日本最大級の就職・転職サイト「OpenWork」に日々寄せられる社員のクチコミ。そこから分かってくるリアルな“企業の姿”は、転職活動の有力情報となるばかりか、優良な投資先を見極めたり、経営者であれば、自分の会社を見直すきっかけにもなる。今回は、直近5年で「会社がどれだけ良くなったか?」という視点でOpenWorkが選出した20社を紹介。『1300万件のクチコミでわかった超優良企業』(東洋経済新報社)の一部を再編集してお届けする。
「改善しつつある会社」ほど狙い目
前回取り上げた総合評価について、ここでは「直近5年間で大きくスコアを改善させた企業」のランキングを紹介したい。企業の総合評価が、2017年から2022年でどのように変化したかを集計し、改善幅の大きな企業をランキングした。
ただし、改善幅が大きくとも、いまだに総合評価が低い企業もある。そういった企業は「中の人がおすすめする企業」ではないので、2022年時点で一定スコアに達している企業に絞って いる。
企業文化、人事制度・報酬体系、育成システムなどを変え、それを定着させて効果が現れるようになるまでには、長い時間を要する。一方で、過去のOpenWorkのデータを見ると、従業員が1万人を超えるような大企業でも3年あれば大きくスコアを改善することができていた。これは中期経営計画などが3年スパンで描かれていることも影響しているかもしれない。そこで本ランキングでは、余裕をもって5年間を対象期間として設定した。
またこのランキングには、1つ注意しなくてはいけない点がある。それはもともと総合評価が高い企業はランクインしにくいということだ。2017年時点で総合評価が上位1%に入るような企業の多くが、その後も高い総合評価を維持していることが多いが、改善幅としてはどうしても小さくなってしまう。ただ、こういった企業はそもそも素晴らしい企業であるため、本ランキングに入っていないからといって悲観する必要はない。
「今、好調な企業」より「好調になりつつある企業」が狙い目
OpenWorkのデータを活用し日本証券アナリスト協会で賞を取った論文(※1)によると、組織文化の改善度合いと企業の業績や株式パフォーマンスには、正の相関があることが証明されている。つまり、総合評価そのものの高さよりも、総合評価の改善・悪化傾向をチェックしたほうが、その企業の将来の業績や株式パフォーマンスを予測できる可能性があるといえる。
投資家や求職者からすると、どうしても「今、好調な企業」に投資したり、入社したいと考えるのが普通だろう。しかし、研究論文で指摘されている結果に沿えば「好調になりつつある企業」へ投資したり、入社するほうが、得られる果実は大きいのかもしれない。
(※1)西家宏典・津田博史「従業員口コミを用いた企業の組織文化と業績パフォーマンスとの関係」『証券アナリストジャーナル』第56巻第7号、日本証券アナリスト協会、2018年
注目企業の概要
第1位 株式会社モデュレックス
1973年設立。照明器具の企画、製造、販売からライティングプランの設計までを手掛けるライティングのプロフェッショナル企業。「実力」「育休」「社長」といったキーワードが多く投稿されている。
■PICK UP クチコミ/ミッション、製品ブランドとしてのビジョンが明確に定められており、Wayに基づく組織経営・運営がなされている。自治自立した組織体の集まりという体制基盤が年々強固になってきている(中途、事務、在籍10年以上)
第2位 株式会社ゴルフダイジェスト・オンライン(GDO)
2000年設立。ゴルフ情報を発信し、ゴルフ場の予約やゴルフ用品販売を行う日本最大級のゴルフポータルサイト、ゴルフダイジェスト・オンラインを運営する企業。「多角」「ゴルフ」「利益」といったキーワードが多く投稿されている。
■PICK UP クチコミ/ホワイト企業アワード最優秀賞受賞に象徴されるように、働きやすさの環境は整えられている。短いコアタイムのフレックス勤務、リモートワーク、有給・産休・時短勤務も取得しやすい(中途、マーケティング、在籍10年以上)
第3位 太陽有限責任監査法人
1971年設立。大手と中小の長所を兼ね備えたミドルサイズファームであり、多様なクライアントを持つ監査法人。「中小」「若手」「規模感」といったキーワードが多く投稿されている。
■PICK UP クチコミ/4大監査法人につぐ準大手ということでクライアント数も年々増えており、実績も出ているので、部門や入社年次にとらわれず能動的になれば大手よりたくさんの経験を短期間で積める(新卒、スタッフ、在籍5 年未満)
「総合評価の改善度が高い企業」の特徴
5年間で総合評価を大きく改善することができた企業には、どのような共通項があるかを分析していきたい。ランクインした各社のスコアの変遷や投稿されたクチコミを見ていくと、ある2つのパターンが浮かび上がってきた。
