PERSON

2023.09.18

「口論は“最初の3分”で決まる」夫婦研究の世界的権威が出した結論

世界的ベストセラー作家エリック・バーカー氏が科学的根拠をもとに導き出した、夫婦関係を“まずまずOK”の状態にすべく最低限心がけたい「口論のコツ」について。『残酷すぎる人間法則 9割まちがえる「対人関係のウソ」を科学する』(飛鳥新社)の一部を再編集してお届けする。

残酷すぎる人間法則 9割まちがえる「対人関係のウソ」を科学する
priscilla-du-preez / unsplash ※写真はイメージ

最初の3分を聴けば、96%の精度で結末がわかる

さて、ここで非常に現実的な話をする。ほかのことは忘れてしまっても、どうかこれだけは覚えておいてほしい。「口論をどのように始めるかは、超極めつけに重要」ということだ。

人間関係研究の第一人者、ジョン・ゴットマンは、口論の最初の3分間を聴いただけで、その結末を96%の精度で予測することができた。単純明快なことだ。険悪なスタートを切れば、険悪な結末を迎える。さらに口論の結末のみならず、離婚の可能性まで予測できた。

もしあなたが、パートナーと喧嘩になりそうな問題を提起するとわかっているなら、まずはじめに深呼吸をする。批判をするのではなく、不満を伝える。中立的に説明する。肯定的に話し始める。相手が間違っていて、あなたが正しいかもしれないが、先制攻撃することで、状況を必要以上に難しくする必要はない。

やれやれ、覚えておくことが山ほどある。しかも、かん高い声も上がる混乱のなかで、ちゃんと実行するのはさらに難しい。でも大丈夫、完璧な人などいない。幸せな結婚生活でも、最初の三騎士は例外なく現れる。

「四騎士は83.3%の確率で離婚を予測する」と、言ったのを覚えているだろうか? そう、83.3は100ではない。そして100%に達しない理由は、ゴットマンの言う「修復」のおかげだ。

修復とは、口論の最中でもたがいになだめ合ったり、認め合ったり、笑い合ったりして愛情を示すことだ。あるいは相手の手を取る、冗談を言う、こうしたふるまいが、エスカレートを抑制する。

たくさんの騎士が馬を乗り回している夫婦でも、修復ができれば幸せで安定した結婚生活を送ることができる。ネガティブな感情の上書き(NSO)が致命的である理由の一つは、それによってパートナーの修復の試みが目に入らなくなってしまうからだ。つまり、衝突する車にブレーキがなくなるということだ。

そもそも相手に「大人であること」を期待してはいけない

ここまでの要点を網羅的に見て、気をつけるべきものは何だろう? ゴットマンは、結婚生活における友情の重要性を強調する。そのとおりだ。

でも、作家のアラン・ド・ボットンの「(パートナーを)子どものように扱う」という考え方は、さらに役に立ち、心に留めておくべきだと思う。

いや、子どもに対するように上から目線の態度を取ってはいけない。しかし、パートナーがいつも有能で感情的に安定している「大人」であることを期待してしまうから、多くの問題が生じるのだ。

あなたのパートナーはそのような「大人」ではない。私も、そしてあなたもそうではない。風刺漫画家のキン・ハバードがかつて言ったように、「男の子はどこまでも男の子で、多くの中年男性もしょせん男の子なのだ」。

子どもがうろたえているときに自然とあたえる寛大さや思いやりを相手に示すことは、引き起こしがちな問題の多くを回避するシンプルな方法だ。私たちは、子どもが悪意を持って行動しているとはあまり考えない。彼らは疲れていたり、お腹が空いていたり、不機嫌だったりするに違いないと考えるものだ。じつは、これは誰に対しても使える優れた方法なのだ。

相手がつねに合理的だなどと期待してはいけない。ヨーク大学教授で哲学者のトム・ストーンハムは、論理学を教えるときに必ず、「これを家で使わないように。さもないと不幸な独身者になってしまいます」と言う。

5歳の子どもが大声であなたに悪態をついたからといって、すぐに怒鳴り返したり、「うんこ頭(プーピーヘッド)」と罵ったりはしないだろう。相手が子どもの場合、私たちは普通、感情を情報として扱う。これは素晴らしいアプローチだ。しばし判断を保留し、相手の話を聞き、目の前の本質的な問題に集中する。すると、はるかに寛大な気持ちになれる。

そうやってポジティブな感情を注入することにより、すべてが変わる。大人でいるのは大変なことだが、誰かがそのどえらい責任から解放してくれて、私たちの中身はいつも少しばかり不機嫌な子どもなのだと気づいてくれると、奇跡が起こる。

そしてこれは単なる推測ではない。2001年の研究によると、口論の際にパートナーを思いやれる人びとの場合、喧嘩の回数は34%少なくなり、時間の長さも半分にとどまったという。

夫婦間ではポジティブとネガティブの比率を5対1にせよ

見事な効果だ。もう終わりにしようか? いやいや、そうはいかない。ネガティブな感情や喧嘩を減らすだけではまだ足りないのだ。それだけでも、結婚生活はまずまずOKの状態にはなるかもしれないが、素晴らしいものにはならない。研究によると、ネガティブな要素はたしかに害を及ぼすが、じつはポジティブな要素を失うことこそが、結婚生活を破綻へと加速させることが明らかになった。

具体的に言うと、ゴットマンは、夫婦間ではポジティブな要素とネガティブな要素の比率を5対1に保つことが最も重要だと気づいた。

だから、ネガティブな要素自体の量は、それほど重要ではない。それを補うだけの楽しい時間があれば、夫婦の関係はうまくいくのだ。離婚へ向かう夫婦は、ポジティブな要素とネガティブな要素の比率が0.8対1になっていることが多い。ただし、ネガティブな要素があまりに少ないのも問題だ。もし13対1になっていたら、おそらくコミュニケーションが十分に取れていないのかもしれない。

もっと話さなければ。口喧嘩もしなければ。バランスが大切だ(面白いのは、その比率が人間関係によって変わること。友人関係ならポジティブとネガティブの比は8対1である必要がある。義理のお母さんとの関係なら、本当に1000対1なのだ)。

そこで次の目標は、ポジティブな要素を増やすことだ。機能的な人間関係に、気分が上がるファンクをとり入れるときが来た。私たちが目指すのは、フィンケルの言う「オール・オア・ナッシング」の結婚の「オール」版なのだから。

エリック・バーカー/Eric Barker
大人気ブログ“Barking Up The Wrong Tree"の執筆者。『ニューヨーク・タイムズ』紙、『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙、『タイム』誌などが度々その記事を掲載し、米最重要ブロガーのひとりと目される。脚本家としてウォルト・ディズニー・ピクチャーズ、20世紀フォックスなどハリウッドの映画会社の作品に関わった経歴をもち、任天堂のゲーム機「ウィー」のマーケティングの指針を助言するなど独自の研究に裏打ちされたビジネス才覚は一流企業からも信頼が厚い。

TEXT=エリック・バーカー

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