いつもギリギリのラインを攻めようとするその危うさを魅力に第一線をひた走ってきた爆笑問題・太田光。自身11年ぶりとなる書き下ろし小説『笑って人類!』が2023年3月8日に発売された。緻密なロジックや圧倒的な知識、刺々しい風刺やただ笑えるだけのユーモアを全部ごちゃ混ぜにして精巧に組み上げた、532ページにも及ぶ長編大作。太田光の頭のなかを覗きこめる、“らしさ全開”の作品に込められた想いとは。
いつも悩むし、反省もする。でも、“日和り”はしない
ほとんど芸人、時々作家。その二面性を表現するべくフォトグラファーが「残像」を提案すると、不意にカメラの前に現れた"爆笑問題の太田光"は、目を見開き、両手を大きく開いてポーズを決めた。
「俺の写真って、いつもこっちなんだよね。でも今日は作家だから、朝からまじめな感じの撮影が続いていて。やっぱり、こうやって顔を作って、手を広げるほうがラクなんだよな」
作家としての新作発表は実に11年ぶりのことだ。『マボロシの鳥』(2010年)、『文明の子』(2012年)に続く渾身の小説『笑って人類!』は、原稿用紙にして1200枚超、2段組532ページの長編大作に仕上がった。
「“喋る”には間や表情が加味されるけれど、“書く”は基本的には言葉だけでしょ。映画の脚本として書き始めたこともあって、『文字だけで映像が思い浮かぶように』と意識したんです。そうしたら、こんなに分厚くなっちゃってね」
描いた舞台は2100年代の未来。主要国トップが集結する「マスターズ和平会議」に遅刻した小国のダメダメ首相が、しかし遅刻によって命を救われ、世界平和の実現のために立ち上がる――そんな独創性溢れる空想の世界を、緻密なロジックや圧倒的な知識、刺々(とげとげ)しい風刺やただ笑えるだけのユーモアを全部ごちゃ混ぜにして精巧に組み上げた。太田光の頭のなかを覗きこめる、まさに"らしさ全開"の作品だ。
「初めて小説を書いた時に散々言われたんですよ。『読んでいると太田がうるさくて集中できない』なんてね。当時はそれがイヤだったけど、でもまあ、タレントが小説を書くってのはそういうことだから。よく考えたら三島由紀夫も太宰治も村上春樹も同じ。"いかにも"みたいなまどろっこしい言い回しも含めて俺の作品だから、それでいいのかなって」
田中裕二との漫才コンビ・爆笑問題は2023年で結成35周年を迎える。ひとりの表現者として、いつもギリギリのラインを攻めようとするその危うさを魅力に第一線をひた走ってきた。
「デヴィ夫人みたいに吹っ切れてるわけじゃないんだけどね(笑)。俺は『みんなに共感してもらいたい』と本気で思ったことを口にしているだけで、それが炎上してしまうだけなんですよ。だから、皆さんと同じようにいつも悩んでいる。これを言ったらうちの社長に怒られるだろうなって、いちいち考えている」
吹っ切れているわけじゃないから、失敗すれば凹むし、「なぜうまく伝えられないんだ」と悩むし、反省もする。ただ、それでも“日和(ひよ)る”ことだけは絶対にない。
「20年くらい前だったかな。一回あるんですよ。テレビの生放送で頭に浮かんだ言葉を飲みこんで、『どうして言えなかったんだ』と心から後悔したことがね。明確に自覚しながら何も言わなかった自分が、本当にカッコ悪かった。それがずっと自分のなかにあって、あんな思いは二度としたくないと思い続けているんです」
これから先も、そんな葛藤と向き合いながら表現者としての道を突き進むのだろう。
「自分の未来なんて全然予想できない。出たとこ勝負。ずっとそれでやってきましたから。やっぱり、そのほうが楽しいのかな。共感も安定も求めているけど、普通の道を選んだわけじゃない。だから、自分自身で面白がるしかないんですよ」
原稿用紙1200枚超、532ページの長編大作には明確な理由がある。
「共感してもらいたい。その思いしかない。だからこそ、言葉を尽くすんです」