“やさぐれ女芸人”として、テレビやYouTubeを筆頭に、飲みキャラとして人気急上昇中となっているお笑いコンビ「納言」の薄幸さん。このたび自身初となるエッセイ『今宵も、夢追い酒場にて』を上梓するにあたり、お酒と仕事、その関係など、飲みの場で愛される“納言みゆき”の素顔に迫った。
気遣いされるのは苦手
薄幸さんといえば、現在、101万人の登録者数を誇る、テレビ朝日公式YouTubeチャンネル「動画、はじめてみました」内のコーナー「納言幸のやさぐれ酒場」を筆頭に、数々のトークバラエティで頭角を現している。
お酒を飲みながらのざっくばらんなトークが人気で、そこから滲み出るのは、“やさぐれ”の看板とは趣を異にする、細やかなコミュニケーション力だろう。
先日、出版された初のエッセイも酒にまつわる面白ストーリーが満載。酒好きで愛煙家、昭和的な“飲みニケーション”を軸に令和を生きる、どこか時代に逆行する雰囲気も彼女の魅力だ。
「お酒は、すごく飲んでますね。毎日欠かせません。とにかく“飲み”に関して言えば、私、フットワークが激軽なんですよ。誘われたらまず断らないです。でも、実は人見知りなんで、すぐに打ち解けるわけじゃないんですが(笑)。よく飲むお笑いコンビ『オズワルド』の伊藤(俊介)は、私の知らない芸人だけじゃなくて、たまに一般の人も連れて来ちゃうんで、さすがに困りましたよ。なんでだよって(笑)」
“やさぐれ”と言われながら、実際のところ、彼女の物腰の柔らかさや話をうまく転がすキャッチボール能力など、番組などでは、その円滑なコミュニケーション術が垣間見られる。
「先輩と飲むことも多いので、飲みの席ではよく動くように心がけています。人のグラスが空いているのも好きじゃないですから、先輩だろうが、後輩だろうが、頼むか注ぐかして、常にお酒が目の前にあるようにしますね。でも、毎度しっかり記憶も飛ばしますから、覚えてないときまで、それをしているかはわかりません(笑)」
気遣いするのは苦じゃないそうだが、一方で気遣いされるのは、好きではないらしい。
「後輩とは、私から誘ったりして飲むことはほとんどありません。あいつら、敬語だし、気を遣ってくるじゃないですか。サラダも取り分けたりなんかして(笑)。気を遣われるのは居心地が悪いんですよ。気持ち悪! ってなっちゃう」
飲みの席において幸流の“マイルール”はあるのか?
彼女がいると何かと円滑にことが進む飲みの席。そこでの自身が気をつけているルールのようなものはあるのだろうか。
「ないといえばないですが、ひとつ言えるのは、サシ飲みで私が店を決めるときは、タバコが吸える店を選びます。特に吸わない人が相手の場合は、自分の喫煙タイムに暇させてしまうので。大勢で飲む場合は、結構我慢できるんですよ。“我慢タバコ”も好きなんで、1時間くらい吸わないで、溜めて溜めて吸う。これは結構快感です」
このあたりは、自分も相手も気持ちよく、ということだろうか。想像していた“ルール”とは違うものだったが、喫煙者らしい考えでもあり、ちょっとした“おっさん味”も滲み出ている。彼女にとって楽しくない飲みというのはあるのか、気になってくる。
「大体の飲みは楽しめるんですよ、本当に。でも、唯一楽しめなかった飲み会がありましたね。コロナ前の話なんですけど、大勢と飲みたくて、どうせ何人かは断られるだろうなと思って、思い切って先輩30人くらいに声をかけたんですよ。そしたら、奇跡的に30人全員が暇だったんですよ(笑)。私が一番後輩だったので、いつものように気を遣ってたら、全然飲みも食べもできずに時間が過ぎちゃって、お店のスタッフと化してましたね。それ以来、飲み会の人数は常識の範囲内に収めるようにしました」
想像をはるかに超える大人数飲みには思わぬ弊害があったようだが、その原因が気遣いというのも幸さんらしいところと言えそうだ。ここまで話を伺うと、見た目とは裏腹に“愛され系”ともいえる存在だが、反対に「こんな飲み方は嫌だ」という人を挙げてくれた。
「飲み屋なのに、定食屋並みの食欲で食べまくる人は嫌ですね。一発目からガッツリ炒飯いって、二発目も炒飯のおかわりいっちゃう。オマエ、炒飯ばっかり何人前いくの? って(笑)。仲がよくて、自分の本にも出てくるんですが、お笑いコンビ『きつね』の淡路さん(幸誠)は、まさにそうですね。いきなり鳥雑炊とかから始まるんですよ。それ、シメだろって(笑)」
そんな淡路さんともしょっちゅう飲んでいるわけだから、嫌というよりもむしろ仲間に対する愛着まで伝わってくるのが面白い。実際、飲みの席で惚れる男性を聞いてみると「おじさん芸人が、わんぱくな注文をしているところ」だとの返事が。
「お笑いコンビ『ゾフィ』のサイトウ(ナオキ)さんなんかが、チキン南蛮とか頼んでいるとグッときます。すぐに胃もたれして食べられなくなっちゃうから。なんだか愛らしいんですよ。
しかも、すぐ顔が赤くなって、近くにいるのに50m先の人に話しかけるくらい大声で話すんですよ。お酒に負けているおじさんって面白いじゃないですか。結局、おじさん芸人は、娘のように優しく気遣ってくれるのがいいですね。面白いし、なんだかお父さんと飲んでるような気分にもなります」
先輩や同期の芸人仲間がメインとなる、幸さんの飲みは、話を聞いているだけで、その場にいるような気にさえさせてくれる。こうした飲みの場のエピソードに事欠かないのが、幸さんの恐ろしいところだろう。
「でも、私たちの飲みをモニタリングしても全然面白くないと思いますよ。お笑いの話も全然しませんし、本当に日常の些細なことばかり。なんなら、酒を飲みながら、酒の話すらしますからね(笑)」
Illustration=docco