ゲーテ読者に薦めたいとっておきの1冊をピックアップ! 今回は山田尚史の『きみに冷笑は似合わない。SNSの荒波を乗り越え、AI時代を生きるコツ』をご紹介。

山田尚史 著/日経BP 日本経済新聞出版 ¥1,650
AI時代を生き抜く「二刀流」の書
時価総額1000億円となった企業を立ち上げ、「このミステリーがすごい!」大賞で大賞受賞者になるという異色の経歴の持ち主。それが本書の著者・山田尚史氏だ。
その二刀流ぶりは、本書でも遺憾なく発揮されている。序盤は、AIが驚くべきスピードで産業構造を変えている現代を、上場を経験した起業家ならではの知見で鮮やかに考察してみせる。そして、SNS上に蔓延(はびこ)る他者の正義を笑い皮肉る冷笑主義に対して、文芸家ならではの視座で警鐘(けいしょう)を鳴らし、悪習を手放すコツを説いていくのだ。この現代社会を侵食しているAIとシニシズムの両方を斬れる刀は、おそらく今彼しか持っていないのではないだろうかと私は思う。
また、デジタル分野に長けた山田氏の「AI時代を生きるコツ」が、アナログであることも新鮮かつ胸に残響するはず。それは、真摯(しんし)にコツコツとひとつのことをやり抜くこと、夢を語ることの大切さなど、実に人間味溢れる「真っ当なコツ」なのである。一見華やかに見える経歴自体が、山田氏が地道にコツコツと歩んできた努力の結晶なのであり、彼のメッセージが決してまやかしでないことの証左なのである。
桝本壮志/Soushi Masumoto
1975年広島県生まれ。放送作家として数々の人気番組を担当。NSC(タレント養成所・吉本総合芸能学院)の講師も務めており、令和ロマンをはじめ、多くの教え子をM-1に輩出している。