ドジャースとkanzai、大正製薬とプロゴルファー、MLBとセブン-イレブン――。数々の大型スポンサー契約を単独で実現してきたスポーツエージェント・金子真育。難題大型契約をたった一人で締結してきた、その信頼はいかに築かれたのか。著書『GRIP MLBやドジャースから全幅の信頼を得た「ザ・エージェント」』から一部抜粋して紹介する。今回は、MLBとセブン-イレブン・ジャパンの舞台裏①。【その他の記事はこちら】

店頭キャンペーンの権利は逃さない
――編集部 どのような経緯で金子さんと繋がり、MLBとのパートナーシップ契約に至ったのでしょうか。
――岡嶋則幸(セブン-イレブン・ジャパンの岡嶋則幸執行役員マーケティング本部長。以下、岡嶋) TBSテレビの方と話している中で、たまたま2025年3月に行われる予定だったMLBの開幕戦、いわゆる東京シリーズの話題になったんです。ロサンゼルス・ドジャースとシカゴ・カブスが対戦するという。「ウチも、何か関われないですかね」と話したところ、TBSテレビの方から「それなら、適任の人がいますよ」と紹介されたのが、TBSテレビOBの金子さんでした。それがきっかけです。
――編集部 初対面の印象はいかがでしたか?
――岡嶋 正直に言うと、「身体、でかいな」と(笑)。この人、本当に仕事をしているのかな、と思いました。
――編集部 そう思いますよね。
金子との初対面を振り返ってもらうと、必ず、この答えが返ってくる。「でかい」。背が高いだけでなく、「ガタイがいい」ゆえに、初対面の相手は面食らう。「ビジネスの世界では異質な存在」に映るらしい。
――岡嶋 ただ、話をしてみると印象はすぐに変わりました。こちらの意図を理解するのが早く、話の要点を的確に掴む。金子さんにコンタクトを取った理由は明確です。MLBと繋がるためでした。2024年のMLB開幕戦の韓国シリーズ(ロサンゼルス・ドジャース対サンディエゴ・パドレス)が、日本でも想像以上に盛り上がった。そうであれば、東京シリーズも間違いなく大きな注目を集める。そのタイミングで、何かを仕掛けられる「チャンス」を得たいと考えました。もちろん、ライバル企業がMLBのチケッティングに関わっていることは把握していました。だからこそ、東京シリーズに絡む店頭キャンペーンの権利だけは、他社に渡したくなかった。そこは強く意識していました。
――編集部 セブン-イレブン・ジャパンから話があったとき、金子さんはどう感じましたか。
――金子 正直、心が躍りました。もちろん大きな挑戦になるのはわかっていましたが、気づいたときには反射的に「ぜひ、やらせてください」と即答していました。
言葉は短いが、金子の口調から、当時の興奮が伝わってきた。All-Grip は社員3人の小さなスポーツエージェンシーだったが、すでに日本管材センターとロサンゼルス・ドジャースのパートナーシップ契約を成立させていた。その過程でMLBとも一定の関係を築いており、その蓄積が、このプロジェクトに繋がる土台となっていた。そういう絶妙のタイミングだから、胸が高鳴るのは当然だ。
不利な状況をひっくり返す
――編集部 その後、話は順調に進んだのでしょうか。
――岡嶋 結果だけを見れば、うまく進んだように見えるかもしれませんが、最初の状況は、正直に言ってかなり厳しいものでした。何が良かったかと言えば、MLBと繋がるまでのスピードです。金子さんと初めてお会いしたのが2024年10月5日で、その翌週、11日にはMLBと商談に入ることができました。この初動の速さは、金子さんの動きの速さによるところが大きかったと思います。
――編集部 実際にMLBと話してみて、感触はいかがでしたか。
――岡嶋 MLBから最初に言われたのは、「これは、かなり難しいですね」という言葉でした。すでに同業他社からも同様の提案が出ていて、しかも、その話がかなり具体的な段階まで進んでいる。この状況からひっくり返すのは、相当ハードルが高い、と。
――編集部 東京シリーズまで半年足らずで、出遅れたから契約できなくても仕方がない、と思うことはありませんでしたか。
――岡嶋 それはなかったですね。「難しい」と言われたからこそ、何とかできないかと考えました。
――編集部 交渉の場では、どのような点を訴えたのでしょうか。
――岡嶋 私たちが意識していたのは、2025年3月の東京シリーズだけにフォーカスしないことでした。もちろん、東京シリーズは注目度の高いイベントです。ただ、それだけで終わる関係ではなく、年間を通じて、契約期間全体を通じて、さまざまな取り組みを行う。そうした長いスパンのパートナーシップを築きたい、という考えをお伝えしました。また、確約はできないけれど、将来的にはアメリカのセブン― イレブンとも何かできるかもしれない、という話もしました。
――編集部 結果的に、不利な状況をひっくり返せた要因は何だったと思いますか。
――金子 セブン-イレブンが、日本のコンビニ業界で圧倒的な存在であること。そこが大きかったと思います。特に、同業他社との店舗数の違いは、MLBにとってもわかりやすい指標だったはずです。
――岡嶋 そうですね。日本国内だけでなく、グローバルに展開しているチェーンであるという点も、評価された要素だったのかもしれません。
アメリカ発祥のセブン-イレブンの日本国内の店舗数は2万1857店(2025年12月現在)で、ライバル他社を大きく引き離している。アメリカ、ヨーロッパなど全世界の店舗数は2025年8月には8万6000店舗を突破し、世界最大のチェーンストアに成長している。セブン-イレブン・ジャパンは東京シリーズが迫った2025年2月7日にMLBとパートナーシップ契約を締結。2027年までの複数年契約。発表記者会見には元シアトル・マリナーズのレジェンドで、1月にアメリカ野球殿堂入りしたばかりのイチローさんとともに岡嶋マーケティング本部長が登壇した。

