まだまだ謎に包まれた男、福田淳(あつし)。なぜだかいつも周りの人間から頼られ、案件を持ち込まれ、奔走する。そして常に国内外を飛び回り、一日一日を本気で楽しむ。タブーをタブー視せず、変化を模索する福田淳という男の連載、第3回目は福田氏が製作総指揮を務めた映画からエンタメが持つ希望について。

エンタメは生きるための欲求
エンタメって生きる意味、そのものだと思うんです。食事や睡眠と同じくらい、エンタメを求めるのは人間の根元的欲求だと感じているので。
14歳の時に映画館で初めて『スター・ウォーズ』を観て、生まれて初めてといっても過言ではないほど夢中になる、そんな衝撃を味わいました。その後、立て続けに『ヤング・フランケンシュタイン』を観てまた衝撃。今度は劇場中の人が笑っているではありませんか。映画ってすごい! いっきに多くの人を夢中にさせて、人を笑わせることができるメディアなのかと(自分がオモロい話を友達何人かにするより圧倒的に効率いいやん!)。以来、僕はいつか映画づくりに関わりたいと思うようになっていました。
よく映画のクレジットで「製作総指揮」という表記を見かけますよね。エンドクレジットだけでなく、予告編の時点でその名前がバーン! と出ることも。製作総指揮者って何をする人なのかというと、実は資金を出す人、資金を集めた代表の人のことなんです。今回その役回りを、ガレッジセールのゴリさんこと、映画監督の照屋年之さんが脚本、監督を務める映画『かなさんどー』で務めさせてもらいました(宣伝ですみません。現在、上映中なので観てね!)。
プロの映画監督とは絵コンテを描ける人
僕は現在、沖縄にも拠点を持っていて沖縄の暮らし、文化、人にものすごく興味があります。そのなかで観た照屋監督による2018年の映画『洗骨』という作品に、再び衝撃を受けたんです。これは沖縄の離島・粟国島に古くから残る洗骨という埋葬の風習を通して家族を描いた作品。島の独特な死生観で、「この世」と「あの世」とその境界線があるといいます。沖縄出身の照屋さんが沖縄を舞台に見事にそれを描いていて、こんな人にもっと映画をつくってもらいたい。そういう思いで製作をお願いしたのです。
そもそも製作総指揮はお金を集めたり出したりする仕事。でも私の38年間のエンタメ経験では、それだけの役割で終わる方はひとりもいませんでした。お金を出すわけですから当然口も出すわけです。ですが、映画は総合芸術。お金を出したから偉いって訳ではなく、皆がそれぞれプロの役割を持って共同で仕事を進めます。
私は20代の時から映画製作に関わっており(最初は宮沢りえさんの『ぼくらの七日間戦争』で助監督やりました!)、その当時からお金を出す人とつくる人では、常にありとあらゆる揉め事が繰り広げられてきました。そのたびに現場は大混乱。本当に映画づくりって大変だと実感したものです。
その経験があるので、今回は新しい時代に合った製作総指揮でありたいと最初から心に決めていました。ハリウッドスタジオのように編集権まで監督からとり上げてラストシーンを変えてしまうやり方ではなく、徹頭徹尾「映画作家」中心主義を貫こう、と。ゴリさんを信じたからにはお任せする。脚本の最終稿を読んでから、完成試写までまったく干渉しませんでした。宣伝方法やビジュアルの決定も監督ファーストです。
照屋さんと初めてお会いした時、「僕は指示をしたりしません、お金を出しますのでゴリさんの好きなようにつくってほしい」とだけ伝えました。あまりにも上手い話に、最初は僕のことを詐欺師だと思っていたそうです(笑)。照屋さんは実際にお会いして話すなかで、ずっと映画のことを考えている人なのだとつくづくわかりました。ちょっと喫茶店で誰かを待っている間も、脚本を書き、アイデアをまとめている。
