井上盛夫氏が率いるソルト・グループが、2024年秋、長寿を名称に冠したホリスティック・ウェルネス複合施設「THE HUNDREDロンジェビティハウス」を銀座にオープンした。先端医療×伝統医学×日本伝統の食文化を融合したラグジュアリー施設が誕生した背景と想いに迫る。【井上氏の仕事術はこちら】

先端医療、伝統医療、日本の伝統食をワンストップで提供
レストランフロアの上にメンバー専用のオフィス&ラウンジを設け、ビル一棟で食事も仕事も遊びも完結できる「EAT PLAY WORKS広尾」に、名門ゴルフ場内にオープンした会員制グランピング施設「TOKYO CLASSIC CAMP」など、ユニークなコミュニティ・ビジネスを次々と仕かけてきたソルト・グループCEO、井上盛夫氏。今回、新たに挑んだのは、近年勢いを増している先端医療の分野だ。
もっとも井上氏が手掛けるだけあって、単に医療を提供するだけの施設ではない。先端的な医療をメインにした「THE HUNDRED CLINIC」が位置するのは5~6階で、7階はメンバーシップ会員専用の「LONGEVITY HOUSE」、8階にはアーユルヴェーダの施術が受けられる「WELLNESS SALON」、さらに9階には、“熟鮓(なれずし)”で名を馳せる名料理宿が監修する日本料理亭「百薬 by 徳山鮓」で構成。先端医療、伝統医療、日本伝統の健康食を提供するこれら5つのフロアをトータルで活用し、健康に、長寿をめざすのがコンセプトだ。

「人生100年時代と言われて久しいですが、大切なのは、心身ともに健康で、元気に長生きすること。それには、医療に加え、食をはじめとする生活習慣やメンタルなど、多方面からアプローチすることが不可欠。これらがワンストップで体験できる施設があったら、素晴らしいし、多くの人に喜んでいただけるのではないかと。これも、僕の“妄想”の延長ですね(笑)」
対極にあるように思える先端医療と伝統医療の両方を扱うのもユニークだが、さらに印象的なのが、空間づくりだ。
「THE HUNDRED CLINIC」のエントランスに足を踏み入れると、そこに広がるのは無垢材の床に漆喰の壁、古木の柱など、天然素材をふんだんに用いた温かみのある空間。正面には、ニセコの名旅館「坐忘林」の共同創設者としても知られるショウヤ・グリッグ氏の作品が掲げられ、アンティークの調度品や作家ものの器などがセンスよく配されている。レセプションのスタッフが身に着けているのも、医療機関にありがちな真っ白なユニフォームではなく、天然染の柔らかな素材のウェアと、まるで、上質なブティックホテルを訪れたかのような錯覚に陥る。
施術を受けるプライベートルームもまた然り。木製のドアを開くと、まず目に飛び込んでくるのは、アルフレックスの名品チェア、マレンコ。大きく採られた窓からは、明るい光が差し込み、心地よい空気が流れている。
「全然クリニックらしくないでしょう? それを狙ったんです(笑)。日本の医療機関は、たいてい無機質で殺風景。僕は、あの雰囲気がどうも苦手で。ヨーロッパだと、海が見える気持ちの良い場所に、洒落たインテリアの素敵なクリニックがけっこうあるんですよ。せっかく健康になるために足を運んでいただくのですから、心からリラックスできる空間を提供したい。そう考えて、造りも、内装も、家具や調度品も選び抜きました」
医療もアーユルヴェーダも、こだわったのは品質
井上氏がこだわったのは、コンテンツや空間づくりだけではない。提供するのが医療だけに、何よりも品質を重視した。
「抗加齢医療や再生医療を提供する施設は、ここ数年で急増しています。医療の分野に新たに参入するのだから、信頼性が高く、高品質なものを提供したい。そんなことを考えている時に、幸運にも、抗加齢医療・再生医療の第一人者の方とのご縁をいただけました。その方に僕がイメージしていることをお伝えしたところ、賛同くださり、施設の立ち上げにご協力いただけることになったのです」

統括院長には、アンチエイジングの第一人者で、再生医療のパイオニアでもある日比野佐和子先生が就任。老化などで衰えた組織や臓器の機能の維持回復を期待する治療など、エビデンスに基づいた治療を追求する。
また、老化状態がわかるエピクロック検査や免疫年齢を調べるNK細胞活性検査なども実施。その結果を踏まえて、先端的な医療のほか、NMNや超高濃度グルタチオンなどの点滴、アーユルヴェーダ、食事など、健康になるための最適な提案を行うという。

