PERSON

2025.11.05

「AIで“小室哲哉の音楽”はまだ作れない」【小室哲哉×作曲家・小野貴光対談】

SNSもせず、これまで一切メディアに姿を見せてこなかった作曲家・小野貴光。アイドルやアニメ、ゲーム音楽など数々のヒットを生み出してきた彼が、独学で音楽を学び続けてきた軌跡を綴ったのが、自伝『作曲という名の戦場』だ。そのなかで“心の師”と語られるのが音楽プロデューサー・小室哲哉。AI時代においても再現できない“人間らしい音”とは何か。創作にすべてを注ぎ、絶え間なく作品を作り続けるふたりの音楽家対談・後編。対談後のコメント動画もお見逃しなく! #前編

対談中の小室氏

しばらく小室哲哉の音楽はAIには作れない

小野 さらに小室さんのすごさは、メロディとサウンドだけでなく、歌詞も含めた音楽のすべてを手がけていることです。

小室 作詞、作曲、アレンジ、レコーディング……。そのアーティストの曲を引き受けると、アルバムもまるごとやることも多かったです。なかでも、特に僕が苦しいのは歌詞ですね。メロディやサウンドの負担が全体の20%。歌詞は80%です。

小野 なぜ作詞されるんですか。負担の少ないサウンド面の20%に集中すればいいのでは。

小室 音だけでは飽きられちゃうんです。よく“小室哲哉っぽい”と指摘される音に自分でも飽きてくる。でも、歌詞の領域にはまだポテンシャルがある。小室っぽくないものも書けます。

小野 詞はどこからインスパイアされますか?

小室 海外映画かな。字幕から学ぶことは多いです。長い台詞を翻訳者はスクリーンの尺に収まるように訳し、短い言葉で的確に伝える。作詞に似ているんです。特にコロナ禍以降は、歌詞や台詞や翻訳が文学的・情緒的になっています。

小野 なぜでしょう?

小室 自宅で本を読み、映画を観て、言葉に触れ、インプットが多かったのかな。

小野 僕は最近音楽を聴かなくなりました。忙しいせいもありますが、それまでにインプットした“貯金”で作曲しています。小室さんは生成AIの利用も明言していますね。

小室 子供のころから今も、その時代の一番新しいものに触れずにはいられないんです。

小野 AIの進化で作曲家の存在がなくなるとも思いますが。

小室 実際に今ヒットしているなかにもAIが作った曲がけっこうあるかもしれませんね。

小野 先日大手メーカーから届いたコンペ参加の依頼文に「生成AIを使わないでください」と書かれていました。

対談中の小野氏

小室 音楽の作り方も、届け方も、どんどん変わってきましたよね。今までSNSなどをやってこなかった。でもそういう時代だから、小野さんは自分の存在を広く知られる意味を感じて、自伝的な本を出したのですか。

小野 図星です……。

小室 でも、例えばAIが僕の個性を持つ音楽を作れるようになるには、まだかなり時間がかかると思いますよ。

小野 実際に、AIに「小室哲哉っぽい曲を書いてください」と言ってもできませんでした。

小室 僕もあるチームと“AI小室”を試みたけど、うまくいきませんでした。というのも僕がどんな本を読み映画を観て、人生で失敗をして、という人間性の詳細まで学習させないと、“小室っぽい”音にはならない。

そうしているうちに新しい作品を観て、出会いや別れを経験して、僕自身が変化します。だから、音楽制作はまだまだ忙しいと思っています。

【特別動画】小室哲哉×小野貴光、対談後のコメント

TEXT=神舘和典

PHOTOGRAPH=干田哲平

STYLING=久保コウヘイ(小野氏)

HAIR&MAKE-UP=佐々木篤(小室氏)、服部さおり(小野氏)

PICK UP

STORY 連載

MAGAZINE 最新号

2025年12月号

超絶レジデンス

ゲーテ12月号の表紙/Number_i 岸優太

最新号を見る

定期購読はこちら

バックナンバー一覧

MAGAZINE 最新号

2025年12月号

超絶レジデンス

仕事に遊びに一切妥協できない男たちが、人生を謳歌するためのライフスタイル誌『ゲーテ12月号』が2025年10月24日に発売となる。今回の特集は、世界中で弩級のプロジェクトが進行中の“超絶レジデンス”。表紙にはゲーテ初登場となるNumber_iの岸優太が登場。

最新号を購入する

電子版も発売中!

バックナンバー一覧

GOETHE LOUNGE ゲーテラウンジ

忙しい日々の中で、心を満たす特別な体験を。GOETHE LOUNGEは、上質な時間を求めるあなたのための登録無料の会員制サービス。限定イベント、優待特典、そして選りすぐりの情報を通じて、GOETHEだからこそできる特別なひとときをお届けします。

詳しくみる