ハード面改善型
1つ目に多かったパターンが、「残業時間(月間)」や「有給休暇消化率」「待遇面の満足度」など、数字にすることができ、目に見えて改善がわかるハード面の改善に着手した企業であった。
もともと業務負荷が大きい職種・業種であった企業が働き方改革に本腰を入れて取り組んだり、人事制度の見直しによる報酬面の改善を進めたことで、総合評価が大きく改善している傾向が見られた。
「(報酬が)競合他社と近い金額になってきている。他のランクの金額は把握していないが全般的に高ぶれしているのではないかと推測される。近年の売り手市場を踏まえて、報酬制度は毎年改訂されている」(EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社、コンサルタント、在籍5年未満)
「プライベートとのバランスは調整しやすい。無理に土日勤務や残業をするケースは以前と比較するとかなり減った」(アルー株式会社、営業、在籍5年未満)
「近年は働き方改革やリモートワークに積極的に挑戦し、社内システム面を中心に大きく変革しており、個人個人の働きやすい環境づくりに努めている」(三菱地所プロパティマネジメント株式会社、プロパティマネージャー、在籍10年以上)
ソフト面改善型
一方で、「20代成長環境」「社員の相互尊重」「風通しの良さ」といった、数字にすることはできず目に見えないソフト面の改善に着手した企業も、大きく総合評価を改善していた。
コロナ禍においては、コミュニケーション上の課題や、人材育成面の課題にぶつかる企業が多く、これらのスコアを落とす企業も少なくはなかった。そんな中でソフト面を改善できたことは、通常よりも従業員にとってメリットと感じられたのかもしれない。
「トップダウンというより、ボトムアップ。上司、先輩、同僚、同期、後輩がいい感じに機能しておりチームワークは良い。総じて働く意欲が高く人事制度も良いほうに改善されている」(東急不動産株式会社、事業企画、在籍10年以上)
「研修制度やWEB学習制度が充実しており、必要な知識が必要なときに身につけられる環境が整っている。従業員には平等にキャリアアップの機会があり、しっかりと業績を出しているメンバーは昇給速度も昇進速度も速い。年功序列ではなく、実力や成果に応じてしっかりと評価する仕組みが構築されている」(ボッシュ株式会社、研究開発、在籍10年以上)
「ビジョンマッチを大事にする社風で、入社理由もビジョンに共感している人が多い印象です。全社的に過渡期にあると感じ、そのため組織も頻繁に変更され、メンバーにとっては社内でチャンスをつかんだり新しい経験を積んだりするきっかけにもなっています」(株式会社オールアバウト、総合職、在籍5~10年)
もちろん、前記の企業も含め、全面的に改善している企業も見られたが、経営資源は有限であることを考えると、まずはポイントを絞って改善するほうが現実的かもしれない。
「総合評価の改善度が低い企業」の特徴
「総合評価」が大きく悪化している企業の特徴はさまざまである。
そんな中、いくつかの企業で見られたのが「働きやすさ(残業時間や有給休暇消化率)」は改善しているが、「20代成長環境」が大きく下落している「ぬるま湯」型であった。
この数年はとくに働き方改革が推し進められ、OpenWorkに投稿されている残業時間も大きく減少傾向にあった。より働きやすくなるのは、労働参加率が高まるという点ではとても良いことだ。
しかし、成長を求める人材にとっては物足りなく感じることもありうる。OpenWorkで実施した調査でも、Z世代は「業界・企業の将来性に不安を感じる」比率が他世代よりも高く、自身の市場価値を高められない環境にストレスを感じやすいのかもしれない。
経営者・人事部は、「働きやすい」だけでなく、「市場価値を高められる」会社をつくる必要があるだろう。求職者から見ると、目に見えやすいハード面だけでなく、風土や成長といったソフト面も事前に確認した上で就職先を探す必要があるだろう。
大澤陽樹/Haruki Ohsawa
オープンワーク代表取締役社長、働きがい研究所 所長。福島県生まれ。東京大学大学院新領域創成科学研究科修士課程修了。リンクアンドモチベーションに入社し、組織人事コンサルティング事業のマネジャーを経て、企画室室長に就任。従業員エンゲージメント市場で、国内売上シェア5年連続No.1のモチベーションクラウドの立ち上げに従事。2018年、オープンワークに参画。執行役員、取締役副社長を経て、2020年より現職。OpenWorkのデータを活用したオウンドメディア「働きがい研究所」の所長としても活動し、毎日数百件の社員クチコミを読み続ける「社員の声のプロ」。