アジアが誇るラグジュアリーホテル「ラッフルズ シンガポール」に2026年、世界的シェフのアンドレ・チャン氏による新レストラン「1887 by André」が誕生。ホテルの歴史を随所に織り込みながら、シンガポールの食文化を独創的な一皿へと昇華した注目店を訪れてみた。

シンガポールの歴史を感じる、地中に埋められたカトラリー!?
「世界のトップシェフ100人」を決める「The Best Chef Awards」に選ばれたシェフであり、その活動を追ったドキュメンタリー映画『アンドレ・チャンとオリーブの木』も製作された台湾人シェフ、アンドレ・チャン。その新店「1887 バイ アンドレ」が、シンガポールの歴史的ラグジュアリーホテル「ラッフルズ・ホテル・シンガポール」内にオープンした。
ラッフルズ・ホテル・シンガポールのメインロビーを抜け、緑色のカーテンをくぐるとたどり着くそのレストラン。ラッフルズのシンボルであるパームツリーの葉をモチーフにした大きなファンと、丸い照明、そしてインテリアに散りばめられた緑色が心地よく目に飛び込んでくる。
「丸い照明は、1887年にラッフルズ・ホテル・シンガポールがオープンした当時、用いていたもので、そこにインスピレーションを得た照明です。またラッフルズは、シンガポールで最初に電灯が導入された建物のひとつでもあるのですよ。
緑色はシェフのアンドレが好きな色。その色をモチーフに植物園のような空間にしました。内装デザインは著名な建築家ビル・ベンスリー氏が手がけましたが、シェフ、アンドレのアイデアがふんだんに取り込まれています」(ラッフルズ・ホテル・シンガポール アシスタントマーケティングディレクター、リーヌー・タラニ氏)
入口には、磨き上げられたシルバーのカトラリーが飾られている。第二次世界大戦中の占領下、接収を免れるため、ホテルではカトラリーや銀製のビーフワゴンを敷地内の地中深くに埋めて守った。その歴史へのオマージュだという。
このレストランでは、実際に地中に埋められていた本物も使われている。手にずっしりと重いシルバーのカトラリーが、このホテルとシンガポールの歴史を体感させてくれる。
ウミガメを使わず、極限までウミガメの味を再現!
シェフのアンドレ氏は、15歳からフランスで修行を重ね、パリの「ラトリエ・ドゥ・ジョエル・ロブション」ほか名店に勤務し2008年にはシンガポールで2店舗を開店。そのうちのひとつ「レストラン・アンドレ」は2017年に「Asia's 50 Best Restaurants」の第2位に選ばれた。
シンガポールをよく知る名シェフのアンドレ氏が、フランス料理の伝統的なガストロミーをシンガポールの食材と独自の感性で一皿一皿に落とし込んでいく。その味を楽しみに開業直後からランチ、ディナーともに多くの人が訪れている。

この日、ランチでまず最初に振る舞われたのはホテル内のガーデンで採れたハーブを使用したアペリティフ。柚子やスパイスの効いたレモネードとハーブの効いたおつまみで口の中をリフレッシュさせる。通常はガーデンでこの一品をいただくこともできるのだが、この日はあいにく南国ならではのスコールに見舞われ、キッチンスペースにて。シェフたちが直接振る舞ってくれるその臨場感も楽しいものだ。

その後はアンドレの愛する緑を配したエスカルゴや、グリーンカレーのソルベなどなどグリーンのメニューをいただく。
このレストランのシグネチャーメニューのひとつであるのが「タートルスープ」。かつてシンガポールではウミガメを食す文化があり、そのスープは滋養強壮になるとイギリス植民地時代に高級料理として愛された。
現在は絶滅危惧種となり食べることはできない。その幻の味をアンドレ氏はかつてのレシピを調べ、極限まで当時の味に近づけるべく作り上げたという。材料はチキンとハーブと、スズキ目の魚・ハタとナマコなど。それぞれの風味が複雑に重なり合い、アンドレ氏も「目隠しをしたら、当時のスープだと思うはず」と自信をのぞかせている。

33歳を思い出しながらかみしめるブレッド
さらに料理とともに供されるブレッド、「ラミネーテッド・ブレッド」にも仕掛けが。クロワッサンのように何層にも生地とバターを折り込んだこのブレッドは、その層の数を33と決めている。
この数字は、アンドレ氏が初めて自身の店「レストラン・アンドレ」を開店させた時、33歳だったことに由来する。ブレッドを頬張りながら、自分が33歳の時、一体なにをしていただろうと振り返ってみるのも面白い。
さらにアンドレ氏が故郷・台湾で初めてオープンし、2024年に閉店したレストラン「RAW」の建物のコンクリートを埋め込んだカトラリーも途中登場する。
1887 バイ アンドレ。この店名の1887はラッフルズ シンガポールが創設された年からきているが、アンドレ氏はその数字になぞらえて、自身の思い入れのある「33」という数字を料理に重ね、ラッフルズを語る歴史的シルバーカトラリーを用いながら、自身の思い出の店のカトラリーも登場させる。
ラッフルズの歴史と、アンドレ氏の人生をリンクさせた、ここはそんな店なのだろう。

メインにはこんがりと焼いた鴨に甘酸っぱいソースをかけた「カナード アピシウス・エルグ・ドゥ」や魚介にココナッツミルクなどを効かせたパエリア「ラッフルズ ラクサ パエリア」など。
フレンチとアジア料理の融合した濃厚なコースだった。
通常は、アラカルトをメインに取り扱っているレストランなので、お気に入りの一品を目指してやってくる地元の人も多い。

ランチを終えると、スコールはすっかり止み、ガーデンの緑の香りがふわりと漂ってきた。
「店内はガーデンからの緑の日差しが入るように窓も大きくしています。夜になると店内がライトアップされて雰囲気も変わるので、またいらしてくださいね」
給仕スタッフのそんな挨拶に、今ランチを終えたばかりだといのに、ディナーへの憧憬もまた高まる。シンガポールにやってきたら必ず訪れたい場所が、またひとつ増えた。

1887 by André
住所:1 Beach Road, Singapore 189673(ラッフルズ シンガポール本館内)
営業時間:火〜土曜11:30〜13:30、18:00〜20:30
定休日:日曜・月曜
ラッフルズ・ホテル・シンガポール|Raffles Singapore
住所:1 Beach Road, Singapore 189673
客室:全115室(全室スイート)。宿泊者全員に24時間対応のラッフルズ・バトラーサービス付き。
施設:スパ、プール、フィットネス、歴史あるロングバーやTiffin Roomなどのレストラン・バーも備える。
料金:1泊約1,300シンガポールドル~(約15万円~、時期・部屋タイプにより変動)





