PERSON

2024.06.08

連載 相師相愛 第23代文化庁長官で作曲家・都倉俊一×YouTube音楽部門グローバル責任者が見据える、日本の音楽ビジネスの未来とは

第23代文化庁長官、作曲家の都倉俊一氏と、Google&YouTube音楽部門グローバル責任者のリオ・コーエン氏。日米の音楽の巨人ふたりのエピソードを紹介。【連載 相師相愛】

都倉俊一氏とリオ・コーエン氏
第23代文化庁長官、作曲家の都倉俊一氏(左)と、Google&YouTube音楽部門グローバル責任者のリオ・コーエン氏(右)。

音楽の血が流れている

リオ 昨夜、ディナーをご一緒して、いろんな話をして、都倉さんには音楽の血が流れていると感じました。

都倉 リオさんは、音楽業界の誰もが知る経営者で、現在はGoogleとYouTubeの音楽部門を率いる人。音楽業界の大きな転換期に何が起きているか、昨日は存分に聞かせてもらいました。

リオ 都倉さんが文化庁の長官であることは、日本にとってとても幸運なことだと思います。日本の文化を世界に発信し、もっともっと世界で影響力を高めたいという野心がある。

都倉 日本は世界で2番目の音楽マーケットを持つ国なんです。しかもスケールに加えてクオリティも高い。昨日もリオさんと意気投合したのは、日本の音楽のポテンシャルの高さでした。

リオ 前回、来日した2017年は、YouTube上に動画をアップする日本のアーティストは半分にも満たなかった。でも、今はほぼ100%になっています。

都倉 アメリカに次ぐ規模があるのに、日本の音楽産業はみんなバラバラでやってきたんです。やっと危機感がでてきて、まとまり始めている。そして世界を見据えた時、今やYouTubeこそが主役。皆さんと一緒に何ができるかを考えていきたい。

リオ YouTubeプレミアムの登録者数は世界で1億人を超えました。日本の音楽は、もっと大きなところを目指せると思います。これからは、世界でも競えるようなアーティストをみんなで力を合わせて送りだしていきたいですね。

都倉 日本には、歴史もあるし、リソースもある。それを世界的な戦略として産業化する。文化庁もサポートしていきます。その象徴のひとつが、2025年の京都で行うミュージック・アワード・ジャパンです。

リオ アジアを中心とした音楽シーンを世界的に提唱するイベントですね。もうエアラインの予約を済ませました(笑)。

都倉 そして昨日も盛り上がったのは、ゴルフでしたね(笑)。お互い大好きなことがわかって。ぜひ一度、行きましょう。

リオ すっかり友人ですからね。ケータイ番号も登録してあります。たくさん楽しいことをしたい。楽しい仕事も。

都倉 僕は20代から自分の音楽を世界に売り歩いていたんですよ。でも、今は簡単にできる時代になっている。

リオ 映像配信のサブスクリプションは、革命的に音楽ビジネスを変えた。多くの人にもっともっと知ってほしいです。

都倉俊一氏とリオ・コーエン氏
都倉俊一(左):
第23代文化庁長官、作曲家。1948年生まれ。小学校、高校時代を過ごしたドイツで音楽教育を受ける。大学在学中に作曲家デビュー。山口百恵、狩人、ピンクレディーなどの大ヒット曲を多数作曲。2021年より現職。

リオ・コーエン(右):
Google&YouTube音楽部門グローバル責任者。1959年生まれ。ラッシュ音楽事務所、デフ・ジャム・レコードを経て、ワーナー・ミュージック・グループ音楽部門の会長兼CEOに。300 Entertainment創設を経て、2016年より現職。

都倉 音楽家として個人的には、レコードがCDに変わっただけでも大きな喪失感がありました。ビートルズや山口百恵、ピンクレディーのジャケットを抱いて寝ていらような世代ですから(笑)。CDのように小さくなってフィジカルが物足りなくなったんですね。でも、YouTubeには新しいフィジカルがある。振り付けや演出、カメラワークなど音楽自体の次元が広がったんです。とても贅沢だと思います。

リオ レコードやCDは製造費もかかりますし、輸送費もかかりますし、お店には家賃もいる。それがいらなくなった。音楽のサブスクリプションは儲からないのか、という議論は本当に時代遅れで、次に来日した時には、なくなっていてほしいです(笑)。アーティストも大切ですが、同時にユーザーの立場も考えないといけない。広告しかり、定額制しかりで、たくさんのユーザーがやってきている。そして、大きな収益がでている。それをアーティストが受け取れる時代なんです。

都倉 CDの物理的な廃棄もないから、環境にもやさしいですしね。音楽というものをフィジカルに与えるテクノロジー。これから、まだまだ数倍、数十倍に広がるのではないでしょうか。

リオ 生成AIのような新しい技術にも、積極的に挑んでいきたいです。音楽業界はこれまで、新しい技術にディフェンシブだったところがある。でも、AIの新しい技術に関しては大胆かつ責任を守りながら動かねばと思っています。そもそもAIは、創作者の創作性をサポートするものであって、創作者に取ってかわるものではありません。その原則をしっかり理解して今、さまざまな実験も行っていますよ。

都倉 どんな化学反応が起きるのか、今後の音楽業界が、ますます楽しみです。

■連載「相師相愛」とは……
師匠か、恩師か、目をかける若手か、はたまた一生のライバルか。相思相愛ならぬ、相“師”相愛ともいえるふたりの姿を紹介する。

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TEXT=上阪徹

PHOTOGRAPH=倭田宏樹(TRON)

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