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2023.12.09

【小野伸二】札幌に残る決断の裏にあった父親業

44歳、小野伸二が引退を決断。天才と呼ばれ、喝采を浴び続けた男の光と影。知られざる小野伸二を余すところなく書ききった初の自著『GIFTED』より、一部抜粋してお届けする。6回目。 #1#2#3#4#5

©AP/アフロ

娘との二人暮らし

ご飯はどうするか。稽古は何時か。

小学5年生と暮らすのは初めてだ。というより子どもと二人で暮らすこと自体が初めてで、何もかもが手探りだった。

ウエスタン・シドニーから移籍して結んだコンサドーレ札幌との契約は2年半。次はどこに行こうか、なんてアッキー(小野伸二の代理人・秋山祐輔)と話をしていた。

J1に昇格が決まり、役割を果たした。試合にたくさん出ることはできなかったけれど、次に行くタイミングだった。

昇格を決めたときの札幌の盛り上がりや、チームメイトの姿を見て、「昇格を手助けできるようなチームはないか」と考えるなどもしていた。

そんなとき、次女の里桜が北海道の劇団四季に合格する。

まさか、と思った。こんな機会、滅多にない。娘と暮らすことなんてほとんどなかった。

アッキーに言った。

札幌との契約、2年くらい延ばせないかな?

僕が初めてアッキーにお願いした「延長」の逆オファーだった。

J1昇格が区切り

本を書くんだから本音を書こうと思っている。

コンサドーレ札幌と初めに結んだ契約は2年半だった。6月に移籍していたから、「半」がついている。実質3シーズンの契約だった。

札幌はすごくいい街で、何度も書いているように人が優しく、温かい。勝っても負けても支えてくれたサポーターや、まだサッカーに興味を持っていない人たちに、コンサドーレ札幌を知ってもらいたいという思いが僕のモチベーションのひとつでもあった。

だからJ1昇格を決めて、役に立ったかどうかは別として、区切りなのかな、と考えていた。あの熱狂、あのみんなの喜びは、すごかった。

そして、違う地域で同じような経験を「させてあげたい」。

関東は行った、中部も行った。シドニーも行った。次は、四国かな?

そんなふうに考えて、アッキーにも相談していた。すでにキャリアを終えた同世代の選手も多くなっていた。簡単に選べる立場ではなかったけれど、できるだけ新しい挑戦をしたいと思っていた。

それが一変したのが、娘・里桜の劇団四季入りだった。オーディションに受かった、と聞いたときは「まさか」と耳を疑った。でも、こんなチャンスは滅多にない。

僕が札幌に住んでいる偶然も重なっていた。(中略)

札幌で迎えた子どもと二人の生活は、改めて「母親」のすごさを教えてくれた。だからこそ、父親としての役目を果たす。北海道に残る決断の裏には、新しい僕の一面があった。

TEXT=ゲーテ編集部

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