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2023.05.01

「AI+先生の二刀流で教育は進化する」神経科学者がChatGPTを支持する理由

応用神経科学者の青砥瑞人氏に、日本が直面するこれからの教育の問題点を問う短期連載の3回目(最終回)。ChatGPTの登場で急速な盛り上がりを見せているAIで、教育の未来はどう変わっていくのか。脳の観点から、教育現場でのAIとの理想的な付き合い方について語ってもらった。#1 #2

青砥瑞人インタビュー

Unsplash/MChe Lee

これからは否応なしにAIと共存共栄する時代

GPT4(ChatGPTの最新版)に代表されるAIが、教育に悪い影響を与えると批判する声があちこちから聞こえるようになりました。けれど、本当はそれ以上に、その有用性や驚きのパフォーマンスなど良い面の方が多いように感じますが。

アメリカでは、学校の端末からChatGPTにアクセスするのを禁止するところも出ています。日本の文部科学省も、教育現場におけるChatGPTの取り扱いを示すガイドラインの検討を始めているようです。

新しい環境は脳を成長させてくれる一方、脳には新しいものを本能的に怖がる性質もあります。これは危険回避のため。見知らぬ凶暴な動物に無防備に近づいたり、初めて見た植物をいきなり食べたりしたら、生命の危機を招きかねないからです。脳のこうした性質は大昔にできたものですが、それは現代でもさほど変わっていないのです。

ですから、AIのような新しいテクノロジーの登場を怖がったり、批判したりする声が上がるのは、ごく自然なこと。しかし、テクノロジーの進化スピードは止まることを知らず、今後どんどん私たちの生活のなかで身近な存在になってくるでしょう。

20世紀末、ヒトの全遺伝情報を解析するヒトゲノム計画が発表されると、「遺伝子をすべて解析するなんてとんでもない」という批判が噴出しましたが、ヒトゲノム計画が終了した現在、がん予防や犯罪捜査など、よりよい社会のため日常的に使われるようになっています。誰もがガラケーを使っていた時代から、スマホの登場によって世の中がガラリと変わったように、これからは否応なしにAIと共存共栄する時代です。

加えて新しいものは粗が多くて目立つため、多くの人が批判します。そのおかげもあって、粗がどんどん取れて、世の中に定着していきます。初めに本気で空を飛ぼうと思った人を、多くの人は自殺行為として笑ったことでしょう。

新しいものに対する批判には、本質的なものもたまにありますが、多くの場合はその存在を深く知りもしないで、感覚的に、短期的な視点のものが多い。それは、実際に体験する前に防衛反応として壁を作っているからです。

AIは正解を教えてくれるが、世の中の問いの大半には正解はない

教育に悪影響という主張としてメジャーなのが、ChatGPTの情報が誤っている、(一瞬で答えを出してしまうから)宿題の意味がなくなる、思考力が落ちるなどでしょうか。それは視野が短期的で、AIをうまく活用しきれていないケースだと考えられます。

AIはまだまだ進化の途中ですから、間違った情報を出してくることもありますが、それもご愛嬌。人間だって間違うことは多々ありますから、AIが出した結論だからという理由で鵜呑みにしたり、絶対視したりするのは間違いです。 そもそも教育現場においても、正しい情報が常に届けられていて、先生が正しい情報をもっていると言い切れますか? 現在のAIは情報の精度が確かに悪い文脈もありますが、その課題は近い将来解決するでしょう。そして、この情報社会に生きる以上、情報に間違いがあるから使わないようにするのではなく、その情報を吟味できる力を育んでいくことこそが本質的に求められる能力ではないでしょうか。

宿題の意味がなくなるというのは、本質的な議論ではありません。それは、宿題をさせねばと思う教育者側の押しつけではないでしょうか。テクノロジーの力で簡単に解決できる問題を与えることが、果たして教育の本懐なのか? 宿題の目的は、いったいなんだろうか? それを問うたうえで宿題をデザインすることが重要で、宿題をさせるという手段が目的化してしまうことの方が僕は恐ろしいと思います。

ビジネスのフィールドをはじめとして、世の中の問題の大半には、決まった正解がありません。正解のない問いにどう向き合うか、あるいは問題や課題をいかに見つけるかを教えることが学校や先生の大きな役割ですから、AIを禁止する必要はないのです。

