「内気な子は成功できない」「積極性がない子は伸びない」と多くの人が思うこの定説が、近年、覆されつつある。2万人以上に脳科学的ノウハウを講演してきた脳科学者・西剛志が、その真実を科学的に紐解く。■連載「何気ない勝者の思考」とは
「内気」は本当にダメなのか?
恥ずかしがり屋で友達がいない、人見知りしてしまう、慎重な性格で怖がり、テキパキ行動できない、いつも妄想ばかり……。そんな子供に接したら、多くの人は「この子は大丈夫だろうか?」と思うかもしれません。
一方で、積極的に行動し、明るく、前向きで、話が流暢な外向的な子は、よい子で大人になってもうまくいきやすいと思われる傾向があります。
しかし、近年の研究から、内気な子(内向型)は、外向的な子と比べて、脳の前頭前野が発達しており、深く考え、一人でいるだけで元気を回復でき、孤独に強く、長時間の思考にも取り組めることから、うまく成長すると、大人になってから成功しやすいことがわかっています(*1)。
写真を見るだけで「内向的」か「外向的」かがわかる
次の写真をしばらく見てください。
あなたはこの写真を見て、何を見ましたか?
実は写真のどこを見るかで、その人が「内向型」か「外向型」かがわかります。
・少女や動物の顔を中心に見ていた人 → 外向性が高い
・顔だけでなく景色も見ていた人 → 内向性が高い
米国の研究では、人の顔と花の写真を見せて、人がどこに関心を示すのか脳波を調べたところ、外向的な人ほど人の顔を見たときに脳が大きく反応し、内向型ほど人の顔よりも、花の写真を見たほうがより大きく脳が反応することがわかりました(*2)。
つまり、外向的な子は、人の顔が好きなので、人付き合いが盛んですが、内向型はあまり興味がないため、人以外のことに注意を向けて思考を深める傾向があることがわかったのです。
一流の人ほど意外と目立たない
外向的な子は、積極的に動き、発言も多いため、とても目立ちます。世の中でも目立つほうがよいとされる風潮があるため、「外向的な子=よい子」のようなイメージがあるかもしれません。
しかし、著名な教育心理学者ベンジャミン・ブルームが行った調査では、ピアニスト、彫刻家、オリンピック選手、テニスプレーヤー、数学者など世界的にも有名な卓越した成果上げている120名の幼少期をリサーチした結果、そのほとんどが幼少期の頃は凡庸で、特に際立った才能は見られないという結果が得られています(*3)。
イーロン・マスクも怖がりだった!?
幼い頃に内向的で、大人になって大成功した人は数多くいます。世界の大富豪となったイーロン・マスクも典型的な内向型です。 私も驚いたのが、彼が海外の番組のインタビューでこう答えていたことです(*4)。
「自分のことを恐れ知らずだとは思わない。それどころか、かなりの怖がりだと思う」
口数が少なく、おとなしい子どもだったイーロンは、幼少期は周りの子どもにいじめられ、ずっと一人で本ばかり読んでいたそうです。一人で空想の世界に入ることも多く、当時のその経験が、今のサービス開発にもつながっているようです。
イーロンに限らず、ハリー・ポッターシリーズの生みの親J.K.ローリング、アップル共同創業者のスティーブ・ジョブズ、世界的ミュージシャンのエド・シーラン、エイブラハム・リンカーン元大統領、 映画監督のスティーブン・スピルバーグ、アインシュタインなど、世界の偉人とも言われる多くの成功者は、子どもの頃に内向的な性格だったことが知られています。
一人で深く思考を重ねるのが好きだったため、いじめの対象になることも少なくありませんでした。しかし、彼らは、その内向性を活かし、深い思考と人に群れない独自性を武器に、自分を大きく成長させ、世の中で活躍することができたのです。
内向型と外向型では話し方が違う
内向型は外向型の脳よりも、前頭前野の3分の1を占める上前頭回/中前頭回と右頭頂接合部が発達しているため、深い思考や内省、行動抑制、社会的な感情の処理などを司る能力が優れています(*5)。
そのためか、内向型が突出した「オタク」のような人は、普段はおとなしいですが、自分の好きなフィギュアやアイドル、鉄道の話になると、専門用語をフルに使って流暢に語る傾向があります。内向型はそうした能力をうまく使えると、大人になって十分に成功できる可能性を秘めているのです。
おとなしい人は本当に暗いのか?
内向型というと「暗い」イメージがありますが、内向型だからといって決して暗い性格になる訳ではありません。 世界の性格リサーチからも、暗い性格は内向型ではなく、「神経症傾向」というマイナスにフォーカスしてしまう性格が関係していることがわかっています(*1)。
つまり、神経症傾向が低ければ、内向型であったとしても、マイナスになりにくいのです。幸せな内向型で有名なのは、現在メジャーリーグで大活躍の大谷翔平選手でしょう。
彼は、高校1年生のときから「マンダラチャート」と呼ばれる目標達成シートを作成していたという話は有名です。 シートの中には「雰囲気に流されない」「あいさつ」「ゴミ拾い」など、一見、野球とは関係なさそうな目標も事細かに書き込まれていたそうです。ここまで細かい心の習慣を書くことができるのは、人がどういったときに心が動き、自分のパフォーマンスにつながるのかを分析できる典型的な内向型の才能があったと考えられます。
この神経症傾向を減らすためには、まずは自分の性格タイプを理解することが大切です。
下記のサイトの2つの診断から、神経症傾向と内向型の度合いも知ることができますので、参考になれば嬉しいです。【サイトはこちら】
性格を手軽にリセットできる科学的な方法は、私の著書でも紹介しています。付き合う人で神経症傾向はシフトできることもわかっていますので、周りの人には注意してください。
<参考文献>
1. 西剛志著『「おとなしい人」の完全成功マニュアル 内向型の強みを活かして人生を切り拓く方法』(ダイヤモンド社)
2.Fishman I, Ng R, Bellugi U. Do extraverts process social stimuli differently from introverts? Cogn Neurosci. 2011 Jan 1;2 (2):67-73.
3.Mindset:The New Pschology of Success”, Carol S. Dweck, Ballantine Books
4.“I would’nt say I’m fearless. In fact, I think I feel fear quite strongly”/Eion Musk in His Own Words, Agate B2(July 13, 2021)
5.Forsman LJ, de Manzano O, Karabanov A, Madison G, Ullén F. Differences in regional brain volume related to the extraversion-introversion dimension--a voxel based morphometry study. Neurosci Res. 2012 an;72(1):59-67
■連載「何気ない勝者の思考」とは……
日常の何気ないシーンでの思考や行動にこそ、ビジネスパーソンが成功するためのエッセンスが現れる。会議、接待、夫婦やパートナーとの関係や子育てなど、日常生活のひとコマで試される成功者の思考法を気鋭の脳科学者・西剛志が解説する。