慶應義塾大学教授・岸博幸先生が、各分野で活躍するいま気になる人と対談する不定期連載企画「オトナの嗜み、オトコの慎み」。今回の対談相手は、お笑いタレントの鳥居みゆきさん。【過去の連載記事】
「人は人、私は私。それでいいじゃないですか」
岸 今日の対談相手はタレント、女優、小説家として幅広く活躍する鳥居みゆきさん。世間では、鳥居さんに対して「一風変わった、反骨精神に溢れた人」というイメージがあるようですが、僕はそうは思いません。知的で、正直で、カッコいい女性という印象です。
鳥居 その通りですよ(笑)。私の反骨精神は、そんなに強くありません。みんなが“ビョーキ”なだけ。私は健全だし、いつも人に優しくしようと思っているんです。
岸 2022年の5月31日、“世界禁煙デー”の日に、インスタに投稿した喫煙画像が話題になりましたね。鳥居さんがたばこを吸い、胸には花のコラージュが。嫌煙社会への問題提起を狙った作品にも見えました。
鳥居 喫煙って、犯罪でも何でもないのに、社会から嫌われ、叩かれる。日本は「SDGsだ」「多様性だ」なんて言いながら、日本人を画一化しようとしているようにしか思えなくて。私は大好きなたばこを堂々と吸います。もちろん、ルールは守って。
岸 確かに今の日本はSDGsの逆を行っているように見えます。「誰ひとり取り残さないように」と唱えながら、喫煙者は置いてきぼりにされている。
鳥居 本当に矛盾だらけ。だから、みんな日本に住みづらさを感じているんです。もっと素直に自分の感情を吐きだせばいいのに。
岸 鳥居さんは子供の頃から、周囲の意見に流されることはなかった?
鳥居 何事も自分が納得できるまではやりたくなかったですね。小学校のテストで「1×0=」という問題が出て、私は答えが書けなかった。「1」に「何にもない」ものをかけて、どうして0になるの? 先生は「そういう決め事だから0って書け」って感じでしたが、納得できませんでした。
岸 0の概念は難しいんですよね。
鳥居 それで母親に質問したら、「0は魔法」だって教えてくれた。「だから、0になるんだ」と。その教えのほうが、心にすっと入りましたね。
岸 素敵なお母さん。
鳥居 国語も苦手で、テストで「主人公の気持ちを述べよ」という質問があるじゃないですか。私は、いろいろ考えるんですよ。最初はこういう気持ちだったけど、心の奥ではこういうことも思ったんじゃないかって。で、正解はもらえない。
岸 それが日本の教育の問題点。日本の教育は、「上から言われたことをそのまま覚える」のが正解。欧米の教育では「答えは何通りもある」と教えられます。
鳥居 私は大人になってからも、理解できないことが多い。だから、「なんで? なんで?」って、質問してしまう。最近は「ググれカス」って言われてしまう世の中だけど、疑問に思ったら、何でも聞いていいと思います。特に子供たちは。
岸 「なんで?」を大切にしないから、今の日本はクリエイティヴなモノが作れなくなってしまっている。欧米で成功した“正解”を日本へ持ってきて、ちょっと手を加えた“ものまね”を作る。だから、ダイソンの掃除機のような画期的なヒット商品が生まれない。
鳥居 前例のないことを言ったり、始めたりすると、「お前、変だ」って言われてしまう。「人は人でしょ。違って当たり前」くらいの感覚を身につけてほしいです。
ネガティブとポジティブは表裏一体
岸 鳥居さんって、ネガティブに見えてポジティブですよね。
鳥居 私はポジティブであるために、ネガティブも大事にしている。だって、ずっとポジティブだったら、「今日はポジティブで気持ちがいい」って感情を持てなくなるじゃないですか。だから、自分がネガティブになる「嫌いなモノ」とか、「じらし」を生活に組み入れる。例えば、一緒にいたくない人と食事に出かけ、嫌いな料理を注文する。その苦痛を乗り越えると、いつものごはんが最高の喜びになるんです。
岸 最高の瞬間を迎えるために嫌な仕事もやる?
鳥居 以前2ヵ月間、同じ座組で舞台をやった。芝居のテーマが重くて、精神的にも体力的にもしんどい仕事だったんですよ。でも、フレンドリーで社交的な顔をして、通い続けた。2ヵ月の間、この嘘をつき通せるかって自分に課しながら。
岸 それで?
鳥居 最終日を終えて、「いい座組でしたね」ってにこやかに帰りました。で、その5分後に座組のLINEグループを退会。退会のボタンを押した瞬間、最高の喜びが込み上げてきました。ああ、この一瞬のために頑張ってきたんだなって。
岸 その気持ち、わかる気がします(笑)。
鳥居 ネガティブとポジティブって、表裏一体のような気がしています。苦痛があるから、喜びもある。例えるなら、SMみたいなものと言いますか。鞭で打たれて痛いのに、嬉しくてたまらないみたいな。
岸 鳥居さんは、仕事をどのように定義しているの?
鳥居 「自分が狂わないための時間潰し」かなあ。仕事の時は、「視聴者が何を求めているか」って考えるし、「ここまではやっても大丈夫だろう」と自分をコントロールできる。「今日はよかった」って評価されると素直に嬉しいし。
岸 仕事に押し潰されそうになることはない?
鳥居 ありません。タイミングや状況を鑑みて、今の私にふさわしくない仕事はマネージャーが断ってくれますから(笑)。でも、仕事中に困惑することは多いですよ。一番困るのが「鳥居さんらしくお願いします」って言われること。鳥居さんらしいって、いったい何? 私のこと、何でも知っているの? ベラベラ陽気に話す私もいるし、どんよりと暗いのも私。人にはいろんな顔があるんですよ。
岸 日本人は、「あの人はこういう人だ」って自分の価値観で決めつけたがる。でも、そんな単純なものじゃない。答えは何通りもあるんですよね。
鳥居 人は人、私は私でいいじゃないですか。それだけで生き方がずっと楽になります。
Miyuki Torii(左)
2001年に芸人デビュー。「ヒットエンドラーン」のネタでブレイクする。映画やドラマのほか、小説の刊行などマルチに活躍。発達障害をテーマにした番組『でこぼこポン!』(Eテレ)に出演中。
Hiroyuki Kishi(右)
1962年東京都生まれ。慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授。経済財政政策担当大臣、総務大臣などの政務秘書官を務めた。現在、エイベックスGH顧問ほか、総合格闘技団体RIZINの運営に携わる。
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