放送作家、NSC(吉本総合芸能学院)10年連続人気1位であり、王者「令和ロマン」をはじめ、多くの教え子を2023年M-1決勝に輩出した・桝本壮志のコラム。
「どうすれば、こんなに雰囲気のいい授業、集団になるんですか?」
以前、テレビ番組がNSCの取材に来たとき、ディレクターに聞かれました。
実はこれ、僕の授業見学に来る業界人によく言われます。生徒の表情、発言の自由度、ガヤ(反応)の多さ、自分で言うのもなんですが、毎年かなり活気があり、そこからブレイクスルーを果たす若手が多いんです。
さて、どんな「空間づくり」を意識しているのか? 手の内を教えると商売あがったりですが、今回はあなたにシェアしていきます。
「ニア」と雑談して、「ファー」と始める
みなさんは会議をどうやって始めていますか?
労務コンプラもある昨今、だらだらと長いミーティングは時代遅れ。いかに短く、効率よく、実りあるブレストができるか? 令和のリーダーには統率力が必要です。
時間割のある学校の授業も同じ。限られた時間内に成果を出すのが講師のタスクなので、僕はあるテクニックを用いています。
まず開始5分前に教室に入り、最前列(ニア)にいる生徒と小声で雑談を始めます。朝飯のこと、大谷翔平のこと、トピックは何でもいい。大方、ニアに座る生徒はやる気がある子なので会話は弾みます。
何やら小声で話していると、他生徒は「何を話しているんだろう?」と耳をそばだてるので、始業時刻にはすっかり全員が静かになるんです。
そして授業の第一声は、打って変わって最後列(ファー)の生徒に「オレの声、聴こえるー?」とか、「ホワイトボードの文字読めるー?」と問いかける。すると“最前列と最後列が一体化。つまり教室全体がグッと授業モードに切り替わる”んです。
教室の隅には「ミス」、端には「恥」を置く
これは以前、『ゲーテ』のインタビューでも答えた思考ですが、会議室や教室にいる成員が「ミス」を恐れたり「失敗」を怖がったりする集団は脆弱です。
世間を驚かせるような人材、商品を生むには“いかにミスや失敗の分母を増せるか?”がポイントになります。
そこで僕は、授業をするとき、教室の四方、つまり「隅」には“ミス”を置き、「端っこ」には“恥”を置くイメージで空間づくりをします。
毎年、新入生には、かつて自分が芸人を廃業したこと、結婚に失敗したことなどを語り、「他者に恥部を晒すことなど屁でもない」といったムードを伝播させていきます。
このとき、「若いときの一番ベタなミスがあるとしたら、ミスを怖がってしまうミスやで」などの励ましの言葉も忘れません。
やがて多くの生徒が発言をし、恥をかいてくれますが、ここで大切なのが“しない人を咎めない”こと。
会議で積極的に発言する人も、しない人も、それぞれ芸風があります。多弁な明石家さんまさんと、ひと言が面白いピース又吉直樹がいるように、それぞれ持ち味が違うので“しない人”を疎外しない。
事前にチーム全体に「自分のタイミングで前へ出てもいいし、出なくてもいいよ」というメッセージを発信し、共有しておくと、集団の雰囲気はぐっと良くなります。
部下への期待値は100%でなく、20%でうまくいく
メーカーの全商品が生み出す利益の8割は、2割のヒット商品が生んでいたり、映画業界の年間売り上げの8割は、2割のヒット作品が占めていたりする。これは「パレートの法則」というマーケティング領域でよく使われる概念です。
僕は、組織マネジメントでもこの法則が有用だと思っていて、“いくらリーダーが全身全霊で10人の部下を育成しても、しょせん2人しか育てられない”くらいの大らかな気持ちで生徒の前に立っているんです。
生徒(部下)への期待値を“100から20に下げる”。この思考をデフォルトにすれば、自分の指示通りに動かない人、サボっている人、成長が見えない人にイラっとすることは減ります。
さらに、言い換えると“チームの雰囲気は2割の人がつくる”と言えるので、自分が「理想とするチーム像」を全員に分かってもらおうとせず、2割の人に理解してもらえるように心を砕く。
すると、いつか集団のムードは、あなたのイメージに沿うようになるといった塩梅です。
いかがでしたか? また折をみて別のテクニックも公開しますね。ではまた来週、別のテーマでお逢いしましょう。