日本最大級の就職・転職サイト「OpenWork」に日々寄せられる社員のクチコミ。そこから分かってくるリアルな“企業の姿”は、転職活動の有力情報となるばかりか、優良な投資先を見極めたり、経営者であれば、自分の会社を見直すきっかけにもなる。今回は、30歳→40歳時点での推定平均年収の上がり幅でみるTOP20社を紹介。『1300万件のクチコミでわかった超優良企業』(東洋経済新報社)の一部を再編集してお届けする。
即戦力の「ミドル人材」に選ばれる会社は強い
日々働いていく上で、「年収・給与」はもっとも重要な指標の1つと言って過言ではないだろう。OpenWorkにおいても年収項目は社会人・学生問わず圧倒的に多くの人から閲覧されており、退職・転職する理由においても年収・給与に関する項目は常に上位に入っている。
仕事を探す中で、その企業の給与を調べる機会は多いと思うが、実は給与体系や報酬制度には、数字だけではない、その企業の組織文化や評価制度といった特徴が大きく反映されている。
OpenWorkでは、蓄積された実際に働く社員の年収データをもとに、企業ごとに異なる賃金カーブを独自のアルゴリズムによって可視化している。それを「年齢別年収(※1)」や「職種別年収」として掲載しており、平均年収や上限・下限年収も閲覧できるようになっている。
今回のランキングでは上記データを活用し、30歳時点での推定平均年収から40歳時点での推定平均年収への上がり幅でランキングを作成した。
経験豊富なミドルの採用ニーズが高まっている
近年、経験豊富なミドルの採用ニーズが高まっている。これまで新卒一括採用を人材調達の主な手段としていた日系の大手企業ですら、30代以上のキャリア採用に力を入れ始めている。
一方で企業は、経験豊富で即戦力となるミドルから選ばれる企業と選ばれない企業に二極化しているように感じる。30代の転職者に話を聞くと、その1つの要因に 「ミドル人材だとしても評価され、昇給する制度があるかどうか」が挙げられた。
30歳になるまで順調に昇給していたが、徐々に頭打ちになる賃金カーブになっている企業も少なくない。優秀で経験豊富なミドル人材にさらに活躍してもらったり、即戦力になりうるミドル人材を採用するためには、30代でもしっかり評価され、昇給できる環境を用意する必要がある。
30代で転職をする方は、これからますます増えるだろう。転職を決める前に、ぜひ30代でも評価される会社かどうかを調べておいていただきたい。
また、投資家の立場からも、どれだけ外部から優秀な人材を採用しリテンションできているかは、今後の事業成長性にも大きく影響するため、注目することをおすすめしたい。
(※1)「年齢別年収」は、会社評価レポートにて回答された有効な年収データを統計的に処理し、推定した年収値と約80%の推定範囲。個人の年収データやそれらの平均値ではなく、ある年齢および前後の年齢の複数のデータからOpenWork独自のアルゴリズムによって統計的に算出している。このため、ある程度の年収データが集まった企業のみランキング対象としている。
注目企業の概要
第1位 グーグル合同会社
1998年設立。世界最大シェアの検索エンジンの「Google」をはじめ、多岐にわたるサービスを展開しているIT 企業の日本法人。「公正」「定性」「RSU」といったキーワードが多く投稿されている。
■PICK UP クチコミ/基本給+賞与+RSUで支払われる。職位レベルが上がるにつれてRSUの割合が増す傾向にある(中途、エンジニア、在籍5 ~10年)※RSU:譲渡制限付き株式報酬
第2位 三菱商事株式会社
1950年設立。日本最大級の資本金を持つ三菱グループの大手総合商社。東証プライム市場上場。「年功序列」「管理職」「ボーナス」といったキーワードが多く投稿されている。
■PICK UP クチコミ/30代、管理職、年収は1700万円弱。年収=月給+標準賞与+個人業績賞与+会社業績賞与。これとは別に退職金、確定拠出年金(401k)など、給与以外のメリットも多くある(中途、事業開発、在籍5 年未満)
第11位 日本銀行
1882年設立。日本唯一の中央銀行で、銀行券の発行とともに通貨及び金融の調節などを目的として運営されている法人。「予測」「年功序列」「職種」といったキーワードが多く投稿されている。
■PICK UP クチコミ/企画役(管理職)に上がるまでは、考課は基本的に年次で決まるため、基本的には横並びと考えてよい。賞与も、中堅になれば多少の差はあるが、ほとんど差はつけない(新卒、特定職、在籍5~10年)
「30代年収アップ幅が大きい企業」の特徴
「30歳から40歳での年収上がり幅」で上位にランクインした企業には、どのような共通項があるかを分析していきたい。ランクインした各社の「年収・給与」に関して投稿されたクチコミや「年齢別年収データ」からは、いくつかの傾向が見えてきた。
ジャンプアップ昇給型vs.コツコツ昇給型vs.昇給年齢不問型
