『北極星 僕たちはどう働くか』を上梓した西野亮廣氏と、かねてより西野氏の作品に親しんできたという日本最大級の書店チェーン・丸善ジュンク堂書店社長西川仁氏。初版10万部という衝撃的な数字を叩き出した『北極星 僕たちはどう働くか』が出版業界と書店に与えるインパクト、そして書店の未来を語り合う。
『お前が必要なんだ!』と言ってくれるエンタメをつくる
『北極星 僕たちはどう働くか』は初版10万部、さらに発売前にも重版が2万部かかった。そもそもビジネス書は5万部売れればベストセラーと言われるなかで、この初版部数は異例中の異例だ。西川社長は「私は6年ほど前まで現場で本の棚差しをしていました。その立場からすると、10万部ってかなりの衝撃の数なんです。なぜこんなことができたのでしょう」とまず西野氏に尋ねた。それに対して西野氏は「事業投資型クラウドファンディング」を日本にもっと根付かせるために、自身で実験、実践してみたのだと説明する。
西野亮廣(以下西野) 「なにかに挑戦する時に、予算って絶対必要ですよね。だから日本人はまず『貯金』しようってなるんです。でもこれだとお金が貯まり切るまでGOできない。僕は1番若い時期、体力がある時期を貯金に充てるってすごくもったいないと思ったんです。自分はブロードウェイでミュージカルをつくっているのですが、ブロードウェイでは、若いクリエイターでもいきなり20億くらいの作品をつくっていたりするんですよ。これは投資家が出資しているからできること。日本でもそういうことが当たり前におこればいいなと思っていた時に、事業投資型クラウドファンディングならできるのではと思ったんです」

1980年兵庫県生まれ。1999年漫才コンビ「キングコング」結成。著書に『革命のファンファーレ』『新世界』『夢と金』など。2026年3月12日に新刊『北極星 僕たちはどう働くか』発売。3月27日より最新映画『映画 えんとつ町のプペル 〜約束の時計台〜』が公開中。
通常のクラウドファンディングは、支援者への返礼品として物品が送られる。一方、事業投資型クラウドファンディングでは、支援者は事業の売上に応じた分配金をリターンとして受け取ることができる。このシステムを使い、西野氏はまず『映画 えんとつ町のプペル 〜約束の時計台〜』の製作費を募り、4億8000万円を集めることに成功。そして今回『北極星 僕たちはどう働くか』でも同じように投資家たちを募った。
西野「出版社の人ともよく飲みに行っていて、いろいろ困りごとを聞いていると、本を出すって出版社さんにすごくリスクがあるなって思ったんです。いろんな作家が本を出したいと願っているけれど、作家はなんのリスクも背負わない。今、出版業界が厳しい、大変だと言われているなかで、すべてのリスクを出版社だけが背負うのって、それでいいんだっけと。だったらそれを、ちょっとでもこっちで肩代わりできないかって思ったんです」
事業投資型クラウドファンディングで集めた金を使って、西野氏はあらかじめ出版社が10万部刷る際に必要な制作費と売り上げを保証したのだ。そして集まった800人を超える投資家たちへのリターンは、本来西野氏が受け取るはずだった本の印税である。
西野「印税をシェアするのですから、作者である僕には金銭的メリットが全然ないんですけど、本を出す理由ってお金だけのことではないんです。考えが広まるとか、それでファンになってもらうとか、って考えた時に、最初の部数を多めに刷って、それがたくさんの人の目に触れて、それをきっかけに自分のことを知ってもらって、劇場だったり、このような書店に足を運んでもらえたら、目先の印税なんかよりもずっと、そのあとのことで回収できる。だからまずは出版社の負担をこっちで背負おうと」
なぜ、西野氏のプロジェクトにはここまで投資家が集まるのか。その理由を自身ではこう説明する。
西野「エンタメをつくっていると、みんな役割を欲しがっているなと思ったんです。イベントを行った時、A席、B席、S席、そして『スタッフになれる権利』というものを売ったのですが、一番高い『スタッフになれる権利』が一番売れたんです。これってつまり、みんなつくりたがっている。さらにAIが広がる世の中で、それはますます加速している感じがします。AIに『お前いらない』と言われているように感じるなかで、『いや、お前が必要なんだ!』って言ってくれるエンタメをつくってあげれば、どんどん人が面白がってくれるんじゃないかなって。そして本も、本当の意味で読者をつくり手にするってどうすればいいのかなって考えたんです。多数決で決めてつくっても面白くない、なら読者を投資家にしてしまえばいいのではと」
「本を売る場所」から「体験する場所」へ
『北極星 僕たちはどう働くか』は「金」「心」「販売・集客」の3章に分けてそれぞれの向き合い方を語る1冊だ。西川社長も書店を営む身としてこの「販売・集客」の章に心を打たれたという。
西川「2024年に私が社長に就任した際に、5年で営業利益を4倍にしなさいと丸善CHIホールディングスから言われているんです。これまで通り、ただ仕入れて売るだけでは、けっして4倍にはなりません。ですからただの小売業ではなく、製造小売、サービス小売の領域に価値をつくっていかなければと。そもそも本はどこの書店で買っても同じものです。ですから弊社で買うという体験そのものに価値が生まれる店舗にしなければ、と常に考えています。西野さんは実践のなかから理論をつくっていかれていて、私も書店からの叩き上げですから、実体験として営業の章に関しても共感するところがたくさんありました」

