PERSON

2023.05.06

ナイナイ矢部、加藤浩次、中川家礼二etc.“オジサンに愛される”納言・薄幸の仕事術

“やさぐれキャラ”と“街ディスり”で人気を集めるお笑いコンビ「納言」の薄幸。意外なことに、ファン層の中心は10代、20代の女性と、40代以上のオジサンたちだという。同世代や年下の女性に加えて、なぜ、彼女はオジサン世代に支持されるのか。薄幸の仕事術に迫った。

好きなことで稼げる幸せ

出身は千葉県の柏。一昔前はガラが悪い街だったんですよ。キティちゃんのスリッパを履いて粋がっているような、かわいいガラの悪さ。私も高校生の頃はスリッパ履いて、スカートの中にスウェット履いて、コンビニの前なんかでたむろ。今以上に口が悪くて、「うるせえ」とか平気で言ってましたね。

でも、そのガラの悪さが、今の仕事につながっています。街をディスる“やさぐれ女キャラ”っていうのは、頭で考えてつくったキャラじゃない。もちろんネタは考えてつくるけど、土台にあるのは素の自分。たばこも酒も、昔から大好きだし。

今は好きなことで稼げています。心から「こんなに幸せなことはない」って思います。だって駆け出しの頃はほんとに金がなくて、食事を抜いてたばこを買っていたくらい。先輩芸人に飲みに連れて行ってもらって、酔いつぶれてなんとか家に帰って、朝起きたらカバンの中にシケモクが山のように入っていたこともありました。誰かがイタズラで入れたわけじゃない。先輩たちが吸ったシケモクを集めて、自分でカバンに入れたのを、かすかに覚えています。これだけあれば当面、たばこには困らないって思ったんでしょうね。

そのくらいお金はなかったけれど、飲みに誘われたら、絶対に断りません。この世界に入って、オジサン芸人とばっか飲んできました。その積み重ねが、仕事の役に立っているのかなと思います。

ライブに来てくれる私のファンは、10~20代の女性と同じくらい、40代以上のオジサン層が多いんです。同世代や年下の女性が親しみを感じてくれるのはわかる気もするけど、こんなにオジサン層が応援してくれるとは予想していませんでした。やさぐれキャラは、とっつきにくさがないのかも。下心を抱かずに、同じ目線で会話できるみたいな。それと、オジサン芸人たちとばかり飲んでいたから、壁をつくるようなことがないのかもしれません。知らないうちに、オジサン世代と仲間意識ができているんじゃないですかね。

飲み会で培われた気遣いの心

こう見えて、飲みの場では意外に気を遣います。私が店を選ぶ時は、まずメンツを考えて「今日は喫煙者が多いからテーブルでもたばこを吸えるあの店にしよう」とか、「誰もたばこを吸わないから全席禁煙の店を選ぼう」とか。私の頭の中の居酒屋リスト、すごい軒数です。

居酒屋では注文しやすい下座に座ります。それで、「次、飲み物、どうしますか?」って、絶えず相手のグラスを気にする。納言でコンビを組んでいる安部が、先輩のグラスが空になっていても自分の酒だけを注文するような、まったく気を遣わない人間。安部と一緒だと、イラついてばかりなんですよ。

たばこは大好きだからこそ、マナーを守んなきゃいけないなって。だから、路上喫煙をしている人を見かけると、無性に腹が立つ。「お前らのせいで、喫煙者が嫌われるんだろ」って。「だっせーな」と言いたくなります。

吸いかけのたばこを灰皿に置いて、放置している人も嫌。吸うなら吸え、消すなら消せよって言いたい。逆におじさんが体を丸め、小さくなって、うまそうにたばこを吸っている姿に憧れる。ああ、心からたばこが好きで好きでたまんないんだろうなって。哀愁あふれる喫煙者が好きなんすよ。

女性だったら、周囲に気を遣う喫煙者がカッコいい。相手に煙がいかないように、ちょっと上を向いて、天井方向に細く煙を吐き出すとか。相手の衣服ににおいが付かないように常に心配りができる喫煙者でありたいですね。

喫煙所で広がった人脈

たばこをやめようと思ったことは、一度もないですね。いや、たった一度、21歳の頃にお金がなくて禁煙に挑んだことがあります。でも、3時間で挫折。私にとってたばこ代とは、家賃や光熱費と同じくらい、支払って当たり前のもの。

そこまでたばこが好きな理由は、うまいし、カッコいいし、リラックス効果もあるから。収録前には、たばこで緊張をほぐし、収録後は、たばこで落ち着く。ネタがウケたら、たばこがうまい。ネタがすべっても、たばこはうまい。

喫煙所は、私の人生に欠かせない存在。たばこ休憩をきっかけに、親しくなった先輩は数え切れません。ナインティナインの矢部浩之さんや加藤浩次さん。お笑い界の大先輩とも、たばこを通じて親しくなった。たばこが人の輪を広げるんですよ。

中川家の礼二さんからは、喫煙所でネタをいただいた。「駒込は電柱以外見るもんねえ」とか、私が“街ディスり”をネタにしていることを礼二さんが知っていて、「じゃあ、麻布は?」って聞いてきた。でも、おもしろいことが何も思いつかない。麻布なんて高級な街にほとんど行ったことなかったし。そしたら礼二さんが、「『麻布は、志村けん以外おもろいもんねえな』っていうのはどう?」って、ネタをプレゼントしてくれた。

いつか、志村さんの前でそのネタを披露したい。ずっとそう思って生きていた。でも、叶わない夢になってしまった。それが、心残りです。

Miyuki Susuki
1993年千葉県生まれ。17歳で芸人を目指し、2015年にビートたけしより現在の芸名を授かる。2017年に安部紀克とお笑いコンビ「納言」を結成。やさぐれキャラと、「三茶の女は返事が小せえな」などの街のディスりネタで人気を集める。著書に『今宵も、夢追い酒場にて』(幻冬舎)がある。

TEXT=川岸徹

PHOTOGRAPH=彦坂栄治

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