演じてから約30年、同じ免許を巡る物語が、今度は『免許返納⁉』という形で巡ってきました。これは、俳優として歩んできた私の人生を象徴しているかのようで、運命めいたものを感じましたね」

1950年愛知県生まれ。1976年に俳優としてデビューし、1982年に出演したドラマ、『西部警察』をきっかけに石原プロモーションに所属。1986年、柴田恭兵とW主演したドラマ『あぶない刑事』で大ブレイクを果たし、以降、アクションからコメディ、ラブロマンスと幅広い作品で活躍。1984年リリースの『泣かないで』で、NHK紅白歌合戦にも出場を果たす。2018年公開の映画『終わった人』で第61回ブルーリボン賞主演男優賞、第42回日本アカデミー賞優秀主演男優賞のほか、第42回モントリオール国際映画祭最優秀男優賞を受賞するなど、海外でもその演技力が高い評価を受ける。2021年、石原プロモーション解散に伴い、舘プロを設立。近年の主な出演作に『ヤクザと家族 The Family』『ゴールデンカムイ』シリーズ、『港のひかり』『あきない世傳(せいでん)金と銀2』などがある。
「南条弘ならフェラーリしかない」舘ひろしの強いこだわり
舘が芸能界にデビューしたのは、1970年代に舘が中心となって結成されたバイクチーム、クールスがきっかけだ。
バイクは舘の代名詞のひとつ。プライベートではイギリスのスポーツカー、モーガンをはじめジャガーやメルセデス・ベンツを乗りこなすなど、クルマへの思い入れも強い。
今作『免許返納⁉』で南条の愛車にフェラーリ328GTSが選ばれた背景には、舘の強い推しがあったという。
「候補はいくつかあったんですが、絶対に赤いフェラーリだと思ったんです。個人的にはトヨタ2000GTが好きですが、南条弘という男には、フェラーリしかない。実際、あのフェラーリはいい仕事をしてくれました」
このエピソードからもわかるとおり、舘は、企画段階から積極的にアイデアを提案した。
「いろいろ出したとは思いますが……なんだったっけな。忘れちゃったな」と笑いながらも、まず披露してくれたのが、作品冒頭、古希祝いのパーティーの場面での演出。
『ハーレーライダー』で共演した盟友の辛辣な祝辞に怒り心頭。控室に戻った後、紫のちゃんちゃんこと帽子を投げ捨て、それを蹴り飛ばすというシーンである。壇上での振る舞いとは裏腹な子どもじみた言動にあきれるマネージャーの前で、なんと南条は空振りし、豪快にすっ転んでしまうのだ。

「台本には『蹴り飛ばす』としか書いていなかったんですが、僕はどうしても空振りして、(マネージャー役の)西野(七瀬)くんに、『空振り⁉』と言わせたかった。それを最初のシーンに入れることで、コメディだと印象づけられますから。いわば、観客に『この映画はコメディです』とお知らせするための芝居ですね。
西野くんには、作品の終盤でアクションもしてもらったんですが、これも僕がお願いしたこと。
台本は、『男たちの乱闘を呆然と見ている』ことになっていたけれど、南条にも臆せずものを言う気が強いマネージャーがただ見ているだけでは、単なる冷たい女の子になってしまう。だから、絶対に彼女にも闘ってもらうべきだと思ったんです。そうすることで、俳優・南条に対する愛みたいなものも伝わるんじゃないかと。
西野くんに、『投げ飛ばされたりしても大丈夫?』と聞いたら、『がんばります』と言ってくれて、一生懸命やってくれました。とてもいいシーンになったのではないかと思います」
舘ひろし「喜劇は悲劇でなくてはいけない」
『ゴールデンカムイ』ではニヒルな土方歳三を演じ、『鋼の錬金術師』では切れのある立ち回りを見せ、『港のひかり』では渋くも人間味のある元やくざを演じるなど、ここ数年、アクションやハードボイルド、シリアスな作品の出演が続いた。
コメディ映画の主演を務めるのは2019年公開の『終わった人』以来だが、感触はどうだったのだろう。
「コメディをやりたいとは、願っていました。ただ、喜劇は悲劇でなくてはいけないと、僕は思っているんですね。そういう意味では、うまくいったんじゃないかな」

笑わせ続けるだけが喜劇ではない。面白さのなかに人間が抱える悲しみや切なさ、寂しさが滲むことで、笑いは際立つ。ドタバタ喜劇からスタートするものの、ストーリーが進むにつれ、友情や家族愛、人のやさしさ、人生でやり残したことへの後悔などが織り込まれたヒューマンドラマの様相を帯びてくるこの作品は、観る者にさまざまな感情をもたらす。
「この作品で一番伝えたかったこと?……うーん、観てくださる方々に絶対にこれを伝えたいと思ってやっているわけではないんですよね。ただ、どの映画であっても、人の愛みたいなものが根本にあれば、作品としてはいいんじゃないかとは思っています。その点でも、『免許返納⁉』は、笑って泣ける、世代を問わず楽しんでいただける作品になったと思います。……(劇中で)『泣かないで』(自身の名曲)をフルコーラス歌わされたのにはまいったけど(笑)」
圧倒的なオーラを放つ大スターながら、大上段に構えるでもなく、飾り気のない率直な言葉を口にする。この力の抜け加減もまた、大人の余裕と色気の源泉になっているのだろう。後編では、年を重ねてなお増す舘ひろしの魅力に迫る。
衣装クレジット:ジャケット¥156,200(タリアトーレ/トレメッツオ TEL:03-5464-1158) パンツ¥69,300(ピーティー トリノ/ピーティー トリノ ジャパン TEL:03-5485-0058) チーフ¥19,800(ステファノ カウ/バインドピーアール TEL:03-6416-0441)

