アイドルながら文筆家としても注目されるTravis Japanの川島如恵留氏と、夢を叶える術として英語を活用する手法を説く同時通訳者の田中慶子氏。旧知の間柄のふたりが、川島氏初のエッセイ集が発売されたのを機に対談。伝えるという行為と夢の実現との関係からアイドル像まで、熱く語り合った。
“伝える”がつなげる、自らの「夢」
2024年11月22日、川島如恵留氏の初エッセイ集『アイドルのフィルター』が発売された。当日は川島氏の30回目の誕生日、「30歳までに本を出したい」という夢が実現したことになる。「アイドルになる」「世界デビューを果たす」など、次々と夢を実現してきた川島氏と、Travis Japanとはデビュー前の海外留学時から縁があり、Voicyで「夢を叶える英語術」を紹介している田中慶子氏。ふたりの対談から見えてくるものとは?
田中 エッセイ、とても面白かったですし、いい意味で意外でした。タイトルとは逆に、アイドルである自分と切り離して書かれている感じがして。
川島 ありがとうございます。17年間、アイドルというフィルターを通して、ものごとを見てきましたが、その内側、アイドルではない自分も出しています。
田中 寝る前に必ず日記を書いているとか。それは、昔から?
川島 自分の内側をアウトプットする作業は、学生時代からしていました。息を吐かないと吸えないのと同じで、頭の中のハードディスクに溜まっているデータを外づけに移さないと、新しいものが入っていかないというか。書くことで、情報の整理もできますし、書いているうちに、Aだと思っていたことがA’なんじゃないか、いや、これはBだよな、みたいに、自分を客観視できますからね。それに、過去に書いた文章を見直すと、「この時はこんなことを考えていたけれど、今はどう?」って、過去の自分が問いかけてきます。それも、書く面白さですね。
田中 文章を通じて、過去の自分と対話されているんですね。如恵留さんとお会いするたびに、「思考が深い方だな」と思っていましたが、エッセイを読んで、その思考に至るプロセスをはじめ、如恵留さんの頭の中を見せていただけた気がします。
アイドルはファンの夢や希望も叶える存在
田中 アイドルになることや本の出版など、これまでたくさんの夢を実現されていますが、「思考を整理する」「言語化する」ことと、夢を叶えることとの関係性は、意識されていますか?
川島 そうですね。本を出すことに関しては、2024年2月、ツアーの打ち上げで(所属レーベルの)ユニバーサルミュージックジャパンの担当者さんに、「僕、夢があるんです」と打ち明けたのがきっかけでしたから。
田中 やっぱり、言葉にするって、すごく大事! 言葉を受け取り、共感した人が応援してくれることもありますものね。
川島 本当に、周りの方々には感謝でいっぱいです。ただ、アイドルに関しては、自分自身の夢が叶ったというのは、ちょっと違う気がしていて……。僕は、川島如恵留という存在がアイドルなのではなく、川島如恵留と、過去、そして未来も含めたファンとの関係性を、アイドルと呼ぶべきだと思っているんです。
アイドルと言うとややこしいのでタレントと呼びますが、デビューにしても、大きなステージでのライヴにしても、タレントの夢は、ファンの皆さんの後押しがあって実現するものですし、ファンの皆さんも、「あなたに、もっと大きなステージで輝いてほしい」といった夢を、タレントに託してくださっている。アイドルは、自分の夢を追うだけでなく、皆さんの夢や要望、愛など、すべてを受け取る存在なんじゃないかと。
田中 なるほど! 如恵留さんはアイドルというか、スターですね。星は人々を照らし、道標になったり、希望を与えてくれたりすると同時に、星を目指し、想いを寄せる人がいるからこそ存在意義があるのだと思います。如恵留さんが言うとおり、タレント本人とファンが一緒に夢を見て、一緒に叶えるという関係性だから、(カリスマ性のあるタレントを)“スター”と称するのでしょう。私、20年以上同時通訳者をやっていますが、今初めて、“スター”とは、そういう意味なのかと、腑に落ちました。
「頑張った」と胸を張るのも感謝の示し方のひとつ
田中 Travis Japanは2022年に、アメリカの名門レーベルのキャピトル・レコードと契約し、全世界配信デビュー。私はエンタメに関わる方々の通訳も数多くさせていただきましたが、日本から世界にスターを送りだすのは、業界全体が長年にわたって願ってきたこと。その言葉を伝えてきた身としては世界同時デビューは感無量で。如恵留さんたちはこの業界に携わる多くの人の夢も叶えてくださったんです。
川島 ファンや周りの方々のおかげで、自分たちだけではたどりつけない場所に立たせていただけたと、ものすごく感謝しています。でも、その言葉だけで済ませるのではなく、「メンバー全員、めちゃめちゃ頑張りました!」って、胸を張りたい気持ちもあるんです。ファンの皆さんに背中を押していただいたから、辛いことも乗り越えられたし、必死で頑張れた。それを口にすることも、応援してくださった皆さんへの感謝の示し方だと思うので。
ダメでも絶対なんとかしてやると思っていた
田中 如恵留さんは、すごく前向きですが、仕事を辞めたいと思ったことはありますか?
