1万人以上のストレスに向き合ってきた脳科学者・西剛志氏が、「仕事のストレス」を断ち切る方法を伝授。最短1分、誰もが気軽に取り組める科学的メソッドに、きっと心が軽くなるはず。『脳科学でわかった 仕事のストレスをなくす本』(アスコム)から一部抜粋して紹介する。【その他の記事はこちら】

ストレスをなくす脳の使い方=「脳の状態」×「仕事の適性」
脳の状態を良くすることは、仕事のストレスを消したり、脳をストレスから守ったりするうえで有効ですが、そもそも仕事のストレス自体をできるだけ少なくすることも、脳の働きを高め、パフォーマンスを高めるうえでは非常に大事です。そして脳科学的にみると、仕事のストレスの有無や成果の出やすさは、「脳の状態」と「仕事の適性」の組み合わせによって左右されます。
ここでは、あなたの脳の状態と仕事の適性をチェックし、今の仕事があなたにどの程度ストレスを与えているかを見てみましょう。
①脳の状態
ドーパミン、オキシトシン、セロトニンなどの脳内物質が分泌されているか。これが十分であれば扁桃体の警報は収まり、集中とリラックスのバランスを取ることができ、前頭前野が本来の機能を発揮できます。研究では、ドーパミンレベルが高い人は集中力・判断力・記憶力が向上することが示されています。
②仕事の適性
自分の思考パターンと仕事の内容が一致しているか。適性が高いと「やらされ感」が減り、努力が成果につながります。強みを活かせる仕事に従事している人は収入だけでなく、パフォーマンスや幸福度も高く、オックスフォード大学の調査でも、幸福度が高まると生産性が13%高いという結果が出ています。
「脳の状態」と「仕事の適性」の2つをかけ合わせたものが、下の「働き方マトリクス」です。このマトリクスは、縦軸に「脳内物質がうまく分泌されているか」、横軸に「仕事の適性(あなたの思考パターンと仕事の一致度)」をとり、4つの領域に分かれています。複雑に見える仕事のストレスの原因も、自分がこの4つの領域のどこにいるかを知ることで、驚くほど整理することができ、改善策が見つかりやすくなります。

理想ゾーン(高適職× 高脳内物質)
状態:仕事内容が向いており、脳内物質(ドーパミン・セロトニン、オキシトシンなど)も十分に整っている理想状態。
成果:高い集中力と持久力を保ち、効率よく成果を出せる。成長実感もあり、疲労感は少ない。
ストレス傾向:大きなストレスは少ないが、急な環境変化や過度な負荷がかかると脳内物質が低下して、プレッシャーゾーンに移行する可能性あり。
改善の方向:この状態を維持するため、生活リズムや人間関係の安定を確保する。
プレッシャーゾーン(高適職× 低脳内物質)
状態:仕事内容は向いておりスキルも発揮できるが、脳内物質不足により集中力や判断力が低下している状態。
成果:経験や習熟により短期的には成果が出せるが、疲弊が進むとパフォー マンスは落ちる。
ストレス傾向:プレッシャー系ストレス(ノルマ・締切・失敗許容ゼロ)や評価系ストレス(頑張っても認められない・比較される)が蓄積。
改善の方向:休養・睡眠・人間関係の改善などで脳の状態を立て直すことが最優先。
空回りゾーン(低適職× 高脳内物質)
状態:何かをやろうとする意欲は高いのに、仕事がうまくいかず空回りしやすい状態。
成果:短期的や特定タスクでは結果が出ることもあるが、長期的には成果が安定しない。
ストレス傾向:適性系ストレス(苦手な仕事ばかり・強みを活かせない)やマンネリ系ストレス(同じことの繰り返し・つまらない)が隠れて進行。
改善の方向:適職へのシフトやタスク内容の調整で、モチベーションと成果のバランスを整える。
プレッシャー空回りゾーン(低適職× 低脳内物質)
状態:仕事内容は向いておらず、脳の状態も悪い危険領域。やる気も集中 力も低く、成果も出ない。
成果:ほぼ出ず、失敗や遅延が増える。心身ともに疲弊。
ストレス傾向:全タイプのストレスが重なっている可能性が高く、燃え尽きや離職リスク大。
改善の方向:環境の抜本的見直し、業務内容の変更、十分な休養が不可欠。
どの領域にいるかを簡易診断する
もしかしたら、みなさんの中には、「働き方マトリクスの意味はわかったけど、自分がどの領域にいるのかわからない」「今の仕事が自分に合っているのか、脳内物質が出ているのかわからない」という方もいらっしゃるかもしれません。
そこで、あなたの適職度や脳の状態がわかる簡易診断をご紹介します。それぞれ10個の質問に答えるだけ。3分で完了します。理想の自分ではなく、「最近1か月の自分」を思い浮かべながら答えてみてください。診断しなくても、感覚的に自分がどの領域にいるかわかるという方は、読み飛ばしていただいてかまいません。