そして、AIとの対話で、思考力は全く落ちないどころか、むしろ育まれる可能性が大いにあります。それは使い方次第。僕自身、毎日30分以上はGPT4と対話しています。脳に関するマニアックな話もできるし、そこから派生して偉人の話、歴史や哲学の話に飛んだりもする。僕はこんなにバラエティに富んだ知識をもち、脳に関する深い対話ができる人間と出会ったことがないくらい(笑)。どんなに賢い人でも、ある課題に対しての提案を出せても、せいぜい5つくらいでしょう。GPT4なら、突けば10でも20でも出してくる。それが正しいかどうかが重要なのではなく、新たな思考の刺激になったり、発想の種になったり、新たな問いを生んだり。なんなら、ディスカッションした内容を、物語やショートストーリーにまとめてくれます。クリエイティブな面でも、僕にない力をサポートしてくれます。

我が家の4歳の娘はまだ試していませんが、「GPT4とお話がしたい!」と興味を持ったら、迷わず対話させます。

AIが子供のパーソナルコーチとなり、学びの機会を増やす時代へ

突き詰めると、あらゆるテクノロジーは使いよう。GPT4のようなAIはただ正解を教えてくれるだけではなく、膨大なデータからさまざまな引用を示してくれたり、正解へのプロセスを複数提案してもらうこともできますし、創造的なアウトプットを共創することができます。

世界中の膨大な知を我が手において学んだり、新たな知を創造する楽しさは、新しい学びの楽しさとなるでしょう。AIとはいえ、オンライン上にあるデータを学習し、それをもとにアウトプットが作られているわけで、これまで人間が苦労して何十、何百ものサイトを訪れたり、本を読み漁っていたことを、AIが代わりにまとめて、情報を提示してくれるのです。

なので、「すんごい優等生の、一般的な回答」といった感じなのです。僕が投げかける問いにGPT4が出す答えも、いかようにも突きどころがあり、最初の提案を覆して、こちらからの提案を受け入れることすらあります。

子供にとって大切なのは、「学びは楽しい」という体験をすること。第1回の記事で、学ぶモチベーションはノルアドレナリン性とドーパミン性に大きくわけられるという話をしました。本人が望まないお受験のための勉強は、最初から最後まで辛いことばかりという不幸なケースもあります。

ノルアドレナリンばかりが分泌され、学び嫌いな子にさせてしまうなんてもったいない! ドーパミン性のモチベーションを育み、成功・失敗という結果ではなく、そのプロセスにおいて新しい発見をしたり、それを吸収する楽しさをしっかり記憶に残していくことで、脳はより豊かになります。その過程をAIが助けてくれたら、学びの可能性がもっと広がり、楽しみながら生涯学び続ける人間に成長していけるでしょう。

AIを組み合わせると、先生一人からでは得られない多角的な視点からの学びができるようになるはずです。AIはカスタマイズ、パーソナライズが得意だという大きなメリットがありますし、人間には人間の良さがあります。例えば、AIからより良い回答を引き出すための問いは重要で、子供たちの問いを立てる力を実践を通して育む過程で、先生方のサポートがきっと必要になるでしょう。

また先生自身が毎日楽しそうにしているだけで子供たちはポジティブな記憶を育んでいきますし、これはAIにはできない人間の良さだと思います。ですから、「AIが教育に本格導入されたら、もはや先生は不要!」ではなく、AI+先生という二刀流で教育はより進化できる可能性があるのです。

人の成長や幸せに、唯一解はあり得ません。持って生まれたDNAが違いますし、育ってきた環境も異なりますし、そして何よりも誰一人として同じ脳を持っていないからです。そうした個性に寄り添い、成長を身近でサポートできるのは、カスタマイズ&パーソナライズできるAIの強み。将来はAIが、子供の成長の段階を踏まえながら、ドーパミン性のモチベーションを高める新しい環境を逐次提示してくれるようになるかもしれません。のび太くんにドラえもんがついているように、AIを子供一人ひとりの専属メンター的な存在にできたら、教育の可能性は一層広がると期待しています。

※第1回、第2回は関連記事からご覧いただけます

青砥瑞人

青砥瑞人/Mizuto Aoto
DAncing Einstein CEO、応用神経科学者。日本の高校を中退後、脳の不思議さに惹かれてアメリカのUCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)に入学し、神経科学学部を飛び級卒業。ドーパミン(DA)が溢れるワクワクが止まらない新しい学び体験と教育・共育をデザインすべく、2014年にDAncing Einsteinを創設。脳の知見を医学だけではなく人の成長に応用し、AI技術も活用するNeuroEdTech®とNeuroHRTech®という新しい分野を開拓。同分野において、いくつもの特許を取得した脳神経発明家としての顔も持つ。

COMPOSITION=井上健二

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