PERSON

2025.03.24

職場の中心に「競争」を置くと、「敵」をつくるだけ。切磋琢磨できる「ライバル」をつくるには?

放送作家、NSC(吉本総合芸能学院)10年連続人気1位であり、王者「令和ロマン」をはじめ、多くの教え子を2024年M-1決勝に輩出した・桝本壮志のコラム。

吉本NSC人気講師・桝本壮志コラム。

「絶対に負けたくない同期や後輩は職場にたくさんいますが、互いを高め合ったり、励まし合ったり、切磋琢磨できる仲間が一人もいません。そういった存在をつくるにはどうしたらいいんでしょうか?」という御相談をいただきました。

「同僚」という絆めいた言葉を一皮剥けば、ポストや出世を競う「商売がたき」。

頭では理解していても、おいそれと手を貸したり、手柄を譲ったり、弱みを見せたりは、なかなかできませんよね?

そこで今回は、全国から指折りの「個」や「我」が強い人たちが集まってくる吉本NSCで僕が伝えてきた、「切磋琢磨できる同僚は必要なのか? そういった存在をつくるのはどうすればいいのか?」についてシェアしていきたいと思います。

切磋琢磨は、大人の「かしこい」生きかた

まず、互いを励まし、共に向上していく切磋琢磨できる仲間の存在は、そもそも必要なんでしょうか?

間もなく吉本NSCにも新入生(芸人の卵)がやって来ますが、最初は「ここへは仲間をつくりに来たんじゃない」「実力がすべてだから群れるなんてダサい」という考えの生徒がたくさんいます。

たしかに芸人界は、劇場メンバーになるにも、番組レギュラーを得るにも、賞レースで優勝するにも、同期や同僚を蹴落としていかなければならないサバイバル。

仲間と切磋琢磨なんてちゃんちゃらおかしいというスタンスも十分に理解できます。

しかし僕は、そんな生徒たちに「もっと、かしこくやろう」と伝えています。

多くの若手は、学生時代は「仲間と群れるもの」で、社会に出たら「個で戦うもの」だと思っていますが、うまくいっている大人は“その逆”だからです。

例えば、 同じ年にM-1王者と準優勝になった令和ロマンとヤーレンズは、ずっと2組でライブをやって漫才を磨き、高め合っていました。

一流のプロ野球選手も、各々のチームで戦いつつ、侍ジャパンでは変化球の握りを教え合っています。

みなさんの会社のトップも同じ。よくIT社長たちが会食している写真を目にするのは、ただ群れているのではなく有益なビジネス情報を共有しているから。

腹の底では、絶対負けたくない、出し抜きたいと思っているライバルだけど、その感情をすっ飛ばすくらい、相手が口にする経済予測や未来洞察が甘美であり、得をするからです。

一匹狼という言葉はかっこいいですが、社会人生活では情報弱者になることも多いので、“かしこく生きる手段の一つ”という意味で、僕は切磋琢磨できる仲間をつくることが大切だと考えています。

「ライバル」になるか「敵」になるかは思考次第

では、どのようにしたら切磋琢磨できる仲間はつくれるのでしょうか?

僕の知見だと、それは“職場での心持ち”にあります。

相談者さんのように、「絶対に負けたくない同期や後輩が職場にたくさんいる」という方は多いでしょうし、かつての僕もそうでした。

心の中で同世代の放送作家とレギュラー番組の本数を競い、自分がやりたかった番組を担当している作家を妬み、勢いのある後輩を阻害したい気持ちにもなりました。

しかし、そういったスタンスで仕事をしていると、いつの間にか周りは“自分がこしらえた敵だらけ”になっていることに気づいたのです。

相手は何も変わっていないのに、こっちの“心持ち”が歪んだせいで、勝手に距離を置き、勝手に不機嫌になってしまう。これでは仕事がうまくいくはずがありません。

そういった苦い経験から学んだのは、職場の人間関係の中心に「競争」を置くと、そこから生まれるのは「自分は勝者か? 敗者か?」という未来だけ。

切磋琢磨できる「ライバル」ではなく、「敵」をつくってしまうということでした。

職場の真ん中には、「勝ち負け」でなく、こっちも相手も良いパフォーマンスをする「好勝負」をすえる。そして、互いの健闘を称え合うマインドにシフトする。それが切磋琢磨の仲間を得る思考のコツなんですね。

ではまた来週、別のテーマでお逢いしましょう。

桝本 壮志/Soushi Masumoto
1975年広島県生まれ。放送作家として多数の番組を担当。タレント養成所・吉本総合芸能学院(NSC)講師。王者「令和ロマン」をはじめ、多くの教え子を2024年M-1決勝に輩出。

COMPOSITION=古澤誠一郎

TEXT=桝本壮志

PHOTOGRAPH=杉田裕一

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