愛煙家で大酒飲みという昭和の芸人のようなスタイルから、“やさぐれ女芸人”として人気を集めているお笑いコンビ「納言」の薄幸さん。初となる自身のエッセイ『今宵も、夢追い酒場にて』を上梓するにあたって、彼女の日常に迫るインタビュー後編。こちらでは、仕事についても触れていく。
仕事と酒と薄幸と
このたびの書籍は、酒の席でのエピソードをまとめたいわば「おつまみ話」なのだが、記憶を頻繁になくしているなかで、どのように記録しているのか。その人間観察力も幸さんの秘めたる能力と見る。
「記憶だけに頼ると結構忘れちゃうので、気になったことはメモしたりもしていますね。ひとこと日記のようなアプリを使って。1日1回は何か書くようにしています」
酒を飲むことが仕事にもなっているなかで、飲酒ロケはどのように捉えているのだろうか。
「半分オフですよね。特にテレビ朝日公式YouTubeは、気心の知れた芸人たちを呼んで、飲みながら喋っているので。しかも、この動画を見ながらもう一度ひとりで飲んだりします。2度おいしい(笑)。これはやめられないですね。
こう見えても、お酒との付き合いはきっちりしているんですよ。プライベートで昼から飲むことはしません。お休みの日でも。特にネタ作り担当なので、そういうときは、絶対に飲まないですね。ただ、本の執筆のときだけは、酒の話なのでね。筆の進みもあったので、そのときだけは、一杯やりながら書きました(笑)」
毎日飲むからこそ、ケジメをつける飲み方をする。そのあたりは予想外のクールさである。大好きなお酒が仕事になったからこその線引きかもしれない。
「線引きをきっちりしながら、付き合う。ある意味でビジネスパートナーですね。相方の安部(紀克)くらい最近は一緒に仕事をしているかも。いや、完全に安部より頻繁にお会いしてますね(笑)」
ビジネスパートナーとしての存在感も高めているお酒だが、幸さんにとってはどんな存在なのだろうか?
「歯磨きと同じ。しないといけないものです。お酒とタバコは生活の一部ですから。もちろん毎日欠かしませんよ」
彼女にとってのお酒だが、味にはこだわりがないというのも面白い。
「高いお酒って、ちゃんといい味しちゃうじゃないですか。風味というか、香りというか。でも、そういうのが嫌なんですよ。私は安い焼酎が好きなんです。麦の味とか全然しない感じの。ちゃんとしたお酒は、ロックで飲まなきゃダメですもんね」
大いに偏見を込めた言い方は、まさに幸さん流の回答だろう。普通に言えば、「癖がない」「飲みやすい」という話になってくるはずなのだが。
「私は、ウーロン茶で割りたいので、ちゃんとした味があるやつはダメなんですよ。ウーロン茶の味を邪魔しないように(笑)」
芸人・納言幸が歩むべき道とは?
YouTubeやトークバラエティなどの出演が増えるにあたって、“やさぐれ”の枕詞の登場回数も増える反面、実は言うほどにやさぐれているわけではなく、むしろ、人間味が溢れているのが幸さんの魅力。その一端が、この本からもチラリと覗く。
実際、本人は“やさぐれ”の冠について、どのように捉えているのか。
「私は、一度も、ただの一度も、“私、やさぐれてます”なんて自己紹介をしたことはないんですよ! これは言いたいですね。“やさぐれ”は、そちらさんが勝手に言い始めたこと。だから、“思ったよりもいい子”というのは、勝手に下げて、勝手に上げられている感じ。でも、嘘つき呼ばわりされるのもこっちなんですよ(笑)」
絶妙のバランスで、“やさぐれ”というワードとも付き合っている模様だ。
ここでゲーテらしく、仕事におけるモットーを聞いてみた。
「私、実は嘘みたいに入り時間より早く現場に入ります。本番前にバタバタしたくないんですよ。台本なんかも確認したいし、メイクも自前ということがあるので。
逆に相方の安部は、入り時間ぴったりに入ってくる。遅れるのでも早いのでもなくて、15時入りだったら、15時00分00秒くらいまでぴったりの入り時間。なんかムカつくんですよね。ネタ番組でもそうだから。ネタ合わせしないでいいのかよ、って。それで本番噛んだり飛ばしたりするのは、安部のほうですからね。何なんだよ、ってなります(笑)」
話を聞けば聞くほど“やさぐれ”にあらず。本人の嘆きも納得である。さて、最近のブレイクに関してはどのように感じているのだろうか。
「ブレイクしたっていう実感がイマイチないんですよ。でも、コンスタントにお仕事はいただけている。このペースでずっと続けていたいですね。気づいたら、コイツなんかいっつもテレビに出ているなっていう芸人。細く、長く、今の状況が続いていけばと思います」
奇しくも、お酒を歯磨きという日常の動作にたとえた、幸さんらしく、自身の存在も日常的なものを願っているように思える。
最後に、無茶振りで、彼女が得意とするネタの“街たとえ”を、幻冬舎のある「北参道」でやってみていただいた。
「北参道……なんてものはない!」
代々木と千駄ヶ谷に挟まれて存在感がないばかりか、飲み屋もほぼない。ほとんど特徴のないこの駅を見事に言い当てていて、一同爆笑。
センスと観察眼と、人間味溢れるキャラクターで、“愛され続けている”納言の幸さん。これを武器に、きっと望む未来を手に入れていくような気がするのだ。
Illustration=docco