1966年大阪府生まれ。丸善ジュンク堂書店代表取締役社長。1989年4月丸善入社、2010年8月丸善書店(現丸善ジュンク堂書店)転籍。29年間、書店の現場に立ち続け、新店出店と改装、既存店の立て直しに従事。2024年4月より現職。
西野氏はそれを受けてこう、西川氏に語りかける。
西野「やってみないと何が売れるかって本当にわからないですよね。どんな邪魔が入るか、あるいはどんな贔屓が入るのかもわからない。ブロードウェイの場合、最初の1、2年は現地へスタッフに行ってもらって遠隔でやっていたんですよね。けれどなかなか進まなくて。結局、自分とか自分に近い人間が行って膝を突き合わせて、向こうの人と飲んだり話したりしないと、始まらなかったんですよ。(自らが行う)営業が大事だとその時に実感として残ったんです。やっぱり、営業経験なき戦略は寝言だと」
西川社長は6年前まで実際に店舗に立っていた書店員だった。お客さんがどこで立ち止まるのかを見てきたことは、これから施策を練るうえで強みになってくる。まさに営業経験が戦略をつくるのだろう。西野氏はさらに西川氏に尋ねる。
西野「営業利益を4倍にってけっこう無茶振りですけど、今はなにをどうされているんですか?」
西川「そうですね。いろいろ挑戦していますが、我々自身のIPをつくって、グッズの企画製造販売などを行うこともしているんですよ」
これは、「ノクターンブックマーカー」という企画で、丸善ジュンク堂の実在書店と紐付いた12のキャラクターが、書店と連動して物語を進めていくものだ。声優は豪華声優陣が務め、グッズも展開し店舗での販売がされている。またさまざまにメディアミックスも行われ、本の朗読やボイスドラマ、推薦本などを紹介して、本との出合いをさらに後押ししている。
西川「先ほど西野さんは、『つくりたがっている人が多い』とおっしゃっていましたが、私たちもまさにそれを感じておりまして、cuebooksという企画もやっているんです」
こちらは、書店の棚をレンタルし、自分の選んだ本や創作物を販売することができる「棚主」になれるサービスだ。推しの作品を広げたい人、あるいは自分の創作物販売まで、誰でも利用でき、さらに月に1回、棚主がイベントを開催することもできる。訪れる人と棚主のコミュニケーションの場にもなっているのだ。現在はジュンク堂書店大阪本店で行われているサービスで今後は東京、那覇の店舗でも行われる予定だという。

西野「それは面白いですね。グッズ展開のお話でいうと、僕も『えんとつ町のプペル』でグッズをたくさんつくっているのですが、何をつくったらよくて何をつくってはいけないのか、それがすごく難しい。でも、例えば丸善ジュンク堂さんにしかない、オリジナルのプペルグッズとかあったらいいですよね!?」
西川「そこにしかない、というのは本当に強みになりますよね。私たちも版元さんのグッズを売る時などは、必ずオリジナルのものをつくらせてほしいとお願いしています」
西野「そうなんですね。今って、書店さんはIPホルダーさんの方に、グッズをつくらせてくださいってお願いしていますよね? それが向こうから来るようになったらすごくいいと思うんです。例えば『えんとつ町のプペル』のルビッチくんのぬいぐるみを、丸善ジュンク堂さんで出すとして、ここにしかないオリジナルとして、黒縁のメガネをかけさせるとか。そういうルールを一回つくって、で、次は別の作品の別のキャラクターが丸善ジュンク堂さんと組んだとして、そのキャラにもメガネをかけさせる。これを2、3発やったら他のIPホルダーも『うちのキャラクターの黒縁バージョンもつくりたい』って絶対言い出しますよ。
『ベアブリック(BE@RBRICK)』のパターンにはめるんです。あれっていろんなキャラクターをクマのブリックの型にはめてコラボしてますよね。途中から全然クマのかたちのキャラじゃないのに、無理やりクマにはめ込むのが面白いってなってきて。みんなが“はめたくなるような型”をつくったら、IPホイホイみたいになってくるかもしれないですよ」
西川社長はこの西野氏のアイデアに深く頷く。黒縁メガネのルビッチが誕生するのも、近い将来にありえそうなほどだ。ここからは書店を愛する西野氏による、書店コンサルへと話が移っていく。
西野「今、本屋さんの困りごとはなんですか?」
西川「一番のボトルネックは集客ですね。少し前の本屋が元気だった頃に比べるとだいぶ落ちています」
西野「それに対してこれまでどういう手を打たれたんですか?」
西川「業態を複合化していくことですね。カフェを併設したり、文具を販売したりしてきました。それに加えて、もう少し『ファン化』できるような取り組みができないかと考えているんです」
西野「ファンをつくるってすごく大事ですよね。この前友達に言われて、そうだなって思ったんですが、もうみんなそれぞれの好きなキャラクターのポケットは埋まっている。すでにお気に入りのキャラクターがいる人に、そのキャラクターをポケットから出させて俺のキャラクターを入れろって難易度が高すぎると。でもみんななんとか横入りしようとするから、非常にコストがかかってしまう。じゃあ、どうするか。
大切なのは他のキャラクターが入り込む前に、自分たちのキャラクターをポケットに入れるってことなのではないかなと。だから僕らは映画やミュージカルで子供達を無料で招待しているんです。それだけ考えるとコストはかかります。数千円で売っている席を何千席も0円にするので。でも『えんとつ町のプペル』を描いて10年になりますが、10年前にプペルに出会った子たちのポケットには、まだちゃんとプペルがいるんですよ。だから長期スパンで見て、15年後にお金を出せる人を今のうちからファンにしていくっていうのは、投資としては非常に重要だなと思うんです」
ふたりが考える書店改革の話はまだまだ尽きない。
このトークの続きは西野亮廣チャンネルで近日公開予定。ぜひチェックしてみてほしい。

