2023年7月に開催された水泳の世界選手権福岡大会で競泳女子日本代表の鈴木聡美(32歳・ミキハウス)が50m平泳ぎ7位、100m平泳ぎ8位と個人2種目で入賞を果たした。2012年ロンドン五輪で銀1、銅2のメダルを獲得したベテランが、地元開催の大舞台で自己ベストを連発。年齢の概念を覆し、2024年のパリ五輪へ弾みをつけた。連載「アスリート・サバイブル」
5年ぶりの代表復帰
18歳の自分を32歳で超えた。
2023年7月24日午前の女子100m平泳ぎ予選。5年ぶりに代表復帰した鈴木が1分6秒20で泳ぎ、全体5位で準決勝に進んだ。高速水着時代の2009年にマークした自己ベストを0秒12更新。午後の準決勝は予選から0秒11タイムを落としたが、堂々のセカンドベストで全体8位通過した。
レース前日にはスマホに保存する2018年アジア大会の自らの泳ぎの映像を何度も確認。波に乗るような好調時のフォームをイメージして本番を迎えたことが奏功した。
翌7月25日の決勝は8位。2017年世界選手権以来6年ぶりの世界大会で入賞し「やってきたことは間違いじゃなかった。年齢は関係ないんだなと思った」と実感を込めた。
最初の種目で自信をつけると、7月29日午前の女子50m平泳ぎ予選では30秒29で全体5位通過。4月の日本選手権で記録した自己ベストを0秒15上回った。
夜の準決勝を全体8位通過し、翌7月30日の決勝は1つ順位を上げて7位。約1時間半後に行われた女子メドレーリレーにも出場し、第2泳者の平泳ぎで2つ順位を上げる力泳を見せた。
メドレーリレーは予選の第2泳者は50、100m平泳ぎ日本記録保持者の青木玲緒樹(28歳・ミズノ)が務めていたが、調子の良さを買われて鈴木が緊急出場。
個人、リレーを合わせて7本のレースを泳ぎ切り「あと1本泳げるチャンスをいただき、青木選手の分まで頑張ろうという思いで泳いだ。まさかの連続が続いた大会だった」と振り返った。
32歳で再び上昇カーブを描きだした
2012年ロンドン五輪の200m平泳ぎで銀、100m平泳ぎと女子メドレーリレーで銅を獲得して、脚光を浴びた鈴木。
2016年リオデジャネイロ五輪、2017年世界選手権にも出場。2018年パンパシフィック選手権200m平泳ぎで銅メダルを獲得した。
同年アジア大会でリレーを含め3冠を成し遂げたが、その後は低迷。2021年の東京五輪の出場権も逃したが、現役を退くことはなかった。
原動力はレースを終える度に湧き上がった「こんなはずじゃない。まだ、私はできるはず」との思いだ。
福岡県出身。東京五輪後は地元開催の世界選手権を最大のモチベーションに「年齢の概念を覆す」と、母校・山梨学院大で年齢が一回り下の学生に混じり練習に励み、1回1万mを超える距離をこなすこともあった。
2023年4月の日本選手権で結果を出し、今季5年ぶりに代表に返り咲き、世界選手権の出場権を手にした。
重圧がかかると力を発揮できないとの自己分析から、メダルなどの順位目標は掲げず「楽しむ」をテーマに設定。本番では地元の大歓声にプレッシャーを感じることは一切なく、パワーに変えた。
2023年自国開催の世界選手権で競泳ニッポンは2000年代で最少のメダル2個に低迷。目標の5個以上に届かなかった。
男子400m個人メドレーの瀬戸大也(29歳・CHAARIS&Co.)、男子200mバタフライの本多灯(21歳・イトマン東京)の3位が最高成績。金、銀なしは2001年福岡大会以来22年ぶりで世界との差が浮き彫りになった。
日本勢で自己ベストを出したのは4人(5件)だけで、うち2件は鈴木が出した。
限界知らずのベテランは「非常に良い緊張感の中で泳げた。競技人生の中で一番良い経験、来年のパリ五輪に向けて課題も見つかった。すべてのレースで今の記録を超えていきたい。向上意欲の湧くレースができた」と2024年夏のパリ五輪を見据えた。
最も輝きを放ったロンドン五輪から11年。32歳で再び上昇カーブを描きだした成長曲線を見れば、1年後のパリで表彰台に立つことも夢ではない。
鈴木聡美/Satomi Suzuki
1991年1月29日福岡県生まれ。4歳から水泳を始める。九州産業大学付属九州高校、山梨学院大学。2010年の日本選手権で平泳ぎの50m、100m、200mで三冠を達成。2012年ロンドン五輪で3つのメダルを獲得した。大学卒業後にミキハウスに入社。身長1m68cm。
■連載「アスリート・サバイブル」とは……
時代を自らサバイブするアスリートたちは、先の見えない日々のなかでどんな思考を抱き、行動しているのだろうか。本連載「アスリート・サバイブル」では、スポーツ界に暮らす人物の挑戦や舞台裏の姿を追う。