2024年パリ五輪の総合馬術団体で銅メダルを獲得した日本代表の戸本一真(41歳)は、五輪後に活動拠点を英国から日本に戻した。所属する日本中央競馬会(JRA)の方針で、国内で後進の指導に当たりながら競技を続ける。2018年のチーム結成から英国に拠点を置く「初老ジャパン」から離脱するが、2028年ロサンゼルス五輪出場への思いは捨てていない。
4人全員で勝ち取った銅メダル
2024年夏のパリ五輪の総合馬術団体で銅メダルに輝いた「初老ジャパン」。日本馬術勢の五輪での表彰台は、1932年ロサンゼルス五輪の障害飛越個人で金メダルを獲得した“バロン・ニシ”こと西竹一以来、92年ぶりの快挙だった。
五輪に出場できるのは本来3人で、リザーブのひとりはメダルをもらえない。パリ五輪では馬場馬術、クロスカントリーに出場した北島隆三(38歳)の馬が最終種目の障害馬術の前の馬体検査をクリアできずに交代となり、田中利幸(39歳)が緊急出場。全選手が出場したことで4個のメダルが与えられた。
選手入れ替えによる減点がなければ銀メダルを手にしていた計算になるが、選手たちは「交代があったから4人揃って表彰台に上がれた。何より誇らしい銅メダル」と口を揃える。
メンバーである戸本一真、大岩義明(48歳)、北島、田中の平均年齢は41.75歳。根岸淳監督(47歳)が命名したユニークなチームの愛称も話題を集め、2024年の流行語大賞でトップ10入りを果たすなどフィーバーした。
その初老ジャパンから戸本が離脱する。パリ五輪では総合馬術個人でも日本勢最上位の5位に入ったエースだが、所属する日本中央競馬会(JRA)の方針で、パリ五輪後は拠点を英国から日本に戻して後進の指導に当たる。
「僕は活動場所が英国から日本に変わる。(初老ジャパンの)4人より下の世代が経験不足で育っていない課題があるので、若手の育成をしていきたい。後輩を教えるのがメインの仕事になる」
大岩、田中、北島の3人は引き続き、英国を拠点に活動する。JRAは戸本に変わる新たな若手を英国に派遣する方針で、その選手が初老ジャパンに合流する見通しだ。
「初老ジャパンのネーミング、気に入っています」
日本代表が“初老”になったのは必然だった。日本の選手が世界で戦えるようになるには、馬術の競技会が毎週のように開催される本場の欧州で経験を積むことが欠かせない。欧州での生活は最長の大岩で24年、最短の戸本でも8年に及ぶ。
根岸監督は「欧州で開催される大会の数は日本の10倍以上もある。小さい頃から経験を積める欧州の選手と違い、日本の選手は本場で経験を積まないとレベルが上がらない。だから、皆、世界で通用するようになる頃には初老なんです」と説明した。
パリ五輪後、メンバーは街を歩けば「初老じゃね?」と指をさされたり「馬術の方ですよね」と声をかけられるようになった。SNS上では「初老は失礼」との声も上がり「イケオジ・ジャパン」や「ダンディー・ジャパン」など新ニックネームの候補も飛び交う。
戸本は「そんなにイケオジではない。“初老ジャパン”のネーミングがなければ、ここまで注目されていたかは疑問。今は気に入っています」と笑う。
2024年12月には4人揃ってJRA馬事公苑でトークショーと競技のデモンストレーションを行った。イベント名は昭和を意識し「クリスマスだヨ!初老ジャパン全員集合」。詰めかけた多くのファンの前で、人馬一体の迫力ある動きを披露して競技の魅力を伝えた。
初老ジャパンから離れる戸本だが、国内で競技は続ける。新拠点となるJRA馬事公苑は練習環境が充実しており、2026年アジア大会では会場としても使用される。後進の指導に当たりながらトレーニングを続け、自ら若手の壁になるつもり。もちろん、2028年ロサンゼルス五輪出場への思いも捨てていない。
「環境が変わるので日本でどんなトレーニングができるのかを考えて、ロスに向けて自分にチャンスが巡って来た時に“いつでもいけますよ”と言えるように準備していきたい」
4人は公私ともに親交が深く、絆は強い。更に輝くメダルを目指す2028年のロサンゼルス五輪を前に、戸本の再合流はあるのか。競技会やイベントでの抜群のチームワークを見ていると、4年後も同じ4人で戦うことを期待せずにはいられない。
戸本一真/Kazuma Tomoto
1983年6月5日岐阜県生まれ。明治大学を経て日本中央競馬会に所属。競馬学校の教官経験がある。2021年東京五輪では総合馬術個人で4位。2024年パリ五輪は総合馬術の団体で銅、個人で5位入賞。