2024年2月、Appleから発売されたゴーグル型のデバイスApple Vision Pro（以下、AVP）。この次世代デバイスが2024年6月28日に日本でも発売されることが決定した。「近い将来、スマホを持っている人はいなくなり、人類はAVPのようなデバイスを身につけて暮らすようになる」と断言するのは、世界でもいち早くAVP専用のアプリを開発するITベンチャー、STYLYの渡邊信彦COOだ。AVP初の解説書『スマホがなくなる日』を上梓した渡邊氏にインタビューを敢行！ AVPで日常の暮らしがどう変わるのか、そして日本に訪れる大きなビジネスチャンスについて聞いた。
スマホに代わる次世代デバイス、Apple Vision Proとは？
2024年2月にアメリカで発売されたAVP。私にとっては待ちに待ったデバイスで、近い将来、スマホを持っている人がいなくなり、誰もがAVPのようなメガネ型のデバイスをかけて生活する日がやってくると私は確信しています。
AVPはインターネットと繋がっているので、装着した本人には、目の前の空間にPCのデスクトップやスマホの液晶画面が浮かび上がります。Apple IDと紐づいているため、メールを送受信したり、写真フォルダや、カメラ機能などももちろんあります。そして、それらが立体的に映し出される。SF映画の世界がもう現実になっているんです。
操作方法も今までと大きく変わり、目線を使うようになります。目線がポインターとなるため、操作したい部分を見つめると、その場所にカーソルが合わさるようになっています。人さし指と親指を空中で動かして目の前に浮かぶアイコンや画面を操作したり、空中に浮かんでいる仮想のキーボードを押すことができます。
私が購入したAVPを知人に試してもらったのですが、説明せずとも、みんな直感的にサクサクと操作をしていました。小さなスマホの画面から解放されて、より人間らしいインターフェースで操作できるデバイスが登場したと確信しましたね。まだスキーゴーグルのような見た目ですが、今は芸人の平野ノラさんが使用している「しもしも〜」のショルダーフォンの状態。すぐにスマホのように、日常的に身につけられるサイズに軽量化されるはず。
2024年6月28日に、日本を始め中国やシンガポール、オーストラリア、カナダ、フランス、イギリスの7ヵ国でも発売されることが決まりました。まだ約60万円と高価なので、ガジェット好きの方から少しずつ浸透していく形になるかと思いますが、GoogleやMetaなどのビッグ・テックが数兆円規模の資金をかけてデバイスの開発に力を入れていますので、価格合戦も行われるはず。これからスマホに変わる次世代デバイスの市場が盛り上がることは間違いありません。
STYLY 取締役COO 。1968年千葉県生まれ。2016年 Psychic VR Lab（現・STYLY）の設立に参画し取締役COO 就任。XR クリエイターの発掘や育成を目的としたプロジェクト「NEWVIEW（ニュービュー）」を立ち上げたほか、グローバルに活躍できる人材を輩出するために尽力している。
空間がディスプレイになる！ 空間コンピューティング革命
Appleは、AVPを世の中にリリースする際に、「VRデバイス」や「XRデバイス」などの言葉を使わずに、「空間コンピュータ」という名称で売り出しました。
この「空間コンピュータ」こそが、この先50年のビジネスを動かすキーワードになると私は思っています。「空間コンピュータ」とは、その名のとおり目の前に広がるあらゆる空間すべてがインターネットと繋がり送受信可能なコンピュータになるという意味。今までも「VRゴーグル」などゲームとして楽しめる没入型の高性能なデバイスはありましたが、AVPは日常的に使用する、ずっと身につけているものとしてリリースされました。
もう少し詳しくお話しすると、これまで「VRゴーグル」はコンピュータで作られた仮想の3D空間（メタバース）に、自身の変わりとなる別の人間・アバターとして没入し、現実とは別の“あちらの世界”で様々な体験ができるといものでした。
一方で、今回Appleからリリースされた空間コンピュータ・AVPは、現実の世界に3DCGの世界を投影する“こちらの世界”にコンピュータの世界を持ってくるようなイメージで、現実の世界に軸足があります。そうなると、ゲームを楽しむ時間だけゴーグルを装着するのではなく、日常的に装着して生活をしたり、仕事をしたり、エンターテイメントとして楽しんだり……。
現実世界の空間をネットの世界と繋ぐ「空間コンピューティング」によって、あらゆるビジネスチャンスが生まれるのです。この空間コンピューティングは、産業革命、IT革命に次ぐビッグウェーブになるに違いない！ 円安が進む日本経済を立て直す大きなチャンスになる！ そんな想いから、AVPをはじめとする空間コンピューティングの可能性や、これから生まれるであろうビジネスについてお伝えしたいと思い、『スマホがなくなる日』を執筆しました。
空間コンピューティング時代に生まれるビジネスチャンスとは？
みなさんのスマホには、いくつアプリが入ってますか？ 仕事関連のツール、健康管理、決済サービス、ゲームなどのエンタメなど、日常に関するあらゆることがスマホと結びついている状態だと思います。
なかでもコミュニケーション系のアプリを思い浮かべて見てください。LINE、Instagram、X、Facebook……..。SNSと呼ばれるものの大半が、海外で作られたアプリだと思いませんか？
この現状が非常にもったいない!! と私は思っています。
例えば、魅力的なキャラクターを生み出し、LINEスタンプを作って販売したとします。現在は統合してLINEヤフーとなりましたが、これまでLINEは韓国IT大手NHN（現・ネイバー）の日本法人が作ったサービスで、スタンプで得た収益の分配は、LINEというプラットフォームをつくった会社に約35%、AppleやGoogleが決済手数料として約30%、LINEスタンプの制作者には約35%しか入らず、プラットフォーム提供者やサービス提供者が収益の大半を持っていくビジネス構造になっているのです。
位置情報を活用し、現実世界を舞台にポケモンのキャラクターを集められる人気アプリ『Pokemon GO』も、日本生まれのポケモンが主役ですが、プラットフォーム自体はアメリカのNianticが作ったものです。プラットフォームが海外である限り、日本が良いものを作ったとしても海外にお金が集まる仕組みになってしまうのです。
多くの人が、スマホの代わりに、AVPを初めとする空間コンピュータを持つようになった時、必然的に使用するアプリも変わります。これが大きなゲームチェンジになると私は思っているのです。
AVPのようなデバイスを開発するには少なくとも数百億円必要となりますが、アプリはパソコン1台あれば作ることが可能です。もちろんスマホ版の現状のアプリを、空間コンピュータ用にほとんどの会社がアップデートすることになると思いますが、2Dで表現していたものを3Dで表現した際に、より魅力的になる場合もあれば、「何か使いにくくなった、新しく出たこっちのアプリの方がよい！ 」というケースも多く登場するはずです。あらゆるプラットフォームを海外に譲ってしまった日本に訪れる最大のチャンスが今まさに訪れようとしていると私は思っています。ですので、日本の色んな企業に空間コンピューティングにいち早く乗り出していただきたいですし、日本の若者たちに、今のうちから空間コンピューティングについて学んでもらい、この業界をぜひ盛り上げていただきたいと思っています。
私の運営する会社でも、「STYLY」という3D作品を作ったり、アップロードされた3D作品を閲覧できるアプリを作っています。個人や企業が制作した動画をアップロードして誰でも無料で楽しめる「YouTube」の3D版といったイメージで、世界中の人に使ってもらうプラットフォームになることを目指しています。
日本再興のチャンスをみんなで掴んでやりたい！ そして世界中から、日本のコンテンツってやっぱりすごい！ って言わせたいですね。
