日常の何気ないシーンに現れる成功者の思考法を気鋭の脳科学者・西剛志が解説。今回は、世代が違う部下にイライラせず、上手く乗せられる上司の秘密について。 連載「何気ない勝者の思考」とは……
Z世代の部下にイライラする理由
最近、講演や研修で企業にいくと、経営者や人事の人からよく聞く悩みがあります。
それは『最近の若い世代、特にZ世代の取り扱いが分からない』という悩みです。
・飲み会に誘うとパワハラだと思われる
・言われたことしかやらない
・注意するとすぐに心が折れる
・ほめると調子にのる
・電話に出ようとしない
こんな姿を見てイライラする40代以上のビジネスマンも多いと聞きます。
しかし、できる上司はこのような部下でも、うまく成長させることができ、やる気を引き出すのがうまいことをご存知でしょうか?
なぜ、こんなことができるのか? その秘密を紐解くために、今日はこんなことを考えてみたいと思います。
【勝者の思考1】:次のシマウマを見てください。シマウマの縞は白地に黒いシマ、黒地に白いシマのどっちに見えますか?
A. 白地に黒いシマ
B. 黒地に白いシマ
あなたはどちらに見えるでしょうか?
実際に私もこれまで2000名を超える人に見てもらいましたが、答えは、AとBの両方です。
反対に見える人がいるなんて信じられないと思うかもしれませんが、自分の肌の色によって見え方が変わることが実験でわかっています(*1)。
日本人の多くは『A. 白地に黒いシマ』だと答えます。しかし、黒色人種など肌が黒い人は『B. 黒地に白』という人が多くなります(日本人でも少数ですが、5〜10%くらいはBと答えます。日焼けしたサーファーや、肌が黒い人と結婚した配偶者などもいました)。
私達は同じものを見ても、肌の色で異なる世界を見ている可能性があるのです。
脳のバイアスが世界の見え方に影響する
このことを私は脳のバイアス(専門用語で認知バイアス/アンコンシャスバイアス)と呼んでいます。バイアスとはもともと「偏っている考え方」という意味。脳のクセのようなものです。
例えば、有名なものに「注目バイアス」があります(*2)。これは、注目したものばかりが目に入ってくるという脳のクセで、例えば、目の前に鼻毛が出ている人がいると、鼻毛ばかりが目に入ってきて、話の内容が入ってこないことはなかったでしょうか?
これは脳が「鼻毛」に関心を持つと、注目したものばかりが目に入ってきて、それ以外のものが見えなくなってしまう現象です。
それと同じように、私達は注目するものが人それぞれ異なるため、同じ場所にいても100人いたら100通りの世界を見ているのです。
にもかかわらず、私たちは「自分と相手が考えていることは同じだ」と決めつけてしまいます。これは、「透明性の錯覚」とも呼ばれます。(*3)。
結論から言うと、うまくいかない上司ほど「自分が思っていることは当然相手も感じているだろう」という一方的なコミュニケーションをすることで、Z世代の信頼を失っている可能性があるのです。
脳には3種類のタイプがある
私達はそれぞれ違う世界を見ていますが、その中でも脳のタイプによって見え方が大きく変わってくることが知られています。
例えば、「海」といったとき、あなたはどんなことを思い浮かべるでしょうか?
A. 青い海が広がるイメージ
B. 海辺の波の音が聞こえてくる
C. 潮の香りや空気感を感じる
どれが浮かんでも問題ありませんが、ニューヨーク大学のリースマン博士も提唱しているように、これによって脳タイプの傾向が分かるのです。
Aのイメージが浮かんできた人は、視覚が優先的に働く『視覚タイプ』。
Bの音声が聞こえてきた人は、聴覚が優先的に働く『聴覚タイプ』。
Cの匂いや体の感覚を感じる人は、体感覚が優先的に働く『体感覚タイプ』。
私自身もこれまで2000名ほどの脳タイプを調べてきましたが、視覚タイプ44%、聴覚タイプ18%、体感覚タイプ38%という結果が出ています。ちなみに、視覚+体感覚などの融合タイプもあります。
一緒にディズニーランドに行って『アトラクション最高だったね!』と言っても、「私はパレードの音楽がよかった」「水に濡れたのが楽しかった!」など、自分と意見が違ってガックリくることがあるかもしれませんが、これは脳タイプによって見ている世界が違うからです。
相手の世界を理解することが究極のコミュニケーション
何を言っても分からないZ世代に、イライラする人がいます。
なぜ、相手が行動しないのか? それは相手のせいではなく、もしかしたら上司のせいかもしれません。
なぜなら、相手の脳タイプによって伝え方が変わるからです。
つまり、タイプ別に伝え方を変える必要があります。
■視覚タイプ → 写真やイラスト、全体像を見せる
■聴覚タイプ → 言葉や文章で指示をする。音楽のある場所で雰囲気をつくる
■体感覚タイプ → 説明より体験させる、ジェスチャーで表現する
体感覚タイプの人にいくら説明書を読んでもらっても理解できません。実際に体験したほうが理解は格段に速くなります。だからこそ、相手のタイプを理解して伝えることが大切です。速く話す人は「視覚タイプ」、ゆっくり話す人は「体感覚タイプ」という傾向もあります。
つまり、うまく部下をコントロールできる上司ほど、相手の世界に合わせてコミュニケーションをとっているのです。
※続く
<参考文献>
(*1) 西剛志著『なぜ、あなたが思っていることは相手になかなか伝わらないのか?』(アスコム)
(*2) Pool, E,. et.al., “Attentional bias for positive emotetional stimuli: A meta-analytic investigation” Psychol. Bull. 2016, Vol.142(1),p.79- 106
(*3) Gilovich, T., et.al., “The illusion of transparency: Biased assessments of others' ability to read one's emotional states”, J. Personal. Soc. Psychol., 1998, Vol.75, p.332-346
■連載「何気ない勝者の思考」とは……
日常の何気ないシーンでの思考や行動にこそ、ビジネスパーソンが成功するためのエッセンスが現れる。会議、接待、夫婦やパートナーとの関係や子育てなど、日常生活のひとコマで試される成功者の思考法を気鋭の脳科学者・西剛志が解説する。