真打昇進からわずか4ヶ月で寄席のトリを務め、テレビ番組「笑点」のレギュラー大喜利に女性初の出演を果たした落語家の蝶花楼桃花(ちょうかろう ももか)に特別インタビュー。第3回。
女性初「笑点」レギュラー大喜利への出演
2022年9月には、テレビ番組「笑点」のレギュラー大喜利に、“代打”として女性初の出演を果たした蝶花楼桃花(ちょうかろう ももか)。そのきっかけは、BS日テレの番組「笑点 特大号」での若手大喜利だった。
番組企画のひとつとして行われた、レギュラーチームと若手大喜利チームの対抗戦。チームの座布団数の合計で競う大喜利に、若手が勝利した場合の賞品として出されたのが、三遊亭円楽の“代打”として地上波に出演する権利だった。
見事、優勝した若手大喜利チームのメンバーとして、蝶花楼桃花も地上波に出演することが決定。しかし、自身が“女性初”の出演者になることを、収録直前まで知らなかったという。
「円楽師匠の代打ってことは聞いていたんです。レギュラー大喜利に出るのは初めてだったのですごく緊張していて。そしたら、スタッフの方から直前になって『女性初だよ!』と聞かされ、『そうなんですか!? ちょっと待ってください!』と軽いパニックになりました(笑)。
特大号の若手大喜利には、以前からよく出演させていただいていて。なんでも歌にする“歌キャラ”でやっていたんです。でも、『今回は地上波だから、歌ネタじゃなくて回答の面白さで笑いを取ってね』と言われ、『そんなこと言わないでくださいよ!』と、頭の中がごちゃごちゃの状態で出ることになり(笑)」
そんな女性初のレギュラー大喜利への出演もあり、多くのメディアから注目を集めるようになった蝶花楼桃花は、次第に「笑点」の新メンバー候補として名が挙がるように。
一方、周囲から新メンバー候補として期待される蝶花楼桃花にとって、新メンバーが発表されるまでの時期は、なんともいえない困った思いを抱えながら過ごしていたという。
「宮治くんの時も、一之輔兄さんの時も、晴の輔兄さんの時も、レギュラー大喜利の新メンバーが発表されるまで、多くの方から期待の声をいただいていて。非常に光栄なことだし、とても嬉しいことでもありました。でも、私が新メンバーではないことは、私が一番わかっている。
みんなから『新メンバーになるんでしょ?』と言われ、『いや、私じゃないんです』と答えても、『発表までは言えないよね、、、』と信じてもらえず。私はなにも隠しごとをしてないのに、どこか皆さんを裏切っているようで、なぜか申し訳ない気持ちでいっぱいになるんです(笑)」
笑点の新メンバーに3人が選ばれた理由
2022年に、林家三平の後任として選ばれた桂宮治。2023年に、三遊亭円楽の後任として抜擢された春風亭一之輔。そして、2024年に林家木久扇の卒業と同時に、新メンバーとして加わった立川晴の輔。
国民的なテレビ番組として55年以上の歴史を誇る「笑点」のレギュラー大喜利に、若手落語家の3人が選ばれたことについて、蝶花楼桃花はどのように感じているのだろうか。
「宮ちゃん(桂宮治)は、私より4歳くらい年上なんです。でも、もともとサラリーマンだったところから弟子入りしたので、3〜4ヶ月ほど後に入門した後輩。若手大喜利の時から一番目立っていて、新メンバーに選ばれたのも納得でした。
力技でもっていくっていうか、ブルドーザーのような勢いで、エネルギッシュに笑いを取る感じ。でも、楽屋ではすごく大人しいんです(笑)。それは本人も認めていて。普段は静かで落ち着いているんですが、スイッチが入るとどこまでも加速していける。同期として尊敬できる落語家のひとりですね」
一方、続いて新メンバーに選ばれた春風亭一之輔には、桂宮治とは違う“おっとりさ”があるのだとか。