以前、弊社の別の調査(※2)で、企業の昇給パターンを考察したことがある。その結果、以下3つの昇給パターンに分類することができた。①ある年齢や一定の年次を境に平均年収が大幅にアップする傾向が見られる「ジャンプアップ昇給型」。②年齢・年次が上がるごとに平均年収も一定の割合で上昇していく「コツコツ昇給型」。③コツコツ型・ジャンプアップ型とも異なり、年齢と昇給幅の相関関係が少ない「昇給年齢不問型」。今回、30歳から40歳にかけて大きくジャンプアップした企業の多くは、①の「ジャンプアップ昇給型」に当てはまる。
ただ、注意しなくてはならないのが、ジャンプアップといっても1000万円から1500万円に昇給している企業もあれば、500万円から1000万円に昇給している企業もあるということだ。とくにランクインした金融業界の日系企業は 「年功序列」というコメントが多く見られ、30歳前後までは「コツコツ昇給型」だが、その後急に「ジャンプアップ昇給型」となり、1000万円前後まで上がる特徴的な傾向がある。こういった企業は、福利厚生が充実していることも特徴的だ。
また、必ずしもジャンプアップ企業が良いかというとそんなことはなく、30歳でも40歳でも同じくらいの高年収帯の企業もある。「昇給年齢不問型」で、実力主義や歩合制の人事制度を導入している企業に多く見られる。
「最速だと32歳くらいで支店長代理になるが、そこまで行くと年収1000万円が見えてくる。社宅などもあり福利厚生もこれだけ充実している中で上記水準の収入を得られる企業はなかなかないと思う」(株式会社常陽銀行、営業、在籍5~10年)
「20代であれば他行と比較し、給与水準に大きな差はない。年次が上がるにつれ、農林中金のほうが平均年収は高くなると思われる。また給与以外に福利厚生が手厚いことから、生活水準は手取り以上のものとなる」(農林中央金庫、営業、在籍5年未満)
会社の成長を楽しめる株式報酬付与型企業
また、ランクインした企業の中には、年収も高いが、さらに株式報酬を付与している企業も存在する。代表的なものはRSU(譲渡制限付き株式報酬)だ。
RSUとは、簡単に言えば「自社株を数年に分けてもらう権利」のことだ。海外の企業では、賞与の一部のように支給されるケースがあるが、日本でも少しずつ株式を報酬の1つとして付与する企業が増えてきている。今回はランク外であったが、未上場のベンチャー企業でSO(ストックオプション)を付与する企業も多い。
このように報酬の1つとして自社株を付与されると、会社が成長し企業価値が向上すればするほど自分の資産も増えることになる。アップサイドを狙いたい方は、単純な年収だけではなく、このような株式報酬の有無を確認することをおすすめする。
「基本給+インセンティブがベース。これ以外には個人の業績などに応じてRSUを付与される機会が年に1~2回あるのと、ESPP(Employee Stock Purchase Plan)と呼ばれる自社株買い制度がある」(シスコシステムズ合同会社、営業、在籍10年以上)
「基本給+サインオンボーナス+賞与+RSUの4つで構成される。従業員自らが株価を上げてがんばれるよう、長く働くよう意図されている」(アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社、営業、在籍5年未満)
「30代年収アップ幅が小さい企業」の特徴
30歳から40歳での年収上がり幅」で下位にランクインした企業にもっとも多く見られた共通点は、 「成果報酬型の営業職」が大多数を占める企業における年収の横ばい、および低下であった。
ある意味公平に評価されており、これ自体が悪いことだとは思わないが、一部の生命保険会社や家電量販店運営企業の営業職においては30歳から40歳にかけて年収が低下しているケースもあり、厳しいクチコミが投稿されていた。
一方で同じ企業・職種でも非常に高い年収となっているクチコミも散見されたため、単純に基本給が低く、インセンティブの変動幅が高い、ハイリスクハイリターン型の報酬体系とも捉えることができる。
そもそも年功序列制が機能しにくくなっている現在において、一概に「30歳から40歳での年収上がり幅」が高い会社がいいとは言えない。ただ、30歳以降も一定の年収アップを狙いたいのであれば、就職・転職の前に昇給可能性がどの程度あるかを調べておくべきだろう。職種によっても大きく異なるので、自身が希望する職種ごとに確認することを強くおすすめしたい。
大澤陽樹/Haruki Ohsawa
オープンワーク代表取締役社長、働きがい研究所 所長。福島県生まれ。東京大学大学院新領域創成科学研究科修士課程修了。リンクアンドモチベーションに入社し、組織人事コンサルティング事業のマネジャーを経て、企画室室長に就任。従業員エンゲージメント市場で、国内売上シェア5年連続No.1のモチベーションクラウドの立ち上げに従事。2018年、オープンワークに参画。執行役員、取締役副社長を経て、2020年より現職。OpenWorkのデータを活用したオウンドメディア「働きがい研究所」の所長としても活動し、毎日数百件の社員クチコミを読み続ける「社員の声のプロ」。