親との縁が薄かった俳優、大東駿介は今、家族を持ち、父親として奮闘している。けれどそれは、子育てをしているのではなく、「子供といっしょに自分が育っている」と表現する。【その他の記事はこちら】

子供は育てるのではなく、共に育つ存在
「ウチの子供が小さい時、空を見て言ったんですよ。『パパ、空青いね!』って。まさに、“青い”が太字の感じで。で、空を見上げたら、本当に真っ青だった。ハッとしましたね。こんなにシンプルな、本質を突いた言葉で、人は感動させられるんだと。俳優という、言葉を扱う者としても衝撃を受けました。子供から教わることは、たくさんありますね」
子供は、大人がふだん見失っていることを思い起こさせてくれる大きな存在。子育て真っただ中で、子供たちと日々向き合っている大東は、そう感じているという。コロナ禍で、出演を熱望していた作品が頓挫した際も、「子供から“アドバイス”を受けた」と嬉しそうに笑う。
「『やりたかった仕事ができなくなっちゃったんだよね』と言ったら、『パパ、それ本当にやりたかった?』って言うんですよ。『ものすごくやりたかった』と答えたら、『ものすごくやりたいって、ちゃんと伝えた?』と真面目な顔で聞かれて。またもや衝撃、です。想いをちゃんと伝える。それは、人として大切なことやなと」
俳優は、オファーがきて出演できる存在であり、オファーされるには、出演した作品で力を見せるしかない。大東の中にはそんな考えがあったのだろう。自分から「出演したい」「やりたい」と表明することは、それまであまりなかった。
「子供は、社会で生きていくための知識は持っていないかもしれないけれど、人として生きていく知恵は、大人よりずっと持っているんじゃないかなと思います。大人が失ってしまったものを、ものすごく純粋な形で持っているというか。人を見る目も、大人よりずっと鋭い気がする。だから、子供との時間は、自分が人として、“どうあれているか”を教えてもらえる、めちゃめちゃありがたい時間になっています。
“子育て”というけれど、僕は、子供を育てているという感覚はないですね。それどころか、子供といっしょに育ちましょう、成長しましょうという気持ちです」
子供が文化を欲している時は拒否をしない
大東が子育てで最も大切にしているのは、「子供が、シンプルな言葉で人を感動させられる環境をつくること」。それは、子供が伸び伸びと、おおらかに、子供らしい純粋さを表現できる安心で安全な環境を提供するという意味でもあるのだろう。そのためにも、「どうせ子供にはわからない」などと考えず、子供と同じ目線に立ち、仕事のことも含め、さまざまなことを話すようにしている。
「子供が“文化”を欲している時に、僕の都合で絶対に拒絶しないことにしています。どんなに疲れていても、絵本を読んでほしいと言われたら断りません。子供の幼稚園にもよく行くんですけど、自分の子以外からでも『紙芝居読んで』とせがまれることがあるんですよ。それが嬉しくて、仕事が入っていない日は、紙芝居を読むために幼稚園に出かけることもあるくらい(笑)。
文化に触れることで、人は、知識も感性も磨かれるんだと思います。その瞬間を、目の前で見せてもらえているんだから、ものすごくありがたい。僕の財産ですね。それに、全身で喜んでくれる子供たちを見ると、めちゃめちゃ嬉しい! 人に喜んでもらえるのって、こんなにも心が温かくなるのかと、感動させられっぱなしです。
……中学時代、死を意識しながらも、死ぬのがものすごく怖かった。でも今は、家族といっしょに過ごすことが幸せ過ぎて、『今やったら、いつ死んでも後悔はないかも』って感じるんです。いや、やっぱり違うかな。もっと家族との時間を過ごしたいから」

1986年大阪府生まれ。2005年デビュー。近年は連続テレビ小説『らんまん』、『アナウンサーたちの戦争』(2023)や『あのクズを殴ってやりたいんだ』(2024)などに出演。待機作に映画『岸辺露伴は動かない 懺悔室』(2025年5月23日公開予定)、NHK大河ドラマ『豊臣兄弟!』(2026)がある。
周りが気づき、助けられる社会でありたい
親として、ひとりの大人として、子供と誠心誠意向き合っている大東にとって、虐待をはじめ、子供にまつわるさまざまな問題を抱えている社会はどのように映っているのだろう。
「虐待死のニュースなどを観ると、『もっと早く児童相談所が介入していれば』と言うけれど、その前に周りが気づき、助けられるような社会であってほしい。子供が苦しんでいるのを、隣人が気づき、声をかけられるような。大都市では隣に住んでいる人の顔もわからないと言われているけれど、それはどうにかならんもんかなと。
子供に限らず、大人でも苦しんでいる人はたくさんいる。子供を産んだものの、親になりきれない人もいると思います。許されることではないけれど、子供を虐待しようなんて気持ちはないのに、貧しさとか孤独とか、いろんな苦しみが蓄積されて、結果的にそうしてしまう人もいるだろうし」
子供に対する虐待、少子化、貧困、いじめ、孤独、犯罪、自殺者の増加……。それらは別々の問題ではなく、すべてつながっている。それを解決する第一歩は、大東が指摘するように、無関心を払しょくすることだ。
「辛い幼少期を過ごした身として、子育て中の親として、未来の子供たちがより生きやすい環境をどうやったらつくれるか、それは常日頃から考えています。ムーブメントじゃなく、当たり前にある状況はどうすればできるのかって。
そのためには、もっと政治に関心を持った方がいいとも思います。もちろんみんな持っているとは思うんですけど、社会問題と政治が、どうもセパレートしている気がします。選挙に行こうというキャンペーンはあっても、その前段階の、政治に関心を持つための活動はあまりない。それは、メディアに関わっている人間のひとりとして、何とかしたい気持ちが強いですね」
自身の暗い過去を負のエネルギーに変えて邁進してきた20代、仕事を通じて人のありがたみと心の豊かさを知り、子供から共に成長する喜びを教えられた30代。来年40代に突入する大東駿介は、これからどんな生き様を見せ、どんなメッセージを発信してくれるのか。俳優としても、人間としても、その成長に注目していきたい。
<衣装クレジット>
コート¥55,000、パンツ¥29,700(ともにニードルズ)、ベルト¥27,500(ウォーボーン ウォーク)、シューズ¥86,900(ネペンテス/すべてネペンテスTEL:03-3400-7227) シャツ¥31,900、ネクタイ¥14,300(ともにエンジニアド ガーメンツ/エンジニアド ガーメンツTEL:03-6419-1798)