慶應義塾大学教授・岸博幸先生が、各分野で活躍するいま気になる人と対談する不定期連載企画「オトナの嗜み、オトコの慎み」。今回はテレビプロデューサーの佐久間宣行さん。【過去の連載記事】
「男はブレずに生きろ!」は大噓! 道に迷ってこそ、未来が開ける
ネットの時代にテレビは生き残るか
岸 NetflixやYouTubeなど、動画配信サービスや動画共有プラットフォームが支持を集める一方で、「テレビは見ない」という人が増えています。今回の対談相手はテレビ東京で『ゴッドタン』や『あちこちオードリー』などの人気番組を手がけ、現在はフリーランスで活躍するテレビプロデューサーの佐久間宣行さん。早速ですが、テレビというメディアは今後どうなっていくのでしょうか。
佐久間 僕にもわかりません(笑)。これから先、今よりもテレビのニーズが高まることはないし、〝テレビがないと生きていけない〞という熱狂的ファンも少なくなる。かといって、テレビが完全に消えてなくなることもないと思うんです。
岸 その理由は?
佐久間 テレビとネットは、そもそも特性が違います。テレビは、あくまで「マス」のメディア。幅広い層に受け入れられる間口の広いコモディティな番組づくりが重要です。一方、ネットは「コア」のメディア。特定の層をターゲットにしたマニアックな内容で構いません。
岸 「これでいいや」と思って見るテレビと、「これがいいや」と選んで鑑賞するYouTube。趣味や好みが細分化された現代では、圧倒的にネットに軍配が上がる。
佐久間 とはいえ、マスの情報を伝えるテレビも必要なもの。YouTubeが人気だからといって、テレビが安易にネットに近づいていくのは危険だと思っています。
岸 難しい時代ですね。そうした時代をテレビ番組の制作者として生き抜いていくには何が必要でしょうか。
佐久間 よくテレビや雑誌で、「ブレない生き方が重要」と言っている人がいますが、その感覚に納得できないんです。僕は、悩みながら、いろいろな試行錯誤を繰り返し、ブレまくって生きていくような人生に共感します。1、2年先も不明瞭なこの時代に、ブレない生き方なんてよほどの人でないとできないと思います。
岸 佐久間さんの究極のブレが、テレビ東京を辞めてフリーに転身!?
佐久間 今年3月、45歳で退社しました。管理職に就くより、制作の現場に居続けたい。企業では仕方のないことですが、そんな気持ちもあり、思い切って独立を決意しました。
岸 家族は納得を?
佐久間 僕は社内結婚で、妻は今もテレビ東京に勤めています。で、考えてみた。今やレガシーメディアといわれるテレビ局にふたりで残ったら、同時に沈んでしまう可能性もある。僕が辞めて違う立場になれば、どちらかの収入で生き長らえることができるかもしれない。ロジカルに考えると、退社も悪くない選択だとふたりで決断しました。
岸 フリーになって、やりたい仕事はできています?
佐久間 テレビ東京はフリーの僕と契約を結んでくれて、『ゴッドタン』をはじめ、番組を継続できることになりました。バラエティのほか、ドラマや僕自身が出演するエンタメ紹介番組の企画も進行中。これからの時代は、何本もの刀を持たないと生き抜いていけません。
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磨き抜いた観察眼が番組のヒットを生む
岸 流行の移り変わりが急速な現代で、人気番組をつくる秘訣を教えてください。
佐久間 うーん、やはり観察眼ですかね。例えば、有名タレントの新番組をつくるとします。まずはそのタレントの過去の番組をすべて見て、「やっていないことは何か」と考える。とにかく、情報をインプットすることが重要です。
岸 情報をインプットする時間が足りないでしょう。
佐久間 スケジュール管理さえきっちりすれば、時間はつくれます。僕は3ヵ月先のスケジュールまで徹底管理。ドラマの配信開始日や映画の公開日をスケジュール管理ソフトに書きこみます。些細なことでもスケジューリングしておかないと、その時になって何をするか悩み、結局時間をロスしてしまうんです。
岸 世の中を観察するために、他にどんなことを?
佐久間 書店の新書コーナーは行きますね。本につけられたタイトルの傾向で、時代の流れが見えてくる。「怒ってはダメ」というような本が並んでいたのに、ある時期を境に「怒らないとダメ」というような流行に切り替わる。新書のタイトルって、世の中のマインドが反映されています。
岸 面白い着眼点。
佐久間 あと、番組の収録現場では喫煙所を覗きに行くのが好き。
岸 喫煙所?
佐久間 僕が担当する番組で、収録を終えた若手芸人が集まってタバコを吸っている。そういう時って、素の表情がリアルに出るでしょう。やり切ったという表情なら、満足のいく収録だったはず。逆に冴えない表情ならダメな収録だったのかと想像できます。
岸 佐久間さんは最近の若手芸人をどう見ています?
佐久間 全体的に優秀ですよ。幼少の頃から、僕たちの世代の何十倍もの情報量のなかで生きているわけですから。ただし、型破りな人は少ないという印象。
岸 僕が教えている慶應の大学院生も同じ。勉強はできるし、理解力も高い。でも、情報がすぐに手に入るため、妄想力が弱いんですよ。非効率なことをやり続ける"変態"が数少ない。
佐久間 確かに! お笑いの世界って、どれだけ芸や喋りを磨いても、強烈な変態に負けてしまうことがある。厳しい世界ですよ。
岸 どんなアドバイスを?
佐久間 「誰にも理解されないものを持っていたほうがいいよ」と言います。情報が氾濫する時代だからこそ、入ってくる情報をシャットアウトし、自分の頭で考えることが重要。他の人に理解されなくても、自信を持って突き進む勇気を大切にしてほしいですね。
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Nobuyuki Sakuma
1975年福島県生まれ。早稲田大学卒業後、テレビ東京入社。『TVチャンピオン』などで経験を積みながら、入社3 年目で異例のプロデューサーに抜擢。『ゴッドタン』など人気番組を手がけ、今春フリーランスに転身。
Hiroyuki Kishi
1962年東京都生まれ。慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授。経済財政政策担当大臣、総務大臣などの政務秘書官を務めた。現在、エイベックスGH顧問のほか、総合格闘技団体RIZINの運営にも携わる。