ゲーテ読者に薦めたいとっておきの1冊をピックアップ! 今回は小野純一の『僕たちは言葉について何も知らない 孤独、誤解、もどかしさの言語学』をご紹介。

孤独、誤解、もどかしさの言語学』
小野純一 著/NewsPicksパブリッシング ¥1,980
モヤモヤの正体を解き明かす、言葉の探求書
私たちはみんなが金持ちではないが、「言葉持ち」ではある。言葉を湯水のように使えるし、他者に与えることもできるからだ。しかし、そこには言葉でうまく伝わらない、表現できないといった、もどかしさも立ち現れてくる。また誤解を生む、反感を買う、疎外されるといった孤独になることもある。いったいなぜ、私たちはこんなにモヤモヤしてしまうのか? 本書はそんな重要かつ巨大な問いを解き明かす、言葉の探求書である。
言語哲学者である著者は、「言葉の力と誤解」を哲学的な視点から解きほぐし、その「正体」をたぐり寄せていく。言葉の謎を言葉で説明するというハードワークを可能にしているのは、あたう限りの言葉を尽くそうという著者の誠意であり精神だ。「伝わらない」を伝えるためには、「伝わらないかもしれない言葉」を丁寧に届けていくしかない、というメッセージのようなものを私は感じた。
読者は、途中で難解に感じることもあるだろう。が、そのモヤモヤの先にこそ、もどかしさが晴れていく解がある。言葉がもたらす孤独の正体を知った時、その意味は一変し、孤独と言葉を友にして生きていこうという明日が見えるはずだ。
桝本壮志/Soushi Masumoto
1975年広島県生まれ。放送作家として数々の人気番組を担当。NSC(タレント養成所・吉本総合芸能学院)の講師も務めており、令和ロマンをはじめ、多くの教え子をM-1に輩出している。