バスケットボール男子日本代表のトム・ホーバスヘッドコーチ(以下、HC)は2021年9月の就任から「Believe=信じること」を唱え、自分や仲間を信じることの大切さを訴え続けてきた。2021年の東京五輪で銀メダルに導いた女子日本代表HC時代にも使用したキーワードは、自身のメンタリティーを象徴している。#1 #2
選手以上に選手のことを信じる
夜、ベッドに入る前に、バスケットボール男子日本代表のトム・ホーバスヘッドコーチ(以下HC)は鏡の前で自分に問いかける。
「今日は自分の全力を尽くすことができたか?」
素直にうなずくことができればOK。少しでも負い目を感じたら、翌日に向けて必ず修正することを誓う。それは成長を止めないためのルーティンだ。
「毎日、成長したいという気持ちがあれば絶対にうまくなれる。それは選手もコーチも一緒です」
チームをつくるうえで、大切にしている言葉がある。それが「Believe」。
2021年9月にバスケ男子日本代表HCに就任すると、選手とスタッフにこの言葉を唱え続けた。
「チームのことも自分のことも信じる。それができないと勝てない。トップアスリートは皆、技術や身体的な能力は高い。真のトップアスリートになるために一番大切なのが、信念や自信なんです」
初陣となった2021年11月の中国戦ではホームで63-79、73-106と連敗。厳しい船出となったが、試合直後、ホーバスHCは選手にもファンにも「信じてください」と訴えた。
3点シュートを多投する戦術を徐々に浸透させ、2023年夏のW杯でアジア最上位の19位となり、パリ五輪出場権を獲得。自力での五輪出場は、1976年のモントリオール五輪以来の快挙だった。
本気で「Believe」し続けるからこそ、言葉に力が生まれる
2017年から指揮した女子日本代表HC時代も、「Believe」をキーワードにした。
就任直後に、2021年東京五輪の目標を金メダルに設定。2019年のアジア杯を制覇するなど結果を出す。
東京五輪では頂点こそ逃したが、男女通じて日本バスケ史上初の表彰台となる銀メダルを獲得。大会後は複数の選手が「トムさんが私以上に私のことを信じてくれた」という旨の言葉を口にした。
その実績が評価され、男子日本代表HCのオファーが舞いこみ、ホーバスHCは「チャレンジすることが本当に好きだから」と迷わずに引き受けた。
指導者としての言葉に説得力を持たせるため、自らの生活も見直した。
「自分の身体の調子がよくなければ、いい仕事はできない。体重には気をつけています。食事はあまり制限せずに食べるけど、その分歩く。前は1日1万歩以上をノルマにしていましたが、2023年秋に膝を手術した影響で、現在は8000歩くらい。リラックスにもなるし、散歩中にいいアイデアが浮かぶことも多いですね」
ホーバスHCは、日本バスケットボール協会の東野智弥技術委員長から「言葉の魔術師」と称される。チームのメンバーを本気で信じているからこそ、言葉に重みが増し、魔法のような力を生み出すのだろう。
2024年のパリ五輪で目指すのは、8強進出。ホーバスHCが選手・スタッフと相談したうえで、導きだした目標だ。
「プレッシャーはありますが、絶対に成し遂げたい。プレッシャーとの向き合い方は、とにかく準備すること。いい練習をする。それしかありません。そして、準備したら寝る(笑)。結果を出せなければクビですし、勝負の世界はシビア。だからこそ、勝てた時の喜びも大きいのです」