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2023.09.16

ナチスも克服できなかった、夫婦を離婚へと導く最大の要因"NSO"とは

世界的ベストセラー作家エリック・バーカー氏が「愛の大腸にできたポリープ」と表現するのが、「否定的な感情の上書き(negative sentiment override)」だ。これが、夫婦を離婚へと導く最大の要因になるという。『残酷すぎる人間法則 9割まちがえる「対人関係のウソ」を科学する』(飛鳥新社)の一部を再編集してお届けする。

残酷すぎる人間法則 9割まちがえる「対人関係のウソ」を科学する
hutomo-abrianto / unsplash ※写真はイメージ

夫婦カウンセリング後の悲しき結末…

夫婦カウンセリングは、ナチスがつくり出したとされる。本当の話だ。

発端は、1920年代にドイツで始められた優生学運動の取り組みだ。気休めになるかどうかわからないが、効果はなかった。注目すべき改善が見られたカップルは、わずか11~18%だった。『ニューヨーク・タイムズ』紙の記事によれば、カウンセリングを受けた2年後、夫婦の4分の1はさらに修復困難になり、4年後には38%の夫婦が離婚に至った。

なぜうまくいかないのだろう?

大半の夫婦は、手を打つのが遅すぎる。結婚生活に最初の亀裂が入ってから、実際に助けを得るまで、平均6年もかかっている。でもその時点でも、まだ多少の効果が期待できるはず、そうだろう? ところがうまくいかない。夫婦が直面する最大の敵が立ちはだかるからだ――NSOである。

エントロピーは時間とともに結婚生活の幸福感を減衰させていくが、誰もがただ直線的に下がっていくわけではない。多くの場合、「相転移」が起こる。水が冷たくなって、さらに冷たくなって、冷たくなって……そして氷になるように、まったく様態が異なるものになる。結婚生活でのそれは、「否定的な感情の上書き(negative sentiment override)」という、いみじくも威圧的な言葉で呼ばれる。NSOとは、言ってみれば愛の大腸にできたポリープのようなものだ。

あなたは、結婚生活に「やや不満」どころではなくなり、ヘンリー八世の後妻たちのように気持ちが高ぶりいきり立っている。自分のパートナーは、密かに人間の皮を被ったトカゲ人間じゃないかと疑っているし、まるで不用品を捨てられずにため続ける人のように、不平不満をため込んでいる。パートナーこそすべての問題の根源で、あなたの一生を台無しにするために、邪悪な力によって送り込まれたのだ。

この場合、理想化は消え失せたのではない――反転したのだ。愛がポジティブな妄想なら、NSOは完全なる幻滅だ。あなたはパートナーに好意的に偏った見方ではなく、否定的に偏った見方をしている。事実は必ずしも変わっていない。あなたの解釈が変わっただけだ。

もはやあらゆる問題が状況のせいではなく、相手の性格的特徴のせいになる。たとえば、今日パートナーがごみを出し忘れたのは忙しかったからではなく、相手がじりじりと自分を狂気に追いこむ酷い人間だからだ、と考えるようになる。

相手が何を言うか「わかっている」自分自身と会話をする

これは、著名な心理学者、アルバート・エリスが、「悪魔化」と呼んでいるものだ。「善意の人だが、たまにヘマをする」という相手に対する見方が、「冥界(ハデス)の暗黒の穴で鍛造されたが、まれに良いことをしてくれる」に変わる。そして今やデフォルトが反転したので、昔なじみの確証バイアスが働き、あなたは配偶者の失態を探しだすトリュフ豚と化し、下降スパイラルにさらに油をさすことになる。

ある研究によると、不幸なカップルは、結婚生活にポジティブなことがあっても、その半分しか目に入らないという。あなたの配偶者が、窮地を脱けだそうと何か素敵なことをしても、その半分はあなたに気づいてさえもらえないのだ。

結果、あなたはさらにわめき散らし、それで結婚生活に終止符が? おそらくそうはならない。なぜなら、怒鳴り合いの喧嘩がエスカレートして離婚にいたる確率は、40%に過ぎないからだ。ほとんどの場合、結婚生活は激しいぶつかり合いではなく、泣き言で終わる。

声を張りあげるのは、相手を気にかけているからだ。NSOがいよいよ深刻化すると、もう気にならなくなる。悪魔の子と交渉するのは止めて、相手と交わることなく暮らし始める。そうして少なからず離婚へとつながる。

こうした下降スパイラルは、どのように始まるのだろう? じつは「秘密」から始まる。何か問題があっても、あなたはそのことを口にしない。相手が何を言うか見当がつくと思うからかもしれない。でもそれは思い込みだ。

私たちは人の心を読み取るのが苦手だ。たとえパートナーの心でも。ジョージ・バーナードショーが言ったように、「コミュニケーションにおける唯一最大の問題は、それが達成されたという幻想である」。

そして、時とともにあなたはますます話さなくなり、ますます思い込みが激しくなる。「彼は黙りこんでいるから、怒っているに違いない」とか、「彼女はセックスを断ったから、私を愛していないに違いない」とか。

やがて思い込みがどんどん膨れあがり、あなたはパートナーと会話するのではなく、相手が何を言うか「わかっている」自分自身とだけ会話をするようになる。また、彼/彼女は知っているはずだからという理由で、説明を求めたり、言葉にしたりしないということもある。

結婚生活の特効薬は喧嘩

しかしこの地球という惑星では、声に出さなければ、相手に届かない。感情のゴミの埋立て地が増えていき、あなたは夫婦関係の命運を左右する不満の複利を回収する。そしてあなたの結婚生活は、ガラス戸めがけて飛んで行く鳥のごとく、破綻へ向かって一直線……。だから、コミュニケーションを取らなければいけない。言い古された言葉だが、これは真実だ。

コミュニケーションは非常に重要なので、実際、内気な性格だと結婚生活の満足度が低くなるという相関関係がある。しかし、平均的な共働き夫婦は、週当たりの会話時間が2時間以下だという。もっと話さなくちゃ……。

なんなら、喧嘩でもいい。どうしてかというと、喧嘩ではなく、争いを避けることが、結婚生活に終止符を打つからだ。新婚夫婦を対象にしたある研究によると、初期の段階では、言い争いをしない夫婦のほうが結婚生活に対する満足度が高かった。ところが3年後に再び調査すると、そうした夫婦のほうが、離婚に向かっている可能性が高いことがわかった。

また、1994年の論文によれば、35年後にまだ幸せな結婚生活を送っているのは、熱のこもった口論をする夫婦だけだったという。意外なことに、ネガティブな感情の閾値(いきち)が低いことは、結婚生活には良いことなのだ。何か気になることがあれば、それを話題にし、対処できる可能性が高くなる。人間関係研究の第一人者、ジョン・ゴットマンはこう述べている。

「もし彼ら(夫婦)が口論をしない、できない、しようとしないのであれば、それはもう赤信号だ。もしあなたがパートナー関係にある人と大喧嘩をしたことがないのなら、できるだけ早くしたほうがいい」

エリック・バーカー/Eric Barker
大人気ブログ“Barking Up The Wrong Tree"の執筆者。『ニューヨーク・タイムズ』紙、『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙、『タイム』誌などが度々その記事を掲載し、米最重要ブロガーのひとりと目される。脚本家としてウォルト・ディズニー・ピクチャーズ、20世紀フォックスなどハリウッドの映画会社の作品に関わった経歴をもち、任天堂のゲーム機「ウィー」のマーケティングの指針を助言するなど独自の研究に裏打ちされたビジネス才覚は一流企業からも信頼が厚い。

TEXT=エリック・バーカー

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