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2024.03.17

マザコンは本当に悪なのか? ハーバード大らの研究結果から紐解く!

日本では昔から「マザコン男は嫌われる」と言われてきたが、最近では中国でも、過度なマザコン男に悩む女性が話題になっているという。一方、欧米ではマザコンへの考え方が全く違うようで!? その差は一体どこで生まれるのか、世界の論文に精通する脳科学者・西剛志が意外な事実を解き明かす。 ■連載「何気ない勝者の思考」とは

勝者の思考
Unsplash / Patricia Prudente

世界の“びっくり”マザコン事情

マザコンというと、日本人の40歳以上の人は1992年に大ヒットしたドラマ『ずっとあなたを好きだった』の冬彦さんを連想する人が多いかもしれません。マザコンでオタクという、佐野史郎さん演じる冬彦さんの変態キャラクターが注目され、当時「冬彦現象」とも呼ばれるブームをつくり出しました。

マザコンという言葉は日本独特の造語で、海外でマザーコンプレックスと言っても通じません。その代わり、英語では「Mama’s Boy(ママボーイ)」とよく表現され、母親を偏重する男性は世界に多く共通のようです。

イタリア男はマンマをとにかく愛することで有名で、マンマミッシモ(母親至上主義)という言葉があります。イタリアの独身男性は、親との同居率が約7割となっており、女性の約2倍だそうです(EU全体の平均は48%、ドイツでも68%にまで高まっているようです)(*1)。

またロシアも母親の力が強い国として有名です。インドも妻より母親を優先する国として知られています。インド男性は、仕事中もデート中も電話を頻繁にすることがあるそうですが、その相手が母親ということもままあるそうです。

マザコン男は収入が高い!?

マザコンというと日本では特に年齢層が高い人ほど、よいイメージがないかもしれません。しかし、世界的には「母親を大切にする」価値観は決して悪いものではなく、むしろ「よいもの」として受け入れられています。

科学的にも、母親が大好きな人は、収入が高い傾向がハーバード大学の研究でもわかっています(*2)。この研究によると、『幼少期に母親とよい関係が築けた男性は、そうでない男性よりも8万7000ドル(約1300万円)も年収が高い』そうです。また母親との関係が悪い人は、年をとるほどアルツハイマーなどの痴呆を発症する確率が高まることまで分かっています。ちなみに、父親との関係は年収には全く関係が見られませんでした。

母親は美味しいご飯をつくってくれて、部屋をキレイに掃除してくれて、パンツまでキレイに洗濯してくれるママ。そんな自分に尽くしてくれる相手に恩返しをしようとする人は、仕事やスポーツのチームワークでも自然と成功しやすくなるのかもしれません。

中国でも「冬彦さん現象」が深刻化

こうしてみると、マザコンは決して悪いものではありません。しかし、一方で、女性にとっては、「私より母親のことを優先して悲しくなる」「母親の言いなりになる男を見て情けない」「自主性がない男と一緒になっても幸せになれない」など悩む人がいることも事実です。

収入が高く女性を幸せにするマザコン男と、女性を不幸にするマザコン男の差は、一体何から生まれているのでしょうか?

私もいろいろな人を見てきましたが、マザコンには大きく2種類あると思っています。

1. 共依存タイプ(言いなりのマザコンタイプ)

2. 親孝行タイプ(自立したマザコンタイプ)

近年、中国では「1」の共依存タイプが問題になっているようです。中国語では「媽宝男」と言われるそうですが、母親に溺愛され常にママのことを第一に考えて判断・行動するような男性のことを言います。付き合うと、まず母親が絶対的な権力をふるい、男性は彼女を守ってくれないため、お見合いをする上で絶対に避けなければいけない男性としてネット上で流行しているようです。

アジア人と欧米人では脳が違う

なぜ、母親を大切にすることがアジアではマイナスにつながりやすいのでしょうか?

最近の脳科学の研究では、東洋人と欧米人の違いを示す面白い研究があります(*3)。

脳の活動をスキャンしながら、アメリカ人と中国人に自分のことと母親のことを考えてもらう実験をしました。すると、こんな結果になりました。

■アメリカ人 → 自分と母親のことを考えているとき、脳はそれぞれ違う部分が反応

■中国人 → 自分と母親のことを考えているとき、脳のほとんど同じ部分が反応(自己表現に関する「内側前頭前野」が活性化)

これは、アメリカ人は母親を他人として考え、中国人は自分のことのように考えるということです。つまり、欧米人は2の「親孝行タイプ」(自立したマザコンタイプ)になりやすいのですが、中国人は母親が好きすぎると1の「共依存タイプ」になってしまうリスクがあることを示しています。

日本のデータはないのですが、同じアジア人という意味では、欧米人よりも母親が好きすぎると「共依存タイプ」になりやすい可能性があります。

ドトールコーヒーを全国に展開した大林豁史(おおばやしひろふみ)会長は大の母親好きで、母親のためにビジネスを成功させたということを以前インタビューで語っていましたが、適度に母親と距離をとって大切にすることは、ビジネス上もプラスになります。

日本でも若い男性は「ママっ子」と呼ばれ、母親と一緒に買い物に行ったり、まるでデートをしているかのように食事に行ったり、服を選んでもらうことも多く、女性を大切にする男性が若い女性に人気のようです。しかし、行き過ぎてしまうと2の「親孝行タイプ」から1の「共依存タイプ」になってしまう可能性があります。

母親好きはよいことですが、特にアジアの男性は、行き過ぎた愛情にならないよう、母親との距離感を保つことを心がけましょう。

<参考文献>
(*1) ユーロスタット/欧州連合統計局2016年
(*2) The Atlantic Review,“What makes us happy? Is there a fomula – some mix of love, work, and psychology adaptation- for a good life?”June 2009
(*3) Zhu Y, Zhang L, Fan J, Han S. Neural basis of cultural influence on self-representation. Neuroimage. 2007 Feb 1;34(3):1310-6.

脳科学者・西剛志「勝者の思考」
西剛志/Takeyuki Nishi
脳科学者(工学博士)、分子生物学者。武蔵野学院大学スペシャルアカデミックフェロー。T&Rセルフイメージデザイン代表取締役。東京工業大学大学院生命情報専攻修了。2002年に博士号を取得後、特許庁を経て、2008年にうまくいく人とそうでない人の違いを研究する会社を設立。子育てからビジネス、スポーツまで世界的に成功している人たちの脳科学的なノウハウや、大人から子供まで才能を引き出す方法を提供するサービスを展開し、企業から教育者、高齢者、主婦など含めて1万人以上に講演会を提供。メディア出演も多数。著書に『世界一やさしい 自分を変える方法』『80歳でも脳が老化しない人がやっていること』『1万人の才能を引き出してきた脳科学者が教える 「やりたいこと」の見つけ方』など海外を含めて累計32万部突破。

■連載「何気ない勝者の思考」とは……
日常の何気ないシーンでの思考や行動にこそ、ビジネスパーソンが成功するためのエッセンスが現れる。会議、接待、夫婦やパートナーとの関係や子育てなど、日常生活のひとコマで試される成功者の思考法を気鋭の脳科学者・西剛志が解説する。

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TEXT=西剛志

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