なせ、日本人は仕事において生産性が低いと言われるのか? その原因のひとつに、仕事をする“目的”が挙げられるという。ゲーテwebの連載「何気ない勝者の思考」も好評な脳科学者・西剛志先生が、アメリカと日本における、仕事への熱意の差について語る。『1万人の才能を引き出してきた脳科学者が教える 「やりたいこと」の見つけ方』(PHP研究所)の一部を抜粋・再編集して紹介する。【その他の記事はコチラ】
「ライスワーク」のために働く日本人
興味深い調査があります。
人材コンサルティングを手がける米ギャラップ社が、世界各国の企業を対象に従業員のエンゲージメント(仕事への熱意度)を調べました。
その結果、日本は「熱意あふれる社員」の割合が6%しかないことがわかったのです。米国の32%と比べて大幅に低い数字であり、調査した139ヵ国中132位と、最下位クラスです。さらに「周囲に不満をまき散らしている無気力な社員」24%、「やる気のない社員」は72%に達していました。
つまり、日本人は仕事への熱意が低く、周囲に不満をまき散らし、やる気が見られない。
散々ないわれようですが、端的にいえば、「日本人は生き生きと働いていない」ということになるでしょう。
日本でも、内閣府が日本人の「働く目的」を調査しています。その結果がまた、衝撃的でした。
「お金を得るために働く」と回答した人は51.0%。「社会の一員として、務めを果たすために働く」との回答が14.7%。「自分の才能や能力を発揮するために働く」が8.8%。「生きがいを見つけるために働く」は21.3%でした。
半分以上の日本人が「お金のために働いている」事実が示されています。また、それは若い人ほど顕著でした。「お金のために働いている」日本人は、「生き生きと働いていない」。日本人にとっての仕事と、アメリカ人にとっての仕事。ここには、いったいどんな差があるのでしょう?
注目したいのは、60歳以上の高齢者でも「アメリカ人の約半分は、仕事に打ち込んでいるときに、生きがいを感じる」というデータです。一方、日本人は22%と低い数値でした。若い人でも職場の満足度はアメリカより約40%も低くなるそうです。
仕事における「3つのカテゴリー」
「3人の石工(いしく) 」という話をご存じでしょうか。
ある人が、作業中の石工に「あなたは何をしているんですか?」と尋ねまし た。すると、3人の石工は次のように答えたそうです。 1人目の石工は、「親方の命令でレンガを積んでいるんだ」。 2人目の石工は、「レンガを積んで塀を造っているんだ」。3人目の石工は、「人々がお祈りをするための大聖堂をつくっているんだ」。
この話は、一口に「仕事」といっても、いくつかの意味合いがある、ということを示唆しています。実際、イェール大学の研究でも仕事には3つのカテゴリーがあると提唱されています。下の図にあるように、ジョブ、キャリア、コーリングです。いずれでもないものを、ここでは「趣味」としました。
「ジョブ」は、物質的な利益を得る手段としての仕事です。仕事の目的を達成するという意識は薄く、「お金のために働く」がこれにあたります。日本人の仕事は大半がジョブだといえるでしょう。「キャリア」は、目的を達成したり、職業人として成長したり、名声を得たりと、「自分の成長や業績のために」行なっている仕事になります。やっていることそのものが大好きであれば「コーリング」になりますが、業績を上げることだけが目的になっている場合は、好きなレベルは相対的に低いため「キャリア」に分類されます。
つまり、キャリアに「好き」が加わると、「コーリング」になります。「コーリング」は天から呼ばれる仕事(役割)という意味で、日本では「ライフワーク」「本当にやりたいこと」「天職」とも呼ばれます。目的とやりがいがあって、かつ、気持ちが満たされる仕事。生涯を通して「生きる原動力」になり、働いていて、「感謝」「喜び」「ワクワク」「幸せ」を感じられる活動です。
また、コーリングには大きな感覚から小さな感覚を含むものまで、さまざまな定義があります。
たとえば、コロラド州立大学のBryan J. Dik 教授はコーリングについて、「自分を超えた感覚に導かれていて、その仕事に対し、目的や意味を感じられるもの」という壮大な表現をしています。 また、現代的なコーリング感を研究するボストン大学では、「目的を感じて、それをやっていて意味があると思えるもの。それはどんな些細(ささい)な仕事でもコーリングになり得る」 と定義しています。
「3人の石工」のエピソードに戻るなら、1人目の石工はジョブ型、2人目はキャリア型、3人目はコーリング型の仕事をしている、といえそうです。