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2023.06.11

【脳科学者が教える】トップ営業が無意識にやっている超シンプルな会話術

日常の何気ないシーンに現れる成功者の思考法を気鋭の脳科学者・西剛志が解説。今回は、卓越した成果を上げるセールスマンがやっている、たった一つのことについて。連載「何気ない勝者の思考」とは……

勝者の思考

Unsplash/Ruthson Zimmerman

トップセールスマンは、相手によって喋り方が変わる

私は仕事柄、これまでに700人を超える成功された経営者やビジネスマンに会ってきました。そのなかで、卓越した成果を上げる人ほど、ある特徴があることに気づきました。

それが「人を巻き込む力が高い」ということです。

交渉や商談でも、その人が話し始めると、なぜか商品やサービスを魅力的に感じたり、最終的に買いたいと思ってしまう人がいます。営業出身で経営者になる人達も多く、スタートアップの創業者に至っては、何もないところから起業して、数年で何万人もの顧客を勝ち取る人達もいました。できる人ほど、相手を巻き込む力が強かったのです。

「人を巻き込む力はどこから生まれるのか?」その秘密について今回はお伝えしたいと思います。まずはこんな瞬間を考えてみてください。

【勝者の思考】:目の前に話すスピードがゆっくりなお客さまがいます。周りはイライラしています。そのとき、あなたはどうしますか?

A. 自信を見せるために大きな声で話す
B. 少し早口に話すことで、相手の気持ちを動かす
C. いつも以上に自分もゆっくり話してみる

業種によっても多少の違いはあるかもしれませんが、どの分野でも共通してトップセールスマンに最も多かったのが『C.いつも以上にゆっくり話してみる』というパターンでした。

トップセールスマンというと、強気で自信に溢れていて「商品やサービスを売りつける」というイメージがある人も多いかもしれません。実際に米国のリサーチでは、44の職種の中で社会的にイメージが悪い職業としてセールスマン(営業職)がワースト2位に挙げられています (*1)。

しかし、私がお会いしたトップセールスの方々は、皆、逆で、全く押し付けない人ばかりでした。むしろ、こちらの立場を理解しようとする思いやりがあって、役立つ情報をたくさん提供してくれました。米国の保険のセールスの研究でも、知識だけでなく相手に親切にする人ほど、保険の契約数、収入、ノルマの達成額がそれぞれ高くなるという報告もあります(*2)。つまり、知識があって思いやりにあふれる人がトップセールスを達成している人だったのです。

なぜこんなことが起こるのか?

その1つは、脳の性質「プライミング効果」が深く関係しています。
プライミング効果とは、最初に触れた情報が、無意識の意思決定に影響を与える脳の性質です(*3)。

例えば、「相手を信頼できる」と思うと、脳は「商品も信頼できる」と認知してしまう傾向があります。広告で好きな有名人が出演すると、商品やサービスを購入してしまうことが知られていますが、これもプライミング効果です。実際にアメリカの研究では、製品の購入を決めさせる力は、製品そのものの良さよりも、社会的な結びつきのほうが2倍も強いことまで示されています(*4)。

また、ペンシルべニア大学のリサーチでは、人は、多くの親切な行為などを通して相手への信頼感が高まると、いつもより大胆な提案をされても受け入れやすいことが分かっています(*5)。

つまり、「相手への信頼感」=「セールスに直結」という構図が、多くのリサーチによって科学的に証明されてきているのです。

そして、この相手への信頼感は、親切なことをしなくても、日常の些細な会話のなかでも実現できます。

その1つが、『相手のスピードに合わせて話すこと』なのです。

私達の脳は、自分と違う人よりも、共通点を持つ人に信頼感を感じやすい性質があります。

例えば、同じ高校・大学出身だったり、出身地が同じだと話がはずむことはないでしょうか? これがまさに『共通点が信頼を生み出す効果』です(*6)。

動物でも同じことが言えますが、自分と違う外見や鳴き声をする同じ大きさの動物に対して、同種ではないことから、捕食されないように「敵だ」と警戒します。それとは逆で、同じ要素を持っている相手には安心するのです。

