全米でベストセラーとなった『残酷すぎる成功法則』で知られるエリック・バーカー氏は、人間関係において「第一印象を大切に」は科学的に正しいと説く。『残酷すぎる人間法則 9割まちがえる「対人関係のウソ」を科学する』(飛鳥新社)の一部を再編集してお届けする。
「第一印象」は7割正しい
第一印象は大切だ、と誰もが言う。じつはその通りだ。初対面のときだけでなく、その後も長く、多大な影響を及ぼすことが、多くの研究によって明らかになっている。
第一印象はあまりに強力なので、人びとの即断によって選挙結果さえ予測することができる。
シカゴ大学ブースビジネススクールの心理学教授で、第一印象研究の第一人者、アレックス・トドロフによると、候補者の顔写真を人びとに見せ、「どの候補者がより有能に見えるか?」と尋ねた結果により、選挙で首位に立つ候補者が70%の確率でわかるという。同様の効果は、世界じゅうで確認されている。また、採用担当者が求職者に対して抱く、面接前と後の印象にも確かな相関関係がある。新しい仕事を獲得できるかどうかについて、あなたの第一印象が最も重要な要素である可能性が示されているのだ。
「見た目で判断するな(本を表紙で判断するな)」という格言があるが、その是非はともかく、そう言われるだけのもっともな理由がある。なぜなら、私たちは実際、見かけで判断するからだ。見た瞬間に直感的に。それは仕方がない。
そして「見た目」とは、たいがい誰かの顔である。私たちは、顔を見た相手の自己主張の強さ、容貌、有能さ、好感度、信頼性を一秒足らずで判断する。そして、人の心を読むときと同様に、時間が経っても印象が大きく変わることはなく、確信が増していくだけなのだ。
さらに興味深いのは、そうした判断は瞬時にくだされるだけでなく、決まって共有されていることだ。私が「信頼できそうな顔」、「支配的な顔」、「有能な顔」と判断する顔は、誰もがそう判断する可能性が高い。基本的に、こうした判断は論理的なものではない。よく考える時間はない。たいていは人びとの共通認識、あるいは、それより度合いは少ないが、他者との個人的な経験に基づいてくだされる。
意外にも、第一印象は驚くほど正確なことが多い。人びとが抱く第一印象は一致をみることが多いだけでなく、見事なまでに予測に役立つ。ある調査では、被験者が初めて見る人の笑顔を見ただけで、10の基本的な性格特性のうちの九個(外向性、自尊感情、政治的指向など)について、3分の2の確率で正確に予測することができた。
また、人びとは、短時間接触しただけで相手の能力を本能的に判断するのが得意だ。ある教師の授業風景を音声のない映像で30秒間見れば、その教師に対する生徒の評価を予測できる。五分間見ていれば、判断の精度は70%ほどに達する。
誰かの行動の断片を見て、どんな人物なのかを直感する私たちの能力はさまざまな分野で威力を発揮し、ある人が頭が良いか、裕福か、利他的か、はたまたサイコパスかどうかなどを偶然以上の確率で判断できる。くり返すが、こうした印象は論理的なものではない。つまり、あまり考えないときのほうが、私たちの判断はより正確だということだ。
「やれやれ、よかった、自分の直感を信じればいいんだ」と言う人がいるかもしれないが、早合点しないように。人間のことだから、そう簡単にはいかない。たしかに、私たちの直感は優れている。70%近くに達する精度だ。だが、わが子がオールD(60~69点)の成績表を持って帰ってきたら嬉しいだろうか? 私はそう思わない。
そしてここでも案の定、30%の不正確さのかなりの部分は、脳のバイアスに起因する。人種やジェンダーに関するバイアスではなく、脳の灰白質に組み込まれている基本的な認知バイアスのことだ。その多くはショートカットだ。進化は私たちの脳を、正確さよりスピードや省エネに照準を合わせて最適化したのだ。
だから、ベビーフェイスの人間は殺人罪を免れる可能性がある。これは比喩的な話ではない。
実際、研究によれば、童顔の人びとは、故意に危害をおよぼしたと訴えられた際には勝訴しやすく、過失を問われた際には敗訴しやすい。
なぜだろう? 私たちは、子どもは間違いをするものだと思っているが、悪人だとはなかなか信じられない。脳はそうした考えを、「過度の一般化」というバイアスにより、童顔の大人にも拡大適用するのだ。
しかし、本当に童顔の人間のほうが無邪気なのだろうか? そんなことはない。童顔の若い男性は、「幼少期・思春期に否定的な感情が多く見られ、加えて思春期には喧嘩っ早く、嘘をつくことが多く、青年期には自己主張や敵対心が強いなど、童顔から受ける印象と矛盾する傾向を示した」という。
第一印象のパラドックス
ところで、こうしたバイアスを意識的な努力で克服できると思ったら、それはおそらく間違いだ。私たちが認知バイアスに気づくのを妨害するバイアスが脳に備わっていることが、数多くの研究で示されている。
たとえバイアスのことを説明したり、注意したりしても(私のように)、人びとは、他人のそれには気づくようになるものの、自分自身は客観的だと確信している。さらにややこしいのは、なかには役に立つバイアスもあるということだ。バイアスが正確な限りにおいて、それを取り除けば予測の精度が落ちるという、論理的に予想される結果が、数々の研究で明らかにされている。あぁ、まったく。
私たちの脳は膨大な数の認知バイアスを抱えており、そのすべてに手っ取り早く対処する方法はない。しかし第一印象に関しては、闘うべき相手は主に「確証バイアス」である。私たちには、自分の信念と一致する情報ばかりを好んで探す傾向がある。諸説を検証するのではなく、自分がすでに持っている見方を強化するために情報を集めるのだ。
注意して観察すれば、他者(そして自分自身)がつねに微妙な確証バイアスに陥っていることに気づくだろう。持論を裏づける証拠にはすぐに飛びつく一方で、反証に必要な証拠についてはハードルを高くし、膨大な数を求める。
「400の研究が、私の見方を否定している? ではもっと探してみよう! 一つの研究が、私の意見が正しいとしている? どうやら答えが出たようだ」といった具合だ。
まさにコールド・リーディングの対象者と同じで、自分の信念と一致するものを記憶し、一致しないものは無視するのだ。誰もがこれをやっている。そう、あなたも。自分が問題なのだとは誰も気づかない。それこそが問題なのだ。
心理学者のニコラス・エプリーは、「人の第六感は瞬時に働き、後知恵で修正することはない」と言う。いったん誰かの人物像についてストーリーができてしまうと、それをアップデートするのは至難の業(わざ)だ。このことが、第一印象の「諸刃の剣」に関する基本的な洞察をもたらす。これを第一印象のパラドックス™と呼ぶことにする。
第一印象はおおむね正確である。しかし、一度定まった印象を改めるのはきわめて難しい。
エリック・バーカー/Eric Barker
大人気ブログ“Barking Up The Wrong Tree"の執筆者。『ニューヨーク・タイムズ』紙、『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙、『タイム』誌などが度々その記事を掲載し、米最重要ブロガーのひとりと目される。脚本家としてウォルト・ディズニー・ピクチャーズ、20世紀フォックスなどハリウッドの映画会社の作品に関わった経歴をもち、任天堂のゲーム機「ウィー」のマーケティングの指針を助言するなど独自の研究に裏打ちされたビジネス才覚は一流企業からも信頼が厚い。