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2023.11.19

熟年離婚まっしぐら...長年一緒にいる夫婦が冷え切る科学的理由

「熟年離婚」が珍しいことではなくなった昨今。そして「この傾向は他国でも同様である」と述べるのは、1万人以上に脳科学的ノウハウを講演してきた脳科学者・西剛志。長年連れ添った男女間の亀裂について、科学的に考察する。 ■連載「何気ない勝者の思考」とは

勝者の思考
Unsplash/jurien-huggins ※写真はイメージ

世界でも急増する熟年離婚

日本では全体の離婚数は2002年をピークに減少しています。しかし、同居20年以上の「熟年離婚」は1950年以来ずっと上昇しており、2020年には離婚カップルの5組に1組以上(21.5%)が熟年離婚をするという事実があります(*1)。

米国でも近年熟年離婚数が倍増、2010年には離婚した人の4人に1人が「50歳以上」となっているそうです(*2)。最近、ビル・ゲイツや、ジェフ・ベゾスなどの離婚がニュースになったことは記憶に新しいかもしれません。

厚生労働省「人口動態統計特殊報告/令和4年度 離婚に関する統計の概況」
※厚生労働省「人口動態統計特殊報告/令和4年度 離婚に関する統計の概況」の図6を引用

離婚の科学/離婚を生み出す5つの要因

一般的に離婚につながる要因は大きく5つあることがわかっています。

1. 結婚した年齢が若すぎる

早婚の人ほど離婚率は高まり、特に結婚5年以内に離婚する確率が最も高くなります(*3,4)。学歴も低いほど一般的に離婚しやすくなります(*5)。

2. 再婚の人は離婚率が高い

初婚よりも再婚のほうが25%も離婚率が高まります(*3)。再婚でも同じ過ちを繰り返しうるのでしょう。

3. マリッジブルーになった女性は離婚率が高い

カルフォルニア大学の研究で、232組の新婚カップルを調べた結果、婚前にマリッジブルーになった女性は、4年後の離婚率が2倍となりました(*6)。男性の婚前の迷いは離婚に関係がなかったそうです。

4. 子供がいない夫婦は離婚率が高まる

子供がいないと離婚率が高まり、結婚から離婚までの期間も短くなります(*7)。特に女の子を持つと離婚率が9%上がります(*8)。その理由は一般的に男の子のほうが父親は教育に熱心になり、子育てに参加する割合が増えるからと言われています(*9)。

5. 親が離婚すると子供の家庭が崩壊しやすい

自分の親が離婚していると、自分も将来の離婚リスクが高まります(*10-12)。特に12才以下で親が離婚すると影響が大きく、双方の親が離婚していると最もリスクが高まるようです(*13)。

熟年離婚は「性格のずれ」から起きている!?

熟年離婚は、以上の5つの要因を乗り越えて、20年以上も結婚生活を続けた人達。しかし、なぜ、近年こうした熟年離婚が増えているのでしょうか?

このヒントを探るために有効な方法の1つが、離婚した原因を唯一知れる「司法統計年表」です。1975年から2020年にかけて、離婚の代表的な原因を表にまとめてみました。

これを見ると、男女ともに最も多い理由の第1位が「性格の不一致」です。「精神的虐待」も2020年までに増えていますが、これも性格の違いの一部に含めると、男性79.9%、女性62.7%と離婚理由のほとんどを占めます。

更に重要なことは、上記の司法統計の2020年のデータでも離婚を切り出すのは全体のうち43,469名(約74%)が女性という事実です。他の恋愛の研究でも約7割が別れは女性のほうから切り出すことがわかっています。

裁判にかける離婚は全体の1割のため、更なる調査が必要ですが、2020年の女性の離婚原因は「性格」(性格+精神的虐待/62.7%)と「お金」(生活費+浪費/39.6%)が離婚の二大要因となっています。この2つは1975年からずっと女性の離婚理由の上位を占めており、時代を超えた普遍的なものと言えるでしょう。

会話の内容が離婚リスクを高める

離婚の大きな要因の「性格の不一致」。これは何から生み出されているのでしょうか?

日本の研究でも性格の不一致は、「人生目標の不一致」、「役割分担の不一致」がその一部であることがわかっていますが(*14)、こうした問題は会話中の「セルフディスクロージャー」(自己開示)が少ないことが原因となっていることが、近年注目されています(*15)。

「最近、仕事でこんなことがあったんだ」、「子育てで最近つかれたよ…」、いいことも悪いことも、女性は会話中の自己開示が多いほど満足度が高まります。

ハーバード大学の研究でも、約300人の会話時の脳を調べると、自己開示できると食べ物やお金、性行為などの満足感や快感を感じる脳の報酬系が活性化することがわかっています(*16)。つまり、自己開示してもらうだけで、相手は大きな快感を感じて、「この人は信頼できる」=「この人と性格が合う」と感じるのです。また、自分が自己開示すると、相手の自己開示も増えます。