「一之輔兄さんは楽屋で話している時と、高座に上がっている時とでキャラがほぼ変わらない。まさに“天才肌”の落語家で、高座で語る枕話も面白いし、バラエティ番組などのトークもお上手。計算してやっているのかわからないくらい、平然とした顔ですべての仕事をこなす化け物です(笑)。
若手大喜利に出演したことがあるはずなのに、高座では若手大喜利に呼ばれないことをネタにしていて。そんな一之輔兄さんのスター性を見抜いて、大喜利のメンバーに抜擢した、笑点の番組スタッフの方々の目利きは、さすがだと思いました」
また、2024年に新メンバーとして加わった立川晴の輔は、大喜利における“立ち回り”が大きな魅力であり能力だという。
「私は、ずっと晴の輔兄さんが新メンバーになると予想していました。晴の輔兄さんとは、若手大喜利で共演していたのですが、全体を盛り上げる“バランサー”としての立ち位置が抜群で。
司会者をいじるネタが続いたら、一緒になっていじるネタをしたり、あえて自分だけ褒めるオチにしたり。前の回答者のネタに被せて面白いこと言う、チームプレイで笑いを取るセンスがあって。臨機応変に対応できる力は、これからも笑点で発揮されると思います」
笑点のレギュラー大喜利に抜擢される人には、それぞれ落語家としての“力”があり、選ばれるのも納得だと語る蝶花楼桃花。そんな彼女も、いつか新メンバーとして舞台に上がる日がくるのだろう。
今、蝶花楼桃花が注目する若手女性落語家
地上波で放送されている「大喜利」のディレクターズカット版以外にも、さまざまなコーナーが企画されている「笑点 特大号」。最近では、女性の落語家を集めた“女流大喜利”も人気コーナーのひとつなのだとか。
そんな女流大喜利にも出演している蝶花楼桃花は、ここ数年でメンバーとしての立ち位置が変化しているという。
「笑点の大喜利は、メンバーが座る位置によって役割が少しずつ違うんです。例えば、今だと宮ちゃんが座っている右端の位置だったら、全体を盛り上げるネタをやることが多い。逆に、小遊三師匠が座っている司会の横の位置は、全体を見渡しながらバランスよく笑いを取るとか。
もちろん座る位置で上下関係があるわけではないのですが、大喜利はチームワークでやるものなので、自分に求められていることを座る位置で感じ取りながら、メンバーがそれぞれネタを考えて披露しているんです。
最初は、私も右端や中央に座ることが多かったのですが、後輩の女の子たちが増えてきてからは、司会者の横の位置に座ることが多くなってきて。司会者をやらせていただいたこともありました。そんなチャンスもいただけて、本当に有り難いと思いながら頑張っています」
今では、後から入ってきた女性の落語家たちのリーダー的な存在として、後輩女子たちを牽引している蝶花楼桃花。さまざまな個性を持つ後輩たちのなかでも、特に注目している女性落語家を聞いてみた。
「若手の女の子たちは、みんなそれぞれ輝いています。でも、ひとりを挙げるとしたら、やはり上方落語の桂二葉ちゃんでしょうか。2021年に、新人落語家の登竜門である『NHK新人落語大賞』で、審査員全員が満点という快挙を成し遂げ、女性初の大賞を獲得した実力者。
しかも、女性でも落語ができることを証明したうえで、受賞後のコメントで『ジジイども、見たか!』って発言して。新聞の見出しにまでなったんです。これだけ印象的な言葉を、場の空気をこわさずに言ってのけた二葉ちゃんは、本当にカッコいい女性の落語家だと思います」
女性であることが個性のひとつだった落語界のなかでも、その数は年々増えていきつつあり、女性落語家それぞれの特性や性格が目立ち始めている今。さまざまなやり方や語り口を、ひとりの落語家として見てほしい。それが、蝶花楼桃花の一番の願いだ。