PERSON

2024.12.19

スピードスケート・高木美帆、最強の女王であり続けるために

2022年の北京五輪で金1、銀3個のメダルを獲得したスピードスケードの高木美帆(30歳)が、更なる進化を求めて試行錯誤を続けている。北京五輪後に自身でチームを発足。スケート靴のブレード(刃)の種類も変えた。メダル量産の再現を狙う2026年ミラノ・コルティナダンペッツォ五輪に向けて、変化を恐れずにチャレンジしていく。

2024 スピードスケート 全日本選手権 女子 1000m

練習環境をガラリと変えて、さらなる高みへ

プレ五輪シーズンとなる2024年度。高木美帆はW杯前半戦で出場した全レースで優勝するなど、順調に勝利を重ねている。

12月に開催された全日本選手権でも500、1000、1500mで3冠を達成。世界のトップを走り続けるが「今季は納得いくレースは1本もできていないというのが現状。試行錯誤している日々です」と満足感は一切ない。

現状維持は衰退。そう言わんばかりに、2022年の北京五輪後は練習環境をガラリと変えた。

2014年から在籍していた、所属の枠を超えて活動する日本スケート連盟のナショナルチーム(NT)を2022年春に離脱。北京五輪までNTでコーチを務めたオランダ人のヨハン・デビットコーチ(45歳)と、新チーム「team GOLD」を結成した。

チーム発足当初の選手は高木しかおらず、1人で練習する日々。「氷上練習は1人で取り組むのが大変というのは強く感じている」。仲間と切磋琢磨できない環境に苦しんだ。

2年目以降は女子団体追い抜きで五輪2大会連続メダリストの佐藤綾乃(28歳)、男子日本短距離エース格の村上右磨(32歳)らがチームに合流。現在は中国選手、韓国選手ら海外勢も加わりメンバーは総勢8人に増えた。

国籍や専門種目にとらわれず、高みを目指す多国籍トレーニングチームの結成は過去の日本スケート界にはなかった発想。オールラウンダーの高木には最高の環境といえる。滑りの強みやスケーティングへのアプローチの異なるチームメイトとの会話で新たな気づきも多いという。

「違う視点を知ることで、自分の強みも同時に知ることができた。チームが整ってきて、昨年まで抱えていた不安や心配事がなくなった部分も大きい。質の高いトレーニングができているし、この決断(新チーム結成)がいい方向に向いていると思う」

2023年夏にはスケート靴のブレードを数年ぶりに新調。刃の特徴に合わせて滑りを微調整する必要があり、まだ完全にはフィットしていない。

従来のブレードに戻す選択肢もあるが「ブレードを変えたなかで、滑りが未完成だと感じている。このブレードを使いこなせたらまだ速くなれるという思いはある」と中途半端な段階でトライをやめるつもりはない。

さらに、2024年12月13~15日の全日本選手権中にはレース後のわずかな時間を使って、新たな別のブレードもテストした。

「先のことを考えて違うブレードを少し試した。いろいろと気付くことがあって面白い。何でもやってみようという精神ではいます」

最強のオールラウンダー

高木は女子1500mの世界記録保持者。北京五輪では1000mで金、500m、1500mと女子団体追い抜きで銀メダルを手にした。

複数種目で世界トップクラスの力を持つ「最強のオールラウンダー」とも称される。W杯での個人種目での通算勝利数は33。日本勢最多34勝の清水宏保、小平奈緒まであと1勝に迫っている。

2025年1月下旬のW杯カルガリー大会で日本勢の最多勝記録更新の期待がかかるが、高木にタイトル数への執着はない。頭にあるのは過去の自分を超えることだ。

「ここからさらに変わっていかないといけない。自分を超えていくための挑戦をしていきたい」

30歳のベテランは追われる立場になっても、決して守りに入ることはない。進化のために変化は不可欠。高みを求めてチャレンジを楽しむ姿勢が女王であり続ける所以だ。

高木美帆/Miho Takagi
1994年5月22日北海道生まれ。5歳でスケートを始める。五輪は15歳で2010年バンクーバー五輪に初出場。2014年ソチ五輪は代表選考会で落選した。2018年平昌五輪は1000m銅、1500m銀、団体追い抜きで金。2022年北京五輪は1000mで金、500m、1500m、団体追い抜きで銀。女子1500mの世界記録保持者。サッカーで15歳以下の女子日本代表候補に選出された実績を持つ。読書好きで、本屋巡りが趣味。身長1m64cm。

TEXT=木本新也

PHOTOGRAPH=松尾/アフロスポーツ

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