大阪大学大学院医学系研究科未来医療寄附講座特任准教授。「エイジマネジメント」と「プレシジョンメディスン(それぞれの患者にあった最適な治療)」をテーマにした最先端医療において、基礎研究から臨床まで幅広く活躍。美容医療の分野にも精通し、テレビや雑誌等メディアなどでも注目されている。
「あまり知られていませんが、再生医療の分野では、日本は世界の最先端を走っています。いわば、再生医療は日本が誇る文化と言っても過言ではない。年々インバウンドが増加していますが、これからは、再生医療をはじめとする先端的な医療を受けるために日本を訪れる外国人旅行者がさらに増えるのではないでしょうか。
その点でも、銀座というロケーションは魅力。特にこのビルは、1階から4階まで、日本を代表するファッション・ブランドの『イッセイ・ミヤケ』が入店していますからね(4階はオフィス)。ビル一棟が、日本文化の発信基地になっているようなものです」
8階の「WELLNESS SALON」には、ネパール現地の医師資格を持つアーユルヴェーダ専門家を招聘。個別カウンセリングに応じて施術内容のカスタマイズや、日常生活でのセルフケアをアドバイスしてもらえる。アーユルヴェーダは世界最古の医療として知られる伝統予防医学である。

また、9階の「百薬 by 徳山鮓」では、井上氏が信頼を寄せる発酵料理の名手、徳山浩明氏が考案した、舌に良し、身体に良しのメニューを提供する。
「医食同源という言葉に象徴されるように、食と健康は密接な関係があります。そもそも僕のベースにあるのは、食を通じて、日本の価値や文化を世界に伝えたいという想い。その点でも、この施設に“食体験”はなくてはならないものでした。徳山さんの手がける料理は、日本が誇る伝統料理のひとつですし、何よりおいしい! おいしいものを食べて健康になれるなんて、最高ですよね」

メンバーシップから新たなビジネスの種が生まれる
「THE HUNDRED ロンジェビティハウス」に、井上氏がどうしても設けたかったもの。それは、メンバーシップ会員専用の「LONGEVITY HOUSE」だ。ゆったりとしたソファが設置されたリビングルームと井上氏が厳選したアンティークの調度品やアートが並ぶベッドルームから成り、ベッドルームで医療やアーユルヴェーダのトリートメントが受けられるほか、リビングルームでリモート会議やデスクワークをすることも可能だ。
ソルト・グループは「TOKYO CLASSIC CAMP」や「EAT PLAY WORKS」、都会のアウトドアパーク「SUNSET PARK CLUB」と、これまで3つのメンバーシップサロンを手掛けており、今回が4例目となる。

「メンバーシップサロンは、いわば、コミュニティのひとつの在り方。イギリスでメンバーシップクラブに入会し、そう実感しました。あるコンセプトのもと、それに共感したメンバーたちが集い交流する時間は、良い刺激になりますし、とにかく楽しい! そこから、ビジネスが広がったり、新たなプロジェクトが生まれたりすることもありますしね。そして、気づいたんです。これって、自分が今まで築いていたコミュニティと同じだと」
学生時代からビジネスをスタートしていた井上氏だが、本人いわく「あったらいいなという自分の“妄想”を形にしてきただけ」。その後押しをしてくれたのが、気の合う仲間=コミュニティだ。
「食べながら飲みながらの寛いだ雰囲気で、ああでもない、こうでもないと、ざっくばらんに話をする。その中で、『こういう施設があったらいいよね』『それ、絶対イケるよ』『こんなコンテンツもあれば、もっとおもしろくなりそうじゃない?』『どうやったら実現できるかな?』なんていう雑談から、人が楽しめ、喜ぶようなプロジェクトが、いくつも生まれてきました。そういう場を、多くの人に提供したいと考えています」

次々と革新的な施設を立ち上げている井上氏だが、「これは無理じゃないか」と怖気づくことはないのだろうか。そうたずねると、井上氏は楽しそうに笑いながら、「まったくないですね。海外に存在するということは、誰かが実現しているということ。だったら、自分だってできるはずですから」と、答えてくれた。
妄想は常に頭の中に詰まっているという井上氏。今後も、革新的なプロジェクトを生み出してくれることを期待したい。
THE HUNDRED ロンジェビティハウス
東京都中央区銀座4-4-2 5-9F
TEL:03-6264-4782
井上盛夫/Morio Inoue
1966年兵庫県生まれ。立命館大学在学中から飲食店経営に携わる。2002年、ソルト・コンソーシアムを設立し、自社ブランドの飲食店運営をはじめ、商業施設・不動産などのバリューアップ、ウェディング、グランピング、海外でのレストラン展開など、7つの事業を展開。日本の食文化を世界に発信する日本ファインダイニング協会(JFDA)を発足。