結婚生活や夫婦関係研究の第一人者であるジョン・ゴットマンの研究をもとに、世界的ベストセラー作家エリック・バーカー氏が「不幸になる夫婦」を科学的に検証する。『残酷すぎる人間法則 9割まちがえる「対人関係のウソ」を科学する』(飛鳥新社)の一部を再編集してお届けする。
人は何を言われたかは忘れるが、そのときの感情は忘れない
継続的な問題の69%は解決されない。いや、あなたを落ち込ませようとして言っているわけではない。肝心なのは、何を話すかより、どう話すかということだ。
誰もが、話の明確さがポイントだと思っているが、その実、ほとんどの夫婦の話は(会話をしていれば)、かなり明確であることが研究で示されている。
それから、問題解決が大事なわけでもない。なぜなら、進行中の問題は、3分の2以上の確率で解決されないからだ。人間関係研究の第一人者、ジョン・ゴットマンが指摘するように、重要なのは、問題が解決しないときにもたらされる影響なのだ。
つまり、争いをどう解決するかではなく、どう規制するかが肝心だ。戦争は避けられないが、ジュネーブ条約で定められた規則に従わなければならない。化学兵器を使ってはいけない。捕虜を拷問してはいけない。活動家のマヤ・アンジェロウはかつてこう言った。
「人は、言われたこと、されたことを忘れてしまうけれど、そのとき相手に抱いた感情はけっして忘れない、ということを私は学んだ」
彼女は正しい。夫婦を対象に、最近、意見が衝突したことについてアンケートを取ると、25%の確率で、何のことで言い争ったのかさえ覚えていない。しかし、そのとき自分がどう感じたのかは覚えている。それこそが、結婚生活に影響を及ぼすのだ。離婚した人に、前の結婚生活に関して改善したいことは何かと尋ねると、1位は、「コミュニケーション・スタイル」だった。
そこで、ジョン・ゴットマンの研究をもとに、「夫婦間のコミュニケーション・スキルを学ぶ速習講座」を開くことにする。ゴットマンはその研究成果により、3年後にどの夫婦が離婚するかを94%の精度で予測することができ、他の追随をまったく許さない。“結婚のラッシュモア山”に同氏の顔を彫るべきだろう。ゴットマンは、問題の診断には啓蒙主義時代の論理が必要だが、最終目標とすべきなのはロマン主義時代の感情であることを知っている。
ゴットマンは、結婚生活において離婚を予測するのは、ネガティブな感情の量ではなく、その種類だと気づいた。私たちはこれを「トルストイ効果」と呼んでいる。トルストイは『アンナ・カレーニナ』のなかで、「幸福な家庭はみな似ているが、不幸な家庭は、それぞれ異なる理由で不幸である」と書いている。
ところが幸いにも、トルストイは間違っていた。結婚に関しては、その逆なのだ。幸福な夫婦は、フォリ・ア・ドゥのように二人だけのユニークな文化をつくり上げる。しかし、ゴットマンが発見したように、不幸な夫婦は皆、同じ4つの間違いを犯すのだ。つまり、それらを学べば、危険を回避することができる。
離婚につながる4つの地雷
「ヨハネの黙示録の四騎士」に擬(なぞら)え、ゴットマンが「四騎士」と呼ぶこの4つの問題は、じつに83.3%の確率で離婚を予測する。
1.人格に対する批判
不満を言うことは、じつは結婚生活にとって健全なことだ。そうすることで、「秘密」が昂じ、思い込みが膨れあがって「ネガティブな感情の上書き(NSO)」につながるのを防ぐことができるからである。
致命的な問題になるのは、相手の人格を批判することだ。不満とは、「あなたはゴミを出さなかった」と言うこと。批判とは、「あなたがゴミを出さなかったのは、酷い人間だから」と言うことだ。前者は事象に関するもので、後者は相手の基本的な人格に関するものになる。事象なら、修正することができる。
人格を攻撃することは、あまり良い結果につながらない。不満は「I」で始まることが多く、批判はだいたい「You」で始まる。「あなたはいつも」で始まる言葉が、「私をとても幸せにしてくれる」で終わらないなら、それはおそらく批判であり、配偶者が猛反撃に出ることが予想される。
だから批判は、不満に変えよう。相手のことではなく、事象を取りあげよう。もっと良いのは、不満を、達成すべき「目標」、または解決すべき「問題」ととらえることだ。批判は、男性より女性が行なうことが多い。でもご安心を。男性がよく引き起こす問題については次に取りあげる。
2.拒絶(ストーンウォーリング)
さあ、男性が口論の際にやりがちで、離婚を強力に予測する行動を紹介しよう。拒絶は、パートナーが持ちだした問題に対してダンマリを決めこんだり、無視したりすることだ。
たしかに、口をつぐむ好機を逃したくないと思うことは人生で何度もあるが、こうした行為は、「あなたやあなたの心配事は、私にとって対処するほど重要ではない」と伝えているのと同じだ。だから争いは減るどころか、ほとんどの場合、激化する。
多くの男性にとって、この問題は、じつは生理的なレベルで作用していることをゴットマンは発見した。男性のアドレナリン濃度が急上昇すると、女性のようにすぐには基準値に戻らない。解決策は、長めの休憩を取ることだ。口論がヒートアップし過ぎたら、20分後にまた再開しようと相手に言おう。それまでには、闘争・逃走反応のホルモンが通常のレベルに低下するだろう。
3.自己防衛
ゴットマンの定義によれば、自己防衛とは、「問題は私ではなく、あなたにある」と伝えるあらゆる態度のことだ。その性質上、当然、争いをエスカレートさせる。火を消すために、放火魔を招いているようなものだ。
責任を否定(転嫁)すること、言い訳をすること、同じことをくどくど言うこと、あの忌まわしい「そうだ・けど(イエス・バット)……」話法を使うこと―これらはすべて自己防衛の例である。反撃したり、はぐらかしたりしないこと。相手の話によく耳を傾け、相手の言う問題点を認め(あなたから見て、それがどんなにばかげていようと)、争いをエスカレートさせないように自分の番になるのを待とう。
4番目は、ほかと一線を画すカテゴリーだ……。
4.軽蔑
「軽蔑」は、ゴットマンが発見した、離婚の最大の予測因子だ。軽蔑とは、パートナーが自分より劣っていることを暗示するあらゆるもので、相手を罵る、嘲笑する、侮辱するなどの行為はすべてその例だ。とくにアイローリング(目を上に向け、片側から反対側に弧を描くように動かす)は、結婚生活で最もやってはいけない仕草の一つで、そのことはデータで裏づけられている。
幸せな結婚生活では、軽蔑はほとんど見られない。ゴットマンは軽蔑を「愛にとっての硫酸」と言っている。早い話が、それはNSOへの道にほかならない。絶対にやめよう。
エリック・バーカー/Eric Barker
大人気ブログ“Barking Up The Wrong Tree"の執筆者。『ニューヨーク・タイムズ』紙、『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙、『タイム』誌などが度々その記事を掲載し、米最重要ブロガーのひとりと目される。脚本家としてウォルト・ディズニー・ピクチャーズ、20世紀フォックスなどハリウッドの映画会社の作品に関わった経歴をもち、任天堂のゲーム機「ウィー」のマーケティングの指針を助言するなど独自の研究に裏打ちされたビジネス才覚は一流企業からも信頼が厚い。