川島 もちろんあります。一番行き詰まっていたのは20歳くらい、事務所の後輩がどんどんお仕事をもらっているのに、自分には声がかからなかった頃ですね。大学在学中で、同級生が就活を始めるタイミングだったこともあり、進路について、けっこう悩んでいました。その時、ゼミの担当教授が、「今しかできないことを頑張りなさい」と、声をかけてくださったんです。それで、「できるだけ頑張ってみよう」と、スイッチが入りました。
田中 怖さはありました?
川島 ダメだったらしょうがないというか、ダメでも絶対なんとかしてみせると思ってました。
田中 素晴らしい! やりたいことに挑戦するのは、ある意味リスク。それでも、「なんとかできるはずだ」「なんとかするんだ」と思って、挑戦するのは、自己効力感、いわば、自分を信じているからなのでしょうね。
川島 僕、そういう胆力は、けっこうあるんです(笑)。
田中 如恵留さんは、感謝する気持ちも、とても強いですよね。エッセイを読んでいると、ひしひしと感じます。
川島 周りの方からいただいている愛情を受け取る職業なので、そのあたりの感受性は、人一倍強いかもしれません。実際、今の自分があるのは、周りの方々のおかげ。そもそも、僕に感謝の気持ちがなかったら、こんなにも良いスタッフさんが周りにいてくださらないと思います。僕自身、時々自分に問いかけるんです。「この恵まれた状況を、当たり前のことだと思ってやしないか?」って。そのつもりはなくても、麻痺している可能性はありますから。どんなに些細なことにでも感謝できる人間でありたいといつも思っています。
田中 ご自分に対して、ものすごくストイック。
川島 一番カッコいいのは、他人に優しく、自分に厳しい人。この年齢になって、つくづくそう思います。僕自身は、自分にも他人にも厳しい人間だったんです。「オレが頑張っているんだから、お前も頑張れるはずだ」と。でも27歳でデビューしたころから、それまで以上に自分が多くの人に支えられていることを自覚するようになり、変わってきました。僕は自分にさまざまなルールや試練を課してきて、その経験を自分の中の貯金箱に貯めてきた結果、自分に自信が持てるようになった。それで十分で、他人に強いることじゃないなと。
田中 歌やダンスはもちろん新しいアイドル像を目指して、さまざまな資格を取り、勉強して執筆まで。そんな風に頑張っていることは、如恵留さんの存在自体から伝わってきます。だからみんな、如恵留さんのことを応援したくなる。私なんて今、タレントさんと同時通訳者という関係を忘れ、すっかりファン目線で話してますから(笑)。
川島 ありがとうございます! 2024年12月4日には、2ndアルバム『VIIsual』がリリースされます。映画やドラマの挿入歌、アニメのオープニングテーマなど、全13曲が収録されているので、多くの方々に聞いていただけたら嬉しいです。
川島如恵留/NOEL KAWASHIMA
アイドル・文筆家。1994年東京都生まれ。青山学院大学卒。小学生の頃から舞台に出演し、2007年、アイドル活動を開始。2012年、Travis Japanの結成メンバーに選ばれ、2022年10月、全世界配信デビュー。2024年5月にスタートしたGINGER WEB連載「のえるの心にルビをふる」も好評。2024年12月4日にはセカンドアルバム『VIIsual』をリリース。
田中慶子/KEIKO TANAKA
同時通訳者。1996年、米マウント・ホリヨーク大学卒業。番組制作会社やNPO法人勤務などを経て、同時通訳者に転身。政治経済、音楽業界のトップランナーを担当し、現在はコーチングの分野でも活躍。著書『新しい英語力の教室 同時通訳者が教える本当に使える英語術』も好評。