イタリア・トスカーナの「匠の技」と、革新的なデザインが相俟って生み出されるのが、Edra(エドラ)のファニチャーだ。1987年の設立から数えて3代目、ニコロ・マッツェイ氏が来日したのを機に、Edraに宿る卓越した技術力と創造性、オリジナリティの源泉を聞いた。

すべてはユーザーの「使い心地」のため
Edraのプロダクトは、唯一無二なデザイン性を持ち、まずは「眼に快い」印象がある。しかしニコロ・マッツェイ氏によれば、自分たちのつくり手としての矜持は、デザインに先立ち「使い心地」に徹底してこだわり抜くところにあるという。
「座り心地の良さと、身を委ねたときの快適さ。私たちが家具をつくるときは、そこを一番に考えて開発します。そのためにコストを集中投下するのが、創業時から変わらぬやり方です」
最上級の使い心地を実現させるためにedraでは、まず最高品質の素材からそろえていく。たとえばEdoraの定番ソファ、その名も「Standard」は詰め物に、独自開発し特許を取得したポリウレタン「GELLYFORM®」を用いている。素材自体をさわらせてもらうと、瞬時に人肌と同化するソフトなフィット感と、モチモチとした弾力性が同居しており、他ではちょっと味わえない感触だ。

布地類も、一つひとつのプロダクトに合わせてつくる。Edraが拠点を置くイタリア・トスカーナ州の繊維メーカーに製造を依頼し、製作工程ごとに綿密な打ち合わせを重ねて、その製品にとって最良の素材を用意していく。
使い心地に直結するので、機能性にも一切の妥協はしない。「Standard」は背部とアーム部分が自在に曲がってどんな体勢にも対応できるようになっている。ソファの形態に人が合わせて座るのではなく、とりたい姿勢にソファが合わせてくれるのだ。
このメカニズムを開発するにあたっては、やはり地元トスカーナで自動車パーツをつくっている製作所と組み、共同で研究開発をした。
「私たちの協力会社は、半径50キロ以内に集中しています。地元の親密な空気のなかで膝を突き合わせて、トライ・アンド・エラーを繰り返しながら開発を進めることで、品質とオリジナリティを極限まで高めていけるのです。また、開発・製造工程に手作業を織り込むのも必須です。そうしてこそ、つくり手の想いやストーリーをプロダクトに注入することができます」

こうしたものづくりへの基本姿勢に従って、キキョウの花のフォルムを持つチェア「Getsuen」や、組み合わせ・使い方が自在なソファ「On the Rocks」など、数々の名作・人気作が生み出されてきた。
「『Getsuen』はいくつものパーツを、手作業で複雑に組み合わせて製品化されています。30年以上前に発表したものですが、いま見ても斬新です。私たちが当時開発した技術的ノウハウやイノベーションは、のちの製品開発にも大いに寄与しています。『On the Rocks』は2004年に発表したもので、デザイナーは、ビーチの岩場に人が寝そべっている姿からインスピレーションを得ました。
ただし、私たちは自然の形態を真似したいのではなく、岩場に身を横たえたときの爽快感や安心感を実現したい。そこで、イメージ通りの肌ざわりを持つ布地やちょうどいい固さと弾力の詰め物を、このプロダクト用に開発していきました」
トスカーナの自然と歴史が育んだブランド力
ユーザーのラグジュアリーとリラックスを実現するために、edraの開発・製作現場では、考えられ得るかぎりの手が尽くされるのである。
「そんなやり方を貫いているので、商品開発にはどうしても時間がかかります。どんなに早くても数年単位、先に紹介した『Standard』に至っては20年の歳月を費やしました。
ですから私たちは同業他社のように、毎年新作シリーズを出せるわけではありません。妥協なきいいものができるまで、ぜひお待ちいただければと思います。
ペースが遅い代わりに、いったん発表したプロダクトは何十年もロングランになることをイメージしており、そう簡単に廃番になったりはしないので安心いただければ。また新しいプロダクトは、edraがこれまで打ち出してきたイメージやストーリーと、できるだけ齟齬のないものとなるよう気を配っています。
ものづくりをする企業として、いつの時代にも一貫性あるメッセージを届けたいと考えているからです」
これらEdraのものづくり哲学や企業としての思想は、自然豊かで文化の香り高きトスカーナという土地が育んだものだ。
「トスカーナは千年の歴史を持ち、ルネサンス文化を開花させ、建築、芸術、文芸、音楽いずれの分野でも卓越したクオリティを誇ってきた地域です。土地が有する蓄積やポテンシャルが、edraがつくるものに流れ込んでいるのは間違いありません。
edraの拠点はフィレンツェとピサの間にあり、人口はおそらく東京のタワーマンション一棟と同程度ですが、私はそこに生まれ育ち仕事を続けてこられたことに、無上の幸せを感じています」
トスカーナと自社ブランドに誇りを持つニコロ・マッツェイ氏は、日本および日本人とedraの相性のよさも口にする。
「イノベーティブな発想と、ディテールにこだわり抜く姿勢、そしてものづくりの伝統を大切にする心。これらは私たちedraと日本のみなさんが共有している感覚だと思います。響き合うところが大きいだけに、私たちのブランドとプロダクトを、さらに広く深く日本の方々に知っていただきたいです。
そこで今、私たちのつくっているものや為してきたことを体感してもらえる場を、日本に設けたく考えているところです。ぜひ楽しみに待っていてください」

イタリア・トスカーナ出身。1987年に設立のedra社の3代目。現在はグローバル営業ディレクターを務める。「イノベーティブな発想、ディテールにこだわり抜く姿勢、ものづくりに賭ける想いを、日本のみなさんと共有したい」