エンタメは生きるための欲求です。だからこそ、想いが強い人につくってもらわなければならない。スポンサー(製作総指揮)のための映画になってしまうと人が生きる渇望を満たすエンタメにはならないと思うのです。本作で14作目というベテラン監督の照屋さんにつくってもらえるのだから、なおさら私が口出しすることはありません。そうして観た完成試写で、私は大泣きしてしまいました(プロセスにまったく絡まず、一観客として初めて見たせいで!)ほんとにいい映画です。
私のなかで、映画監督のプロの定義があります。それは自分で脚本を書き、絵コンテを描ける人。名作『サイコ』の45秒の殺人シーンでは、ヒッチコックは78カットを使い、臨場感を表現。キューブリックは『シャイニング』で斜め下のアングルからジャック・ニコルソンを撮って、怖〜いシーンをつくり上げました。映画は舞台とは違って、カメラアングルで表現ができる。それをしっかりイメージしてコンテを書きこんでいる人、それこそがプロ。照屋さんはそれができる稀有な人です。
イマジネーションが無限の新しいストーリーを生む
映画づくりには誰も思いつかないイマジネーションが必要です。そしてそれを実現させるお金も必要。そのイマジネーションが当たると1円の製造原価でも1億円の価値になるという摩訶不思議なビジネスなんです。
しかし果たして、これって映画づくりだけの話でしょうか? スタートアップビジネスに当てはめたら、1億円を稼ぐためには社会にとって意味があることを見つけだし、イマジネーションを現実のものとして成立させないと稼ぐことはできません。
元々、ユニクロのターゲットは「ファッションに興味がない人」でした。普通のアパレルと発想が真逆。「パンパース」はオムツ商品を売っているのではなく「お母さんの子育てを助ける」という使命を持っています。IBMは、AIをつくることが目的ではなく「地球を賢くする」というヴィジョンを持っています。よく社会を見てイマジネートしたら、まだまだ無限に新しいストーリーがつくれるはずです。
映画の話をしていたのにビジネスの話になってしまいましたね。とにもかくにも、私は照屋さんに映画をつくってもらいたい、たったそれだけのイマジネーションで、今回の映画で製作総指揮にならせてもらいました。何度も言いますが、本当に何もしていません(笑)。
皆さん、絶対にエンタメのウィッシュリストがあるはずです。私は大学生の頃、ヒッチコックの映画を全部観て、映画監督であり脚本家のフランソワ・トリュフォーとの対談を読み、撮影背景を知って映画づくりの奥義を知りました。『オーシャンズ11』を観てタキシードをつくってみたり、メグ・ライアンの『フレンチ・キス』を観て、パリからニースまで列車で出かけてみたり、ホント単純に影響を受けているんですよ。
ウィッシュリストがあると人生は楽しくなる。エンタメは人間が希望を持って生きていくためになくてはならないもの、生活必需品そのものですから。
Editor’s Note|運気のいい社長室の秘密!?
複数会社を経営している福田さん。ゲーテの取材はそのうちのどこかのオフィスやご自宅で行っていますが、どの部屋も日当たりがよく、なんだか運気がよさそう。「社長室はいらないと言っているのですが、それでも一定の場所に社長を配置しておいたほうが社員も安心なのでしょう、なんとなく気持ちはわかります(笑)」。
お気に入りのアートや音楽に囲まれたその空間は、思考をめぐらすにはうってつけなはず。「気に入ったアートをせっかくかけたのですが、位置がちょっと違うなと、これから直そうと思っています」。理想の社長室づくりはまだまだこれからのようです。

ATSUSHI FUKUDA
1965年大阪府生まれ。ソニー・ピクチャーズを経て、ソニー・デジタル・エンタテインメント創業。同社退職後、自身の会社スピーディ設立。LAでアートギャラリー、リゾート開発、沖縄で無農薬ファームなどの事業を行う。『好きな人が好きなことは好きになる』など著書多数。