世界中の富裕層がリピーターとして名を連ねるザ・ペニンシュラホテルズ。そのひとつ、ザ・ペニンシュラバンコクの総支配人を務める大場正久氏に、名門ホテルのGMだからこそ知るエグゼクティブの旅スタイルを聞いた。

5ツ星ホテルに1か月のロングスティ
タイ・バンコクを象徴するチャオプラヤ川の西岸部、トンブリー地区に佇むザ・ペニンシュラバンコク。1998年に開業した世界屈指のラグジュアリーホテルを総支配人として率いるのが、大場正久氏だ。上海、東京、香港のペニンシュラで副総支配人を歴任し、ザ・ペニンシュラマニラ総支配人を経て、2024年よりこの地で指揮を振るっている。
全370室ある客室はすべてリバービューで、川を挟んだ向かい側、王宮のある旧市街にビジネス街のシーロム、繁華街のサイアムやスクンビットといった市街地が見晴らせるのも魅力だ。
「ザ・ペニンシュラバンコクは、アーバンリゾートといった趣のホテルです。もちろんビジネスでのご利用もありますが、のんびりと休暇を過ごすために長期滞在されるお客様が多いですね。長年当ホテルをご利用いただいているお客様の多くは最低でも1週間、中には1か月以上滞在される方もいらっしゃいます」

ヘリコプターで来館し、日がな一日ホテル内で過ごす
ファイブスターホテルにプライベートでロングスティするような富裕層は、ホテルでどう過ごしているのだろうか。
「当ホテルは、バンコクのホテルで唯一、屋上にヘリパッドがあります。バンコクの市街地は渋滞することで知られていますが、ヘリコプターを使えばスワンナプーム国際空港とホテル間は約15分で行き来が可能。そのため、ヘリコプターでお越しになるお客様も珍しくありません。
ヘリパッドは香港やマニラのペニンシュラも備えていて、ザ・ペニンシュラホテルズを象徴するサービスのひとつです。それをご存じだからか、世界各地のザ・ペニンシュラホテルズを使いこなされているお客様ほど、ヘリコプターの送迎を活用されているように感じます」

ザ・ペニンシュラバンコクといえば、専用ボートによるアクセスも人気が高い。チャオプラヤ川はバンコク市民にとって重要な交通路になっており、公共のシャトルボートが頻繁に行き来しているが、ザ・ペニンシュラバンコクは専用ボートを有しているのだ。
「最寄りのショッピングモール、アイコン・サイアム前の船着き場には30分間隔で定期運行していますが、それとは別に空きがあれば、お客様のご希望に応じてボートを出すことも可能です。アイコン・サイアムのほか、BTSサパーン・タクシン駅が近いタクシンピアに、決まった運行時間内で好きなタイミングでアクセスできる点も、お客様にはご好評いただいています」

ディナーの予約はコンシェルジュにお任せ
渋滞を避けるべくリムジンではなくヘリコプターで来館するなど、タイパ意識が高いように思える富裕層だが、チェックイン後は“のんびり気ままに”過ごすのが主流。
「観光やショッピングに出かけるよりも、ホテルの中で静かに過ごすことを好まれるお客様が多いですね。とくにイギリスやフランス、スイス、ドイツ、ベルギーといったヨーロッパからのお客様は、その傾向が強い気がします。朝ゆっくり起きてホテルのレストランで朝食をとり、日中はプールで過ごされたり、スパでトリートメントを受けられたり。日が落ちてからテニスを楽しむ方もいらっしゃれば、毎日無料で開催しているヨガやアクアフィット、マインドフルネス呼吸クラスといったウェルネス・アクティビティに参加される方もいらっしゃいます」
夜の食事に関しても、あらかじめ予約を入れるのではなく、「その日の気分で」食べたい料理や行きたいレストランなどをコンシェルジュに相談するというスタイルが目立つそうだ。それが可能なのは、ザ・ペニンシュラバンコクのコンシェルジュたちが、予約の取れないレストランや超人気バーなどと、日頃から交流を深めているからに他ならない。

「旅慣れている方は、こうしたホテルのサービスを使いこなすのに長けているだけでなく、ホテルのスタッフに対する振る舞いも洗練されていらっしゃいます。顔見知りのスタッフをとても大切にしてくださるのです。
ホテル開業以来27年間にわたり、シャトルボートのキャプテンを務めているスタッフがいるのですが、彼に会うためにホテルに滞在されるお客様もいらっしゃるのですよ。彼を筆頭に、顧客から“ファミリー”と呼ばれているスタッフが当ホテルには多数存在します。これは、ザ・ペニンシュラバンコク最大の財産。もちろんスタッフは、そういったお客様に滞在中心地よく過ごしていただくべく、ペニンシュラならではのサービスをご提供しています。お誕生日をはじめアニバーサリーがあればサプライズでお祝いをしたり、枕やドリンクなど、お客様のお好みのアイテムを把握していれば、あらかじめお部屋にご用意したり。
実は、期間限定ではありますが、私も週に1回、顧客を招いてのカクテルパーティーを開いています。当ホテルの最上階に航空機の世界をモチーフにした『パリバトラ』というヘリポート直結の専用ラウンジがあります。年代物のエンジンや模型、1930年代の航空路図などが飾られた、いわば飛行機の博物館のような場所なのですが、ここでお客様とお酒を飲みながら交流させていただいています。
先日とあるお客様から、『昔は、ヨーロッパからシンガポールに飛行機で行くのに、燃料給油のためにバンコクに立ち寄らなければならなかった』と教えていただいたのですが、飛行機はもちろん、クルマや船など、アンティークの乗り物に造詣が深いお客様も多く、貴重なお話を伺えて勉強になります。むしろ、私の方がお客様に楽しませていただいている気がします(笑)」
富裕層が、バンコクにあまたあるラグジュアリーホテルからザ・ペニンシュラバンコクを選ぶ理由。それは、ゲストに対する“おもてなしの心”にあるようだ。そして、このホスピタリティをさらに後押しすべく、大場氏は、総支配人に着任して早々に新たなプロジェクトを立ち上げたという。後編では、その取り組みをはじめ、“総支配人・大場正久”にスポットをあてて、話を聞く。
大場正久/Masahisa Oba
1975年生まれ。ホテル専門学校在卒業後、パークハイアット東京で2年間勤務し、スイスのローザンヌ・ホテル・スクールに留学。卒業後、国内外のラグジュアリーホテルでキャリアを積み、2007年にザ・ペニンシュラ東京に入社。ザ・ペニンシュラ上海やザ・ペニンシュラ東京、ザ・ペニンシュラ香港の副総支配人を歴任し、ザ・ペニンシュラマニラ総支配人を経て、2024年より現職。