実際に、保険の契約者と担当セールスマンの関係を大規模に調べたリサーチでは、「宗教」「喫煙の習慣」「年齢」など、お互いに似ている部分があると、保険の契約率が高まることがわかっています(*7)。つまり、私達は似ている部分がある人を信頼し、その結果、購買にまで影響を及ぼすのです。

高級車が飛ぶように売れる人の秘密

私の知り合いに、ある高級外国車のトップセールスに17年連続で輝いているすごい男性がいます。ある日、女性のお客様を紹介した際に、驚いたことがありました。

その女性は、ゆっくり話すタイプでしたが、セールスの男性の話し方がいつもと微妙に違うのです。明らかに私に話すときよりもスローでした。

そして、1時間もしないうちに1000万円を超えるスポーツカーの購入が現金即払いで決まりました。提供する情報や知識もさることながら、会話のなかで相手に合わせる何気ない思いやりが、顧客との信頼関係を高め、それがセールスに直結していた瞬間を間近で見ることができました。

売るために話すのではなく、信頼を増やすために話す。これがビジネスの鉄則です。

話し方は、私達の想像を超える効果を人間関係やセールスに及ぼします。次回はこの続きをお伝えしたいと思います。

過去連載記事

脳科学者・西剛志「勝者の思考」

西剛志/Takeyuki Nishi
脳科学者(工学博士)、分子生物学者。武蔵野学院大学スペシャルアカデミックフェロー。T&Rセルフイメージデザイン代表取締役。東京工業大学大学院生命情報専攻修了。2002年に博士号を取得後、特許庁を経て、2008年にうまくいく人とそうでない人の違いを研究する会社を設立。子育てからビジネス、スポーツまで世界的に成功している人たちの脳科学的なノウハウや、大人から子供まで才能を引き出す方法を提供するサービスを展開し、企業から教育者、高齢者、主婦など含めて1万人以上に講演会を提供。メディア出演も多数。著書に『世界一やさしい 自分を変える方法』『なぜ、あなたの思っていることはなかなか相手に伝わらないのか?』『80歳でも脳が老化しない人がやっていること』など海外を含めて累計31万部突破。

<参考文献>
(*1)Frank, Robert H. "What price the moral high ground?", Southern Economics Journal, 1996, Vol.63 (1), p.1-17
(*2) Philip, M. et.al., "Organizational Citizenship Behaviors: A Critical Review of the Theoretical and Empirical Literature and Suggestions for Future Research", Journal of Management, 2000, Vol.26, p.513-563
(*3) Bargh JA. “Automaticity of social behavior: direct effects of trait construct and stereotype-activation on action” J. Pers. Soc. Psychol. 1996, Vol.71(2), p.230-44
(*4) Frenzen, J.R., & Davis, H.L. “Purchasing behavior in embedded markets”, Journal of Consumer Reserch, 1990, Vol.17, p.1-12
(*5) Adam, M. et.al., "Getting Credit for Proactive Behavior: Supervisor Reactions Depend on What You Value and How You Feel", Personnel Psychology, 2009, Vol.62, p.31-55
(*6) Block, P. & Grund, T. “Multidimensional Homophily in Friendship Networks” Netw. Sci. (Camb Univ Press), 2014, Vol.2(2), p.189-212
(*7) Evans, F.B., “Selling as a dynamic relationships: A new approach.”American Behavioral Sceintists, 1963, Vol.6(7), p.76-79

■連載「何気ない勝者の思考」とは……
日常の何気ないシーンでの思考や行動にこそ、ビジネスパーソンが成功するためのエッセンスが現れる。会議、接待、夫婦やパートナーとの関係や子育てなど、日常生活のひとコマで試される成功者の思考法を気鋭の脳科学者・西剛志が解説する。

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連載
何気ない勝者の思考

日常の何気ないシーンでの思考や行動にこそ、ビジネスパーソンが成功するためのエッセンスが現れる。会議、接待、夫婦やパートナーとの関係や子育てなど、日常生活のひとコマで試される成功者の思考法を気鋭の脳科学者・西剛志が解説する。

TEXT=西剛志

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