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2025.12.25

ジェフ千葉、17年ぶりJ1復帰の裏側。「人間性重視のチームづくり」無名のよそ者監督の再建法とは

サッカーJリーグのジェフユナイテッド千葉がJ1昇格プレーオフを制し、17年ぶりのJ1復帰を果たした。長期低迷に苦しんだ名門を立て直したのは、監督経験ゼロから就任した小林慶行監督(47歳)。異例の抜てき、試行錯誤の3年間、そして最終年に掴んだ歓喜──。再建の舞台裏に迫る。

ジェフユナイテッド千葉、17年ぶりJ1復帰の舞台裏──無名の監督・小林慶行が成し遂げた再建の3年

「よそ者」が名門を蘇らせた日──17年ぶりのJ1復帰

よそ者は人気者に変わっていた。2025年12月13日、フクダ電子アリーナ。ジェフユナイテッド千葉が徳島ヴォルティスに1-0で競り勝ち、17年ぶりのJ1復帰を決めると、小林慶行監督は両拳を突き上げ、満員のサポーターから大歓声を浴びた。

「めちゃくちゃうれしいですし、めちゃくちゃ疲れました」

その一言に、3年間の重圧がにじんでいた。

監督未経験、クラブOBでもない異例の抜てき

現役時代は主にボランチとして東京ヴェルディ、大宮アルディージャ、アルビレックス新潟などで活躍した。2012年に34歳で引退するまでに、J1通算310試合に出場。キープ力、展開力があり、戦術眼に優れた選手だった。

ジェフ千葉の前身である古河電工は、日本サッカーの歴史を創った名門。長沼健、木之本興三、川淵三郎、奥寺康彦、田嶋幸三、岡田武史ら、そうそうたるOBを輩出してきたクラブだ。

1965年に始まった日本リーグに初年度から参加。1993年にスタートしたJリーグも含めて一度も下部リーグに降格したことがなかったが、2010年に初めてJ2に落ちると、長いトンネルが始まった。

2012年ロンドン五輪日本代表監督の関塚隆氏や、スペイン1部ヘタフェで監督経験のあるフアン・エスナイデル氏ら実績ある監督を招へいしたが、ことごとく昇格に失敗。長きに渡る低迷を打破するために白羽の矢が立ったのが、2021年からジェフ千葉のコーチを務めていた小林監督だった。

監督経験もなく、クラブOBでもない。まさに異例の抜てき。

「このクラブは名だたる監督さんしか呼ばれないクラブ。僕はジェフでプレーしたこともないし、はっきり言ってよそ者。ただのコーチでしかなかった人間に監督を任せることが、このクラブにとって、どれだけのチャレンジだったかはすごく理解していたつもり」と、小林監督は振り返る。

人間性重視のチームづくりと、変化を受け入れた3年目

就任後はアルビレックス新潟時代に選手とスカウトの関係だった鈴木健仁GMと二人三脚で、実績よりも人間性を重視してチームを編成。一体感を念頭に補強した結果、ほぼ毎年10億円超だったチーム人件費は​8億円台に収まった。

就任​1年目の2023年はリーグ​6位でプレーオフ準決勝敗退。2024年はリーグ​7位でプレーオフ進出を逃した。ハイプレスと早いテンポでボールを回す主体的なスタイルでサポーターを魅了し、観客動員を伸ばしたが、J​1昇格という最大のミッションは果たせなかった。

迎えた3年契約の最終年、2025年。勝負のシーズンに向け、小林監督は戦い方に変化を加えた。

「昨年までは​“自分たちのストロングポイントで相手をねじ伏せる​”というメッセージをずっと共有してきた。尖り続けてきたけど、勝負の3年目は少しバランスを取って大人になった感じです」

ハイプレスは相手に研究されて早いタイミングでロングボールを蹴り込まれれば、ハマりにくくなる。2024年シーズンまではそれでもスタイルを貫き通したが、今季は柔軟に対応。相手や戦況に応じて引いてブロックを敷く我慢の時間帯をつくることも厭わなかった。

爆発力と我慢──対照的な2試合が示した成長

プレーオフ準決勝のホーム、大宮アルディージャ戦は​0​-3から​4点を決める爆発力を見せて大逆転勝ち。決勝の終盤は11人がゴール前で体を張り、相手の猛攻を凌ぎ切る我慢の試合を制した。

この対照的な2試合の戦い方が、2025年シーズンの強さを象徴する。

「幹の部分を絶対にブラさない。上手く枝葉の部分で変化がありながら、しっかりやってくれた。苦しい時間もあったが、​3年間の積み上げが最後に出た」

伝統を知る“よそ者”が導いた未来

2025​年1月の沖縄キャンプでは古河電工の森平英也社長を招き、偉大な​OBを輩出するサッカー部の歴史を学ぶ講義を実施。選手たちは古河電工の特徴だった「泥臭さ、粘り強さ」を胸に刻んだ。“よそ者”だからこそ、クラブの伝統に敏感だった部分もある。

ジェフ千葉の昇格により、2026年はJリーグ発足時に加盟した​“オリジナル10​”が21年ぶりにJ​1に集結する。昇格決定直後のスタジアムで小林監督はサポーターに投げかけた。

「来年はJ1に行く。そんなに簡単じゃないし、難しい時間があると思う。そんな時でもクラブを愛してもらえますか?」

J​1復帰を果たしたとはいえ、J​2リーグ​3位(​1、2位は自動昇格)からの滑り込み。強いジェフを創る本当の戦いは、まだこれからだ。

小林慶行​/Yoshiyuki Kobayashi
1978年1月27日​埼玉県生まれ。桐蔭学園高、駒沢大を経て、1999年にヴェルディ川崎(現東京ヴェルディ)に入団。大宮アルディージャ、柏レイソル、アルビレックス新潟でもプレーし、J​1リーグ通算310試合20得点を記録した。2014~​2019年はベガルタ仙台コーチ、2021年にジェフユナイテッド千葉のコーチに就任して、2023年に監督に昇格。

TEXT=木本新也

PHOTOGRAPH=スポーツ報知/アフロ

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