放送作家、NSC(吉本総合芸能学院)10年連続人気1位であり、王者「令和ロマン」をはじめ、多くの教え子を2023年M-1決勝に輩出した・桝本壮志のコラム。
先週のこのコラムの原稿、『今、評価されていない人が手放すべきこと』を送ったら、すぐに担当者から「“評価する側が気をつけるべきこと”も知りたいです」という打診がありました。
たしかに、評価する側にも悩みがあって当然ですよね。
- 部下を公平・均等に見ることが難しい
- それぞれの持ち味が違い過ぎる
- 不満・クレームの矢面に立たされる
- 人材が育たない、離職していく
……などの思いを抱えているリーダーポジションの方も多いのではないでしょうか?
そこで今回は、吉本NSCで約1万人の人材を査定し、人気芸人を生んできた僕の知見を、「部下を評価する人が気をつけるべき3つのこと」という視点でシェアしていきます。
1.そもそも公平に見る必要なし=成果でなく○○で評価
まず、部下は公平に見ることはできませんし、見る必要もないと考えています。なぜなら、同じ「業種」にいても「競技」が違うからです。
例えば約15年前、僕は吉本さんから「ネタ見せの授業」を任されましたが、ひとくくりに「芸人」という名称でも、令和ロマンは漫才、空気階段はコント、ぼる塾はキャラクター、おばたのお兄さんはSNSと、世に羽ばたいていくときに手にした武器はバラバラでした。
もしも僕が、「公平に見なければ!」という感情を軸にして、「ネタの良し悪し」だけで評価し、彼らを淘汰していたら? 考えただけで寒気がします。
会社員や公務員は約3年で異動となるケースも多く、同じ業種だけど別の競技を始めることはザラだし、武器(強み)が見つかる時期も違いますよね?
なので私たち評価者は、「そもそも公平に見る必要はない」という感情を採用し、“仕事の「成果」だけに目を向けるのではなく、それぞれの持ち味に合った「変化」を評価していく”ことが大切です。
「この若手は、前より会議での発言が増えたな」「この人は、締め切りを守るようになったな」など、何でもいい。
成果でなく変化を評価していけば、“組織から人材を排除していくリーダーではなく、手持ちの人的資源を豊かにしていくリーダー”になれるんですね。
2.評価者が排除するべきなのは「座高検査」
人材を排除していく思考は無用ですが、私たち評価者は排除していかなければならないモノがあります。僕はそれを“組織内の「座高検査」さがし”と言っています。
ご存じのように、戦前から約80年間、日本の学校では健康診断で座高検査が行われていましたが、文部科学省は「測ってもあまり意味がない」として廃止しました。
これと同じように、その組織では当たり前のチェックリストが、よくよく考えると、ただの組織風土ってことも大いにありえます。
例えば僕の授業では、前述した「ネタのみの評価」の廃止を吉本さんに直訴し、ネタ以外のストロングポイントを持つ生徒を集めたクラスをつくっていただきました。
このとき、ただ廃止を求めるのではなく、他事務所の女性芸人(イモトアヤコさん、やす子さん、丸山礼さんなど)が、ネタだけではない人間力でブレイクしている点など、エビデンスをしっかり伝えたことも重要だったと思います。
最近、そのクラスにいた77歳のピン芸人・おばあちゃん(芸名)が書籍を出版するなどメディアでも話題になっているので、あのときの判断は正しかったと感じています。
3.評価者は「指示」でなく「開示」で導け
最後に、僕が実践してきた“評価者でありながら部下を育成していくコツ”を1つシェアします。
みなさんは、「評価を上げたい」と思っている部下に対して、どうやってアドバイスをしていますか? 「もっとこうすべき」や「こうしなさい」といった“指示になっている”ということはありませんか?
評価者が「指示口調」になると、それをどう打ち返してくるか? だけの「成果」に捕らわれ、自家発電の「変化」は生まれません。
大切なのは、「これについてどう思う?」「君ならどうする?」といった“質問口調によって自分を「開示」してもらう”こと。
指示でなく開示を念頭に置いて接していくことで、彼らの変化率、成長率が変わってくるんですね。
ではまた来週、別のテーマでお逢いしましょう。