特に女性は、子育て期になると子供の話題、親への悩み、職場の人間関係やキャリアなどの会話量が増えます。中年期になると、将来の話題も増えます(*15)。

そんなとき、忙しいからと話を聞かない、スマホを見ながら話を聞く、「またそんなことを言っているのか、結論は何なの!?」と聞くような人は、女性が性格が合わないと感じ、熟年離婚につながりやすいと考えられます。

子供を産んだ後に夫への愛が急に冷めてしまう「産後クライシス」という言葉が話題になりましたが、出産後に「旦那が仕事ばかりで家事や子育てをしてくれなかった…」、「悩みを聞いてくれなくて人間性を疑った」、なども離婚の決定的な原因になることがあります。

仕事はどんなにできても、女性の話を聞かない男性、自己開示しない男性は、熟年離婚の確率が高まる可能性がありますので、注意してください。

次回は、もうひとつの離婚の2大要因「お金」についてもお伝えしたいと思います。

脳科学者・西剛志「勝者の思考」
西剛志/Takeyuki Nishi
脳科学者(工学博士)、分子生物学者。武蔵野学院大学スペシャルアカデミックフェロー。T&Rセルフイメージデザイン代表取締役。東京工業大学大学院生命情報専攻修了。2002年に博士号を取得後、特許庁を経て、2008年にうまくいく人とそうでない人の違いを研究する会社を設立。子育てからビジネス、スポーツまで世界的に成功している人たちの脳科学的なノウハウや、大人から子供まで才能を引き出す方法を提供するサービスを展開し、企業から教育者、高齢者、主婦など含めて1万人以上に講演会を提供。メディア出演も多数。著書に『世界一やさしい 自分を変える方法』『80歳でも脳が老化しない人がやっていること』『1万人の才能を引き出してきた脳科学者が教える 「やりたいこと」の見つけ方』など海外を含めて累計32万部突破。

<参考文献>
(*1) 厚生労働省「人口動態統計特殊報告/令和4年度 離婚に関する統計の概況」https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/tokusyu/rikon22/dl/suii.pdf
(*2) Brown, S. L. & Lin, L. F. (2012). The gray divorce revolution: rising divorce among middle-aged and older adults, 1990-2010. The Journals of Gerontology Series B Psychological Sciences and Social Sciences, 67(6), 731-741.
(*3) Martin TC, Bumpass LL. Recent trends in marital disruption. Demography. 1989 Feb;26(1):37-51. 
(*4) Booth, Alan and John Edwards. 1985.“Age at marriage and marital instability” ournal of Marriage and Family,Vol. 47, p. 67-75
(*5) 林 雄亮, 余田 翔平 「離婚行動と社会階層との関係に関する実証的研究」 季刊家計経済研究 2014 WINTER No.101 p.51-62
(*6)Lavner, J. A., Karney, B. R., & Bradbury, T. N. (2012). Do cold feet warn of trouble ahead? Premarital uncertainty and four-year marital outcomes. Journal of Family Psychology, 26(6), 1012–1017
(*7)WHITE, L. K., BOOTH, A., & EDWARDS, J. N. (1986). Children and Marital Happiness: Why the Negative Correlation? Journal of Family Issues7(2), 131-147.
(*8)Morgan, S. P., Lye, D. N., & Condran, G. A. (1988). Sons, daughters, and the risk of marital disruption. American Journal of Sociology, 94(1), 110–129.
(*9)Katzev, A. R., Warner, R. L., & Acock, A. C. (1994). Girls or boys? Relationship of child gender to marital instability. Journal of Marriage and the Family, 56(1), 89–100.
(*10) Bumpass LL, Martin TC, Sweet JA. The impact of family background and early marital factors on marital disruption. J Fam Issues. 1991 Mar;12(1):22-42.
(*11)Glenn, N. D., & Kramer, K. B. (1987). The marriages and divorces of the children of divorce. Journal of Marriage and the Family, 49(4), 811–825. 
(*12)McLanahan, S., & Bumpass, L. (1988). Intergenerational consequences of family disruption. American Journal of Sociology, 94(1), 130–152
(*13)Amato, P. R. (1996). Explaining the intergenerational transmission of divorce. Journal of Marriage and the Family, 58(3), 628–640
(*14) 小谷朋広「熟年離婚と性役割の“ゆらぎ”」社会分析, 34号, 2007, p.3〜20
(*15)伊藤裕子他、「夫婦のコミュニケーションが関係満足度に及ぼす影響〜自己開示を中心に〜」文京学院大学人間学部研究紀要 Vol.9, No.1, p.1-15, 2007.12
(*16) Tamir DI, Mitchell JP. Disclosing information about the self is intrinsically rewarding. Proc Natl Acad Sci U S A. 2012 May 22;109(21):8038-43.

■連載「何気ない勝者の思考」とは……
日常の何気ないシーンでの思考や行動にこそ、ビジネスパーソンが成功するためのエッセンスが現れる。会議、接待、夫婦やパートナーとの関係や子育てなど、日常生活のひとコマで試される成功者の思考法を気鋭の脳科学者・西剛志が解説する。

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TEXT=西剛志

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