放送作家、NSC(吉本総合芸能学院)10年連続人気1位であり、王者「令和ロマン」をはじめ、多くの教え子を2024年M-1決勝に輩出した・桝本壮志のコラム。

「私は堅実なタイプで、やりたい仕事があっても二の足を踏んで行動に移さず、後から『ああ、やればよかった』と後悔してしまうんです。こういった性格を直すにはどうすればいいのでしょうか?」という相談をいただきました。
「〇〇をしたい」を胸に秘めていても、景気、貯金額、年齢、新しい環境に順応する面倒くささ……、さまざまな障壁が頭をよぎって実行に移せない。
きっと同じような悩みを抱えている人が多いのではないでしょうか?
そこで今回は、僕が15年にわたり生徒たちに伝えてきた「したいを行動に移す思考のツボ」を、ゆっくりほぐしていきたいと思います。
「〇〇したら〇〇するつもり」を手放す
まず、「二の足を踏む」ことは悪いことではありません。
私たちは「新しいことに飛び込もう」とすると、きまって二の足を踏みますが、これは高い場所からプールに飛び込むときに躊躇するのと同じ。
「万が一のとき」に備えて脳が危険を知らせる、生物として当然の「生存戦略」なのです。
しかし、約1万人の生徒を育成して分かってきたのは、なかなか「したい」を実行に移せないタイプの人には、ある共通点があるということでした。
それは、「〇〇したら〇〇するつもり」という思考パターンを常態化させているという類似です。
例えば、吉本NSCで「集団トーク」をさせると、さも「言いたい顔」をしているのに、最後まで発言しない生徒が出てきます。
後で彼らに「どうして?」と聞くと、「もう少し同期を知ったら前に出るつもり」「もっと話芸を磨いたらガンガンいくつもり」など、「〇〇したら〇〇するつもり構文」ばかりなんですね。
皆さんも知らず知らずのうちに、こんな思考になっていませんか?
- 周りに認められてから、発言するつもり
- 景気がよくなったら、投資するつもり
- スキルを上げてから、転職するつもり
- 経済力がついたら、結婚するつもり
僕の経験上、こういった思考パターンの人の多くは、「そのうちやる」と言う名のエスカレーターのボタンを押し、たどり着くのは「何もしない」というフロアだったりします。
「いやいや、最良のタイミングを計っているんだよ」という方もいらっしゃるでしょうが、僕は“仕事における完璧なタイミングはない”と思っています。
なぜなら、周りの優秀なビジネスパーソンはみんな、「〇〇かどうか不確かだけど〇〇するつもり」で動いた人ばかりで、
行動した結果、「あのタイミングは良かった」と、“すべて「あとがき」で語っている”からです。
人生は「見切り発車劇場」です
吉本NSCの授業は1コマ2時間20分で、僕がずっと語るだけの講義もあります。
「よくそんなに話せますね?」と言われるのですが、もちろん15年前はまったく話せませんでした。
あるとき、「どうにでもなれ」と腹に決め、後先を考えずに語り始めてみたら、やがて「筋道のつけかた」「比喩」「まとめかた」のコツが掴めてきただけなんです。
なので、前出の「トークに参加できない生徒」に、僕はこんなふうに伝えています。
「とりあえず、見切り発車でいいから行動してごらん。そのうち走りかたを覚えるから。これからオファーされるどんな仕事でも同じ。とりあえず発車しないと、走りかたも、止まりかたも身につかないからね」と。
このアドバイスに耳を貸し、行動に移してくれた生徒は、ほぼ100%の確率でトークやパフォーマンスを向上させ、自ら学校や職場を「居心地よい場所」に変容させていきます。
そのなかには、現在メディアで大活躍する芸人さんが数多くいます。
このような経験から学ぶのは、ブレイクスルーを果たした教え子や一流と呼ばれているビジネスパーソンにも共通点があるということ。
それは、行動を起こす際の不安材料や恐怖心にあえて立ち向かい、“ミスをする恥ずかしさや、失敗の痛みを経験しながら、不安や恐怖への耐性をつけていく”といった類似なんですね。
ではまた来週、別のテーマでお逢いしましょう。

1975年広島県生まれ。放送作家として多数の番組を担当。タレント養成所・吉本総合芸能学院(NSC)講師。王者「令和ロマン」をはじめ、多くの教え子を2024年M-1決勝に輩出。