ゲーテ読者に薦めたいとっておきの1冊をピックアップ! 今回は富岡幸一郎の『ビジネスエリートのための 教養としての文豪』をご紹介。

富岡幸一郎 著 ダイヤモンド社 ¥2,310
仕事と人生の視点を変える
私は休日になると文豪ゆかりの地へ赴き、彼らが風に吹かれたであろう散歩道を歩く趣味がある。「文豪」という響きはどこか古めかしく感じるが、かつての彼らは今で言うところの耳目を集めるインフルエンサーやオピニオンリーダーとも言え、仲間と同人誌を刊行したり、出版社を興したりした行動力は、現代の経営者、起業家にも通ずるものがある。そんな彼らのゆかりの地を訪ね歩くことは、私のビジネスや人生の決断において有用かつ有益なのだ。
本書は、そんな文豪たち42人の生き様を、文芸評論のスペシャリストがまとめた人間論である。転職を考えている人は、実に20以上の職を転々とした江戸川乱歩の飽き性っぷりに勇気をもらうかもしれないし、成果が上がらず悩んでいる人は、人生の終盤わずか10ヵ月で後世に残る名作をいくつも書いた中島敦に励まされるかもしれない。
また川端康成が抱えていた孤独、三島由紀夫のコンプレックス、芥川龍之介の女癖の悪さなど、教科書に名を連ねていたエリートたちの人間味溢れる葛藤、悪癖、自堕落ぶりを知ることで偉人と自分、文学と自分との距離がぐっと縮まっていく。そこから得る教養は、明日を生きる力強い補助線になるはずだ。
桝本壮志/Soushi Masumoto
1975年広島県生まれ。放送作家として数々の人気番組を担当。NSC(タレント養成所・吉本総合芸能学院)の講師も務めており、令和ロマンをはじめ、多くの教え子をM-1に輩出している。