ゲーテ読者に薦めたいとっておきの1冊をピックアップ! 今回は、朝井リョウの『イン・ザ・メガチャーチ』をご紹介。

朝井リョウ 著 日本経済新聞出版 ¥2,200
人を操る「物語」が紡ぐ、あしたの日本の物語
音楽業界に明るい某プロデューサーが「勉強になった」と薦めてきた1冊。読み始めると、そこここに私が見てきた業界人の姿が立ち上がってくる。やがて、幾多のアイドルオーディション番組に携わってきた我が身が二重写しになり、心が乱れ、身がすくんだ。
本作には、熱心なアイドルファンの「好き」が生みだす経済圏「ファンダム経済」の歪(いびつ)さが底流にある。消費活動を促すために物語を創り上げていく運営側と、金と時間を搾取されつつも幸福に浸る信者たち。朝井リョウ氏は、この構造を3つの視点、運営に身を置く父親、その娘でアイドルに無関心な大学生、すでに推し活にのめり込んでいる女性の心模様で浮かび上がらせる。
序盤は、三者の人物像をにじませるための言葉遊びに食傷するかもしれない。が、じきにエンタメを生業にしている私も脱帽する、緻密な取材によるであろう業界背景のリアリティ。著者の巨視感が成し得た「あり得る・起こり得る事態」への展開力に引きこまれていくはずだ。
殺しも暴力もなく登場人物の誰もがそこそこ幸福でいられる世界線。人を操る「物語」によって生成されていく物語は、ミステリー小説にはない怖さが付帯している。
桝本壮志/Soushi Masumoto
1975年広島県生まれ。放送作家として数々の人気番組を担当。NSCの講師も務め、令和ロマンなど教え子をM-1に輩出。新著『時間と自信を奪う人とは距離を置く』が発売中。