脳内物質が出ていて、仕事の適性度も高い人はさほど多くない
各領域についてあらためて整理しておきましょう。
理想ゾーンのように、適職に就いていて、かつ脳内物質が出ていると、頭の回転が速くなり、判断も冴え、集中とリラックスのバランスが取れた「ゾーン状態」に入りやすくなります。この状態では、少ない労力でも成果が出やすく、ストレスも疲労感も少なくなりますが、現実にはこの状態にいる人は少数派です。
プレッシャーゾーンのように、長期疲労、睡眠不足、人間関係悪化、成果が認められない環境などで脳内物質が不足していると、本来向いている仕事でもやる気が起きず、セロトニンも安定せず、パフォーマンスは落ち、疲れやストレスが蓄積していきます。
空回りゾーンのように、適職ではなくても脳内物質が出るのは、たとえば新人時代や重要なプロジェクトの追い込み時のように、責任感や「やり遂げねば」という義務感、高い評価を得たことによる高揚感などによって、一時的にドーパミンが分泌される場合もあります。ただし、この状態は長くは続かず、やがて疲弊してプレッシャー空回りゾーンに落ちやすくなります。そしてプレッシャー空回りゾーンのように、適職でなく脳内物質も出ていない場合は、やる気もなく集中力も続かず、パフォーマンスがまったく上がらず、ひたすら疲れとストレスだけが溜まっていきます。
このように、適職度と脳の状態は、それぞれがストレスに影響を与えており、両方が高いときだけが「楽しく成果が出る」理想的な状態になります。逆にどちらかが欠けると、成果は出ても疲れる、または楽しいけれど成果が出ない、という状態に陥ってしまうのです。
どうしたら理想ゾーンに近づけるのか?ーーそれは①脳内物質を出すDOSスイッチ、②最新科学でわかってきた8つのパーソナリティタイプを理解すると実現しやすくなるでしょう。

脳科学者(工学博士)、分子生物学者。武蔵野学院大学スペシャルアカデミックフェロー。T&Rセルフイメージデザイン代表取締役。東京工業大学大学院生命情報専攻修了。2002年に博士号を取得後、特許庁を経て、2008年にうまくいく人とそうでない人の違いを研究する会社を設立。子育てからビジネス、スポーツまで世界的に成功している人たちの脳科学的なノウハウや、大人から子供まで才能を引き出す方法を提供するサービスを展開し、企業から教育者、高齢者、主婦など含めて4万人以上に講演会を提供。『世界仰天ニュース』『モーニングショー』『カズレーザーと学ぶ。』などをはじめメディア出演も多数。TBS Podcast「脳科学、脳LIFE」レギュラー。著書に20万部のベストセラーとなった『増量版 80歳でも脳が老化しない人がやっていること』、『1万人の才能を引き出してきた脳科学者が教える 「やりたいこと」の見つけ方』『結局、どうしたら伝わるのか? 脳科学が導き出した本当に伝わるコツ』など海外を含めて累計